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ティール組織について考えてみる

私は外資系企業でオペレーションの責任者をしています。
外資系とは言いつつも、元は典型的な日本企業で、10年ほど前に海外資本に移ったという経緯があり、保守的な雰囲気が残る会社です。外資からの中途社員の比率も年々増加しており、会社の雰囲気やプロセスは、ここ数年で少しずつではありますが変わりつつあります。

組織としては、保守的でリスクを伴う新しい試みには腰が重い人が多く、自らリードしてプランをつくり実行にうつせる人間は少数です。一方で、トップや経営層は外部からの転向者が多く、社員にもっと自主性をもってポジティブに仕事をしてほしいという思いがあり、指示待ち人間や新しい活動に消極的な社員が多い現状に不満があるようです。

私自身、業務プロセスや情報共有の仕組みの改善する立場にいて、組織風土をより自発的なものに変えたいのですが、その難しさに打ちのめされることも多いです。そのような中、上司からフレデリック・ラルーさんの「Reinventing Organizations(日本版:ティール組織)」を紹介されて、とても共感できる内容のものだったので紹介したいと思います。

進化型(ティール)組織とは?

一言でいうと、「会社の目指すべきGOALに向かうために、社員一人一人が自らの意思で活動する組織」でしょうか。
上司の命令や指示ではなく、インセンティブなどの報酬でもなく、自分の内面からでる強い意思とその人の個性を生かしながら目的に向かって行動する組織体です。

ティール組織を考えるにあたって、従来の組織モデルを考えてみましょう。
ラルーさんは従来の組織を次のように分類しています。

衝動型(レッド)……社会秩序を保つために強いボスをもつ。権力的な組織。弱肉強食。(例)マフィア

順応型(アンバー)……ルールに従って活動。階層的で組織的。自分の役割が明確。(例)軍隊、政府機関

達成型(オレンジ)……革新のサイクル、説明責任を重視。馬の前にニンジンをぶらさげる。実力主義。機械のような組織。(例)ウォール街の銀行、MBA

多元型(グリーン)……家族のような組織。マネージャーは部下が働くことを助けるコーチのような存在。(例)サウスウエスト航空、ベン&ジェリー

上の4つの段階を超えた新しいステージとしての組織が「進化型(ティール)組織」です。
人それぞれの個性を重視して、それぞれの存在目的を追求するエネルギーが集まる場所として組織があります。

ティール組織がもたらすもの

「自主経営」、「全体性」、「存在目的」この3つが重要な要素であり、ティール組織がもたらす突破口(ブレイクスルー)です。

自主経営(セルフ・マネジメント)
ティール型組織におけるすべての社員は平等で、階層や権限は存在しません。階層的な命令や周囲とのコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性の中で動くシステムです。

「決裁」を例に考えてみましょう。
組織活動において必要なものが生じた場合、多くの組織は「決裁プロセス」により上司の承認を得る必要があります。金額に応じた決裁者が決められて、複数の承認プロセスが必要な組織では、意思決定までに時間がかかり過ぎたり社員の時間を奪う悪習にもなりえます。

ティール組織だとどうなるのでしょうか?
購入・導入を決めるのは、実際にモノ・サービスを必要とする担当者です。必要とする人が導入効果を検討して、調達先の決定に携わり、さらには銀行からの資金調達まで決めることもあります。

このような組織体になってくると、スタッフ機能(人事、法務、財務、品質管理など)はどうなるのでしょうか?実は、ルール、手続きも最小限にするためにスタッフ機能をなるべく置かないのもティール組織の特徴なのです。スタッフ機能を設けるメリットとしては、効率性向上、管理統制があげられます。しかし、そのメリットは、社員の自主性を(部分的ながらも)奪っているとも言えます。必要な決定権をもつことで、モチベーション高く活動ることにつながります。

全体性(ホールネス)
仕事中のあなたとプライベートでのあなたは同じ自分といえますか?
多くの人が状況に対応した仮面をかぶって生きています。仮面を取り外して、自分をさらけ出して生き生きと働く。ティール組織にとって、会社とは自分自身になれる場所なのです。
「役職名」すらありません。職務記述書や役職からの脱却をすることで自分が何者なのか?を内省する機会が生まれます。

