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逆転の発想でクセのある木を活かす

信州・松本の森には、寒い冬に耐える赤松や唐松といった木が多く植えられてきました。その木を切って、運び出し、製材所に渡す「素材生産」の仕事を続けてきたのが株式会社柳沢林業。代表取締役の原薫さんに、信州の林業の仕事と、その時間感覚について聞きました。


先人が残してくれた木

今井 林業はスケールの長い話だとは分かっていたんですけれども、50年から100年かかると聞くとあらためて本当に長い時間軸の仕事だと感じました。

村上 「人間と木」リズムが違う中で生きているんだなと改めて感じたのと同時に、でもその中でいろんな接点もあるんだなと思いました。その中で原さんからキーワードとして、「今は」とか「昔は」という言葉がところどころに出てきてたと思うんです。人間でいうと最終的に恵として求めるものの価値観が少し変わってきたのかなと思ったんですが、そのあたり、原さんいかがですか。

原 特にこの戦後に、ものすごく世の中が変わってしまったっていうのが一番大きいと思います。それともう一つは、村上さんもおっしゃったように、人間と木の寿命の長さが圧倒的に違うので、昔は孫のために木を植えましょうと言われた訳ですが、自分がいろんな所に出かけて行って、いろんな状態のいろんな年数の木を見ないと、将来を想像できないんです。
そういう意味ではすごく昔を知らなきゃいけない。年配の方たちのお話も聞きに行きましたし、昔を知らないと今がわからないし、将来もわからない。どうしても時間軸が長くならざるを得ない。考える軸がもう自ずとそういうふうになっちゃいます。

村上 今僕らが切っている木であるとか、その種類であるとか、質みたいなものは、おじいちゃん世代おばあちゃん世代の方々が描いた未来、つまり木ととともにこういう風に人間の暮らしがあるんじゃないかっていうその想像の中の木を頂いてるってことになるんですか。

原 そうですね。多分今私たちが切り始めている木は、今は「何でこんなものをこんなにたくさん植えたんだ」と、どちらかと言うと批判的に言われます。たとえば杉は花粉症になるとか、災害が大きくなるとか言われたり、あるいは松系の木もねじれる特性があるので、製材した時に使いにくいと言われちゃって、「なんでこんな使いにくいものを植えたんだ」って言われるんです。ただ当時の人たちは、これが将来子供や孫のためになるんだと信じて、山の上まで必死に背負って植えてくれたんだと思うんですよね。
木を切って子供が大学に行く資金にしたという話は結構最近まで聞くので、木材っていうのはやっぱり価値あるものだって昔の人たちは思っていたと思います。
また信州には「御柱」といって、皆さんもご存知だと思うんですけど、7年に1度のお祭りの時には、山から大木を切り出してきて神社に立てるわけです。やっぱり自然の中の象徴としての木というものもあって、それがたくさん生えてるということは豊かな象徴でもあったんだと思うんです。
人間の都合で過去を批判するのは簡単なんですけど、やっぱりそういう先人たちが将来を思って植えてくれた今あるそのものを、私たちは活かしたいなって思ってるんです。

村上 価値のある木が、残念ながら使ってもらえずに、たくさん残っちゃってることになるんですか。

原 そうですね。うちの会社は「素材生産」という木を切る仕事をしてきました。今はだいぶ減ってはいますけど「木を切ることは自然破壊だ」みたいに思われる方がまだ多いです。
実は日本は植物が生育するにはものすごく恵まれてるところなので、木は植えなくても育つんです。大昔は自然が育ててくれたものを、適切に利用したい時に切り出してくるという森林の使い方もありました。その後には燃料革命までは、ほとんどが燃料として木を切りつくし、浮世絵でもわかると思うんですけど、赤松がポツポツ生えてるような絵しかないように、はげ山が広がっていたんです。木を植えることは災害を防いできたっていう歴史もあって、今は大雨とかがかなり激しく降ったりするので、逆に杉をたくさん植えられたことで災害が大きくなってるんじゃないかっていう見解がテレビとかで言われたりするんですけど、木がなかったらどれだけもっと激しい土砂災害が起きてたのかと考えると、やっぱりこれだけ森林に覆われているって事は、それを軽減することにも繋がってはいるんですよね。だから、やっぱり植えたたからには適宜手入れをする中で、その木を使っていくことが非常に大事になるのかなあと考えてます。

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新しい価値感で木を使う

今井 植えた人たちがどういうメッセージを残そうとしたかは、木を見て考え、それをどう使うかを考えることで受け止めるしかないってことでしょうか。原さんの会社で切る木は、具体的にどういう使われ方をされる例が多いんでしょうか。

