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食に豊かさを与えてくれる友だち、それがふりかけ

愛されているからこその責任

今井 私も以前熊本に行った時に、どんなスーパーに行ってもフタバの「御飯の友」を見かけたんですけれど、食べてる人たちの声は、どういう声が届いているでしょうか。

安部 「昔からよく食べてるよ」っていう話はよくいただきます。私も熊本に来てまだ10年なんです。でもいろんな人とお話しする機会があると、「御飯の友」って言うと「知ってるよ、昔から小さい頃から食べているよ」とか、あとはお子さんをもつお母さん世代の人から「子供が白いご飯だけじゃ食べないんだけど、これをかけると食べるんだよね」とか、そういう声をよくいただきます。ありがたいことです。

村上 熊本の方々にとって「御飯の友」はふりかけの中でもやっぱり別格というか大事な存在なんですか?

安部 別格だと嬉しいなと思いつつ・・・「各家庭に1個あるんでしょ?」という声もいただいたりします。私がこういうのもおこがましいですが、「あって当たり前」というか、そういう感じなのかなって思います。

村上 そうすると、ちょっと味が変わるとお客さんに気