存在目的
会社の「経営理念」や「ミッション・ステートメント」って覚えていない方がほとんどだと思います。たまに目を通すと、きれいごとや理想だらけで現実とのギャップを感じざるを得ないですよね。
「利益を出さない組織は価値がない」という言葉もあるように「理想」よりも「勝利」を重視しがちなビジネスの世界。重要なのは、利益の確保だったり、競合とのシェア競争だったりする。これらの根底には「恐怖心」があります。「今の暮らしができなくなったら困る」、「成績をあげないと降格になって家族に顔向けできない」。従来の達成型組織などはこのような「自己防衛本能」により突き動かされている組織体です。

ティール組織では、利益よりも組織の「使命」に耳を傾けることを重要視する。使命とは、世の中のニーズに答えること、とも言えるでしょう。
競争の概念は見当たらない。利益ですら仕事をうまくやり遂げた時の副産物に過ぎない。ちなみに、ラルーさんはティール組織が浸透した世界では、営利団体と非営利団体の区別がなくなる、とも述べています。

ティール組織をつくるには?

それでは、ティール組織をつくるためにはどうすればよいのでしょうか?

仮に、あなた経営者で新しい組織をゼロから立ち上げるのであれば、軌道に乗せやすい。ティール組織のための方法論やコンサルタントもあるので活用してみるとよいでしょう。また、「助言プロセス」、「紛争解決メカニズム」、「ピアベース」3つの慣行を導入することでティール組織の芽を植え付けることを検討しましょう。

既存組織をティール組織に変えるためには?
あなたが一部署のマネージャーやメンバーにすぎず、部分的にティール組織的な慣行を導入しようとしているのであれば、残念ながらうまいくいかない可能性が高いとラルーさんは言及しています。なぜなら、旧体制の他部署からみると、あなたのチームがうまくティール組織を導入していたとしてもふざけているようにみえて、短期間で終わる可能性が高いからです。確かに、達成型組織や順応型組織の色眼鏡でみると、文化が違い過ぎて理解されないでしょうね。

ティール組織をつくる必要条件として、「経営トップ」と「組織のオーナー(つまり取締役会など)」の二つが、本気でティール型組織を導入したいと思っていることが重要です。ちなみに、業種や組織の大小、地域的・文化的条件は重要ではないらしいです。
とはいっても、会社のトップやオーナーにティール組織の良さ、すばらしさを滔々と説いて変えさせようとするのも難しいのです。そもそも、外から強制されてできるものではないのがティール組織の理念。人から矯正して実行するものではなく、内からの強い思いがなければうまくいかないのですね。

っていうことは、達成型や順応型の組織にいる人には望みはないのでしょうか?
いえ、ティール組織の3つのブレイクスルーのエッセンスを取り入れることで組織を変えることはできます。例えば、社員へ必要な決裁権を与える、どこでも自由に働ける環境(テレワーク)、必要な情報を手に入れる環境をつくるなど自主性を高めるための改革を検討するなど。
特に、達成型組織(実力主義)は既存チームの文脈をうまく生かすことに気をつければ、健全な方向に変えていく方法はうまくいく可能性が高いようです。

情報の透明性

ここまでフレデリック・ラルーさんの「Reinventing Organizations(日本版:ティール組織)」の概要を説明してきました。

メンバーひとりひとりが目的達成のために自発的に考え動くティール組織、理想的ですよね。一歩目を踏み出したいですが、やはり組織を変えることは大きなリスクを伴います。何から手を付ければよいのでしょうか?

私はティール組織の核となるのはメンバー同士の強い信頼関係だと思います。信頼を壊すことの原因の一つに「隠し事」があります。あなたの組織では、情報が必要な時に誰でも入手できる仕組みになっていますか?一般社員はアクセスできない情報や他部署には見せられない情報があったりはしませんか?

信頼関係構築の一歩として、まずは情報をオープンにすることから始めてみてはどうでしょうか。
誰かが知っているのに他の誰かは知らない情報があることで(非公式ながらも)階層が生まれるのです。

このようなことを言うときっと反論はあるでしょう。
「社員がライバル会社に自社の戦略を流したらどうするのだ?」
「給料の平均額や部署間の格差は知られると説得がたいへんだ」
「生産計画が営業チームに伝わると、きっと勝手なことを言ってくるよ」
恐らくは、その反論の中にも十分検討してみる価値があるものもあります。しかし、根拠のない恐怖や思い込みではないのか、その情報がオープンになることで具体的にどのようなリスクがあるのか、一度話し合ってみてほしいと思います。