原 この辺りの特徴的な樹種として唐松、赤松あとは薪や炭といった燃料に使われていたような木が主にあるわけです。
唐松は天然の状態ではかなり標高の高い、厳しい環境の中で育つ木なんです。そういうところで生育できるような特徴を兼ね備えているんです。たとえば「ねじれる」ということであったり、かなり木が煽られるので、繊維が切れた時にそこを修復し傷を塞いでくれるヤニなどが多かったりします。
ただそういうものを製材するときには、ねじれてしまっては困るわけです。また木を組んだり、ボルトで止めたりするときに、木が割れちゃうとか、ボルトが落ちちゃうのも困ります。またヤニは、今は人工乾燥もされるんですけど、それでもヤニツボというところから出てくるヤニは止めることができないんです。そういう欠点になっちゃうんですけど、でもその木がたくさん植わっているわけです。
じゃあそれを放っておいていいのかって言うと、やっぱりいろいろな災害が起きたりもしてるわけです。じゃあそれを頑張って使おうということで、仲間で「ソマミチ」というグループを作ってるんです。そこに参加する外壁材を作るメーカーさんは、唐松と向き合う事10年で、動くことで密着するような工法で特許を取られていたりします。唐松はすごく強い木なので、湘南エリアにお客さんが多いんですけど潮風にもすごく強いわけです。逆転の発想ですよね、欠点を欠点とせず、いろいろ工夫をしながら外壁材として今流通を増やしています。
 また赤松は、今どんどん枯れまくっているんです。これは今に始まったことではなくて、もう100年かけて長崎から西日本をずっと北上してきて、今は信州あたりが最前線になっていて、松枯れ現象で枯れてしまった木があるわけです。みなさんはブルーチーズって食べられますよね? あれと同じような青っぽいカビがつきます。これは害があるわけではないです。
 昔から「神代」っていう木があるんですが、それは長い間、何らかの原因で土の中に埋もれていた木が発掘された木のことで、すごく高値がつくんです。神代は土の中にあって腐るっていうよりは色々な微生物とかの作用によって、青カビに近いような色がついたりするんです。あるいはちょっとグレーになったりして、すごく高値で取引されるんです。
一方、立ち枯れのように枯れてしまった赤松は「青」と呼ばれて、業界では買い叩かれるか買ってもいただけない木になっちゃうんです。
  でもどっちだって自然が作り出した色合いなんじゃないのかなと考え、私たちはあえてその色のついた赤松も、赤松の一部だとして製品にして販売しようとしてたりします。最近はやっぱりそれが面白いねっていうことで、いろんな方たちが使ってくれ始めてはいるんです。

村上 普通に何も人間が考えなければ、その癖のあると言うか素直じゃない木は、そのまま使われなくなっちゃうっていう前提のもとに、違う価値を発見していったりするというのが今なんですか。

原  昔は大工さんが木を見れたんです。ねじれる木も、どっちの方向に、どうねじれるからこういうふうに組んで、動く前に固めてしまえばいいというように、材として使えたんです。でも今はそういう技術が残念ながら職人技としてなくなりつつあるんですね。

村上 根本的には、僕らの家がますます工業化住宅というか、材料を一つひとつ見て現場で判断する時間がないんですかね。

原  昔は「山棟梁」と言われたように、山を知らないと家を建てられなかったんです。今そういうのが分業化されて、製材の人たちも林業を知らないですし、私達もだいぶ材木の知識がだいぶ少なくなってます。その辺の分断が木にとって不幸なことになってるかなと思います。もちろん加工度を高めて木を使えるようにするのはいいと思うんですけど、その欠点として加工度が高くなると最終商品は高くなっちゃうので、どこまでも材料を安く仕入れようと買い叩かれちゃうんです。そこがちょっと問題としてはあるかなって思ってます。

村上 先ほど湘南の方で潮風とかにも強いから外壁にという話がありましたけど、今までは構造体として梁や支えるものとして使っていたけれども、それが使えなくなってしまい、逆にテクスチャーというか、外壁や内装の見えるところなどに活路があると言うか、使い方がシフトしてるということなんですか。 

原 シフトというか、むしろ板にして使おうと合板以外の活路を見出してきたのが唐松のこの10年ぐらいの話なんです。また最近は板として使うよりは構造で使いましょうという動きもあります。長野県では「信州プレミアムカラマツ」と言って、ちょっと高値で取引できるようなものが出てきているんです。後は今ウッドショックで米松が入りにくくなっています。米松にかわって、まっすぐな梁として使われてたような木材が入りにくくなっているので、太くなった唐松がそういうものに代替えできるんじゃないかと注目され始めています。

村上 太くなってくるとその素直さってとこを超越して、普通に使える素材になるんですか。

原 それも言われます。「ねじれが一周する」といわれます。人間も歳を取ると練れてくるところありますけど。

村上 聞けば聞くほど、生き物ですね、やっぱり。
(文・ネイティブ編集長今井尚、写真提供・吉田亮人)

次回のおしらせ

次回も長野県松本市の柳沢林業・代表取締役の原薫さんに、信州の山で先人たちが育ててくれた唐松、赤松といった木を届ける仕事について聞きます。人の一生をはるかに超えた時間の中で、何を受け継ぎ、何を伝えていくのか聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

すぐに聞く

ラジオネイティブ「逆転の発想でクセのある木を活かす」 は こちら から聞けます。

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