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肩甲上腕関節の”安定性”に着目した評価の基本

整形外科に勤めていたり、運動器に関わるセラピストの中には、肩関節への介入に苦手意識を持つ人は多いのではないでしょうか。

肩関節の介入に対して一定の自信を持つためには、肩甲上腕関節関節を状態を適切に把握する手技を身につけることです。

肩関節の介入は、小円筋を緩めるだけでは改善はありません。

今回は、肩甲上腕関節の状態把握をするために必要な知識と手技を解説します。とても重要なことを解説します。

肩関節に関わるセラピストの方々には、ぜひ知ってほしい内容です。

それでは、行きましょう。


🔶肩甲上腕関節を診る上で重要な2つの言葉

この記事の重要なトピックは、肩甲上腕関節関節の状態をいかに評価するかです。その上で重要になるのが、「安定」と「スリップ」です。

肩が動くということはどうゆうなのでしょうか。

それは、肩甲上腕関節が”安定”していること、つまりスリップが起こらない状況が保たれていることです。

ここまでで、「安定化」と「スリップ」という言葉が出てきました。まずはこの2つのワードがどうゆうことなのかを解説します。

🔶3段階の肩関節の安定性について

肩は上腕骨頭よりもかなり小さい関節窩の上を自由に動けるという観点で、高度に安定していると考えられます。

そもそも、力学の世界の”安定している”とは、運動の方向と速度が一定である状態を指します。これは、止まっていることはもとより、動いている場合でも、方向と速度が一定なら安定しているということになります。

肩関節にはこの安定を保つことが重要であり、安定が保たれているからこそ大きく腕を動かすことができるんです。

肩関節はどうやって安定化しているのかというと、3つの安定化機構がその役割を担っていると言われます。

♦︎第1の安定性

第1の安定性とは、骨の形状や関節唇などで作られる一番基本となる安定性のことをいいます。

例えば、ゴルフボールを置いたときの運動から第一の安定性を考えてみます。2つの条件を比較することでわかることあります。①テーブルの上にボールを置いたときの運動、②醤油さしみたいなお皿の上に置いたときの運動で比較してみましょう。

①の場合は、ゆっくりおくとその場に止まっているかもしれませんが、少し押すとその時点で動き出し、一定の距離の転がってしまいます。

②の場合は、お皿に真ん中に置いてあるボールを押したとしてもお皿の中を行ったり来たりしながら最終的には最初の真ん中に戻ってきます。

①と②の違いは、元の場所に戻ってくるかどうかです。

関節窩と上腕骨頭の関係も、②の条件に近いです。つまり、関節窩の上で上腕骨の多少動かしても関節窩の最初の接触面に戻るため、関節窩と上腕骨の位置関係はあまり動いていない、つまり力学的に安定していると言えます。

一般的にこの角度の限界は43°ほどと言われています。

♦︎第2の安定性

第2の安定性は、関節包による補完機能です。

第1の安定化機構で43°以内の運動では、ある程度求心性を担保することができていました。しかし、日常生活の中では、それ以上の動きが必要になる場面で出てくることは容易に予想できます。

この時に活躍するのが、関節包です。

関節包は関節窩縁に付着し、約60°の角度で走行すると言われています。この角度を有することで回旋や水平面上での運動が起こった時に発生する張力が骨頭に求心力を与えてくれます。

ポイントとしては、水平面の運動と回旋運動で少し役割が変わることです。
👇は回旋運動(左)と並進運動(右)の関節包に生じる張力を図解したものです。

張力は、関節包が伸ばされたものに対して元に戻ろうとする力のことです。この図からもわかる通り、回旋と並進で関節包が伸ばされる方向に違いがあることがわかります。伸ばされる方向に違いがあれば、当然張力の方向も変わるわけです。

回旋の場合は、関節窩に対して比較的に角度がつくように引っ張られています。そのため発生した張力をX軸とY軸それぞれに分解すると、関節窩に骨頭を押し付けるような力が大きくなることがわかります。

それに対して、並進運動では関節窩に対してあまり角度がつかない方向に伸ばされています。これにより発生した聴力を分解すると、逸脱した骨頭を関節窩の中央に戻すような力になることがわかります。

これらの作用が関節包の重要な機能になります。

♦︎第3の安定性

第3の安定性は、肩甲骨や腱板などの関節外部の要素になります。

前提として、第3の安定化機構は第1および第2の弱点を補うために存在するものです。どんな弱点かというと外力に脆いということです。

第1の安定化機構で解説した、関節窩面に対して43°というのは生理的な範囲で運動を行われるときに無意識的に働くことができます。しかし、一旦大きな外力にさらされると、剪断力などは大きくなり途端にこれらの安定化機構が効力を失って破綻してしまうんです。