私も社員からの会社満足度調査の結果を何度か知る機会がありましたが、「会社の目指す方向がわからない(共有されない)」「会社や経営層に対して意見を上げる機会がない」という項目はいつでも上位にありました。信頼関係構築の第一歩として、情報のフラット化は検討する価値があると思います。

情報共有から改革しよう

情報共有において大事なのは「情報の在り処を明確にすること」、「誰でも自由に発言できること」です。

情報の保管場所やルールに関して無頓着な組織は多いです。ファイルやフォルダ名の最低限のルール、古い情報は適時アーカイブする、など基本的なことを見直すだけでも業務効率化、コミュニケーション改善につながると思うので是非考えてほしいです。

また、FAQは社内Wikiやチャットボットなどで人を介在しなくても知ることができる仕組みをつくるのも有効なソリューションです。

「誰もがフラットに考えを発信することができるようにしたい」と考える経営者やマネージャーは多いと思います。会議・ミーティングの改善は今とても盛り上がっている話題です。

従来の会議では、「発言するメンバーが固定されている」、「最終的に声の大きい人の意見が通る」、「議事録がとられていない」、「何も決まらない」など貴重な時間を無駄に消費する非効率で無意味な会議も多くありました。

最近では様々な会議ソリューション、コミュニケーションツールがあります。例えば、「Zoom」やマイクロソフト社の「Teams」、「Slack」、「Chatwork」など。場所を選ばず、話し合いたいときにインスタントにミーティングをセットできるので、例えば自宅から部下と1on1を行ったり、大きな会場を用意せずとも数十人の参加者の勉強会をして録画するなど、地理、時間の制約なくコミュニケーションすることができます。
ツールには無料で使えるものも多いので色々試してみるのが良いと思います。

おすすめのルール

ツールによってそれぞれ使い勝手はありますが、2つおすすめのルールがあります。

1.パブリック化
2.退出の自由

1について説明します。例えば、「Teams」はその名の通り、まず参加者を招待してチームをつくります。それは、部署のメンバーであったり、プロジェクトメンバーだったり様々です。チームを作るときに「プライベート(招待されたメンバーだけが参加できる)」と「パブリック(誰でも参加できる)」を選択できるのですが、基本は「パブリック」でつくるようにしましょう。

メンバー外の参加を許可することで自発的なプロジェクトへの参加意識を高めたり、中途社員が過去の情報にアクセスしやすくなり早いスパンで戦力になれるようになるなどのメリットがあります。

2の「退出の自由」は、チームやスレッドに参加してみたものの自分の興味とは異なるものだった、もしくは自分の力が生かせるプロジェクトではなかった場合などに自由に抜けやすい雰囲気にすることです。

学生時代に部活やサークルに入ったけど、あまり興味が持てないまま卒業まで所属してたとか、幽霊部員になってしまった経験はないですか?一度、参加した組織をぬけるのは罪悪感や後ろめたさもあり、エネルギーがいることなんですよね。

なので、チームやスレッドは自由に退出できる雰囲気を作りましょう。自分の力を生かすプロジェクトを探すために色々のぞいて、試してみるのは必要なことだと思いますが、全て自分にマッチするわけはありません。自分の力を生かせないプロジェクトに所属したままは無駄なので、定期的な断捨離が必要です。中には退出推奨デーを設けている会社もあるみたいです。

最後に

組織の文化・風土を変えることは、とてもチャレンジングな取り組みです。
中途半端な気持ちでティール組織を取り入れようとすると、うまく行かないばかりか組織を壊してしまうかもしれません。

信頼形成がないまま、今までトップダウンの指示やKPIによって動いていた組織から上司や数値目標をとりあげるとどうなるでしょうか?仕事をさぼったり手抜きする社員がでたり、何をしたらよいかわからない社員がでてきて非効率で停滞した組織になってしまうリスクがあります。

自由は享受するが責任を取ることは放棄する人だらけの間違った組織にしないためには、信頼されるリーダーが必要条件となります。リーダーが強い意志をもって改革を実行すること。社員を信頼して自主性や個性を尊重すること。企業の存在目的を明示して共感した社員ひとりひとりの力を最大化するための支援に努めることが重要になってきます。

外資だと数年で別の会社にうつる人が多いですが、直近で転職を考えている人が一時の思い付きや気まぐれで組織改革に着手するのは注意したほうがよいでしょう。会社の風土を変えて、推進する次世代のリーダーができるまでは面倒をみてやるぞ、くらいの強い意志をもって取り組んでほしいです。

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