この外力による破綻から肩を守ってくれるのが、第3の安定化機構になります。

肩甲骨はショックアブソーバー的な役割を果たします。わかりやすいイメージで行くと、前方脱臼が懸念されるようにシチュエーションです。

肩甲上腕関節に強い水平外転方向の外力がかかった時、肩甲骨が内転方向に動くことで衝撃を吸収したり、肩甲上腕関節内での水平外転の角度を減じてくれることで第1および第2の安定化機構が機能するようにしてくれます。

もう一つが、腱板の作用になります。

前方リーチしている腕に対して手掌部に後方ストレスを加えた時の反応を👇に図解しました。これは棘下筋の作用を示しています。

腕の後方ストレスを与えると、肩甲上腕関節には後方に脱臼する方向に力がかかります。ただ、このままでは困るので、適合性を担保するために棘下筋が活動することで、骨頭を関節窩に押し当てる力を作り出しています。

この作用が大きくなりすぎると、損傷したり痛みにつながったり、と病態に発展するんです。

🔶逆に不安定な状況とは何か

ここまで、肩が安定しているとはどうゆうことか、を解説してきました。裏を返すと、肩が不安定になると状況としては不適切と言い換えることもできます。

肩の治療を進める上では、不安定性とは何かを知っておくことも重要です。

♦︎skid slipとは

先に押さえておくべきは、ここまで紹介してきた第1および第2の安定化機構の破綻、すなわち関節唇や関節包などとった関節構成体の損傷などによる不安定性の出現です。

もう一つ抑えてくべきなのは、第1〜2のような受動的な機能ではなく、第3の安定化機構のような腱板の機能不全から起こるものです。

ここでは、skid slipというものを紹介します。

Skid slipは、自動運動時に関節窩上で生じる上腕骨頭の不整なブレのことです。以下の図を見てください。この図は肩甲上腕関節を前方から見た図です。

円の中心にある「・」は上腕骨頭の中心と考えてください。この点はInstant Centerと命名されています。安定している肩というのは挙上時の下降時もこの点の位置はほとんど変わらないか、X軸1mm以下です。

しかし、不安定な肩を観察すると、挙上や下降時にこの点はX軸方向に1-2mm程度偏位すると言われています。

この小さなブレがskid slipです。

このskid slipは肩甲骨の安定性や腱板の機能不全が原因となって起こります。この小さなブレが周囲の組織にダメージを与えて損傷に繋がります。

♦︎凹凸の法則の解釈

このskid slipを見て、「じゃあ、凹凸の法則ってどうなるの?」って思う人がいると思います。

養成校時代から凹凸の法則を叩き込まれ、肩の屈曲でいえば下方滑りが生じると条件付けられてきました。だから、屈曲制限がある場合は下方へのglidiing exみたいなものが推奨されます。さらに痛みを伴う制限などはインピンジメント症候群に紐づけられて余計に下方滑りが正当化されます。

凹凸の法則は、あくまでも運動学という学問における話であり、ニュートンの運動の法則にような真理ではありません。運動学はあくまでの他人に現状を伝えやすくするための手段にすぎません。

肩の治療を行う上では、実は邪魔になるんです。

♦︎関節包内運動は必要?

では、凹凸の法則の基本になる関節包内運動はみる必要がないのかというと、そんなことはありません。

解剖学的には肩甲上腕関節における関節包内の骨頭の約2倍程度のスペースがあります。普段は陰圧なのでピタッとくっついているからわかりにくですが。関節包運動はこのスペースがあるかどうかを確認するために必要なのです。

まとめると、肩の運動時に骨頭にすべり運動が起こることが重要ではなく、スペースがあるかどうかを確認するため実施する、が適切な回答になります。

🔶実際の評価の仕方を解説

ここまで、肩が安定しているとはどうゆう状態か、そして逆に不安定な状態はどうゆうことかを解説してきました。

ぼくたちセラピストとして重要なのは、いかにこれらの状況を徒手的に評価できるかです。

次からは、実際の徒手での評価方法を見ていきます。次から解説するのは、ここまで話してきた第1〜第3の安定性機構をベースに見ていきます。

先にお伝えしておくと、必ずしもこの第1〜第3の安定性をベースに考える必要がありません。フローとしてわかりやすいのでこの知識をベースに使っていると考えいただけるといいかと思います。

それは、いきましょう。

🔶第1の安定性を評価する方法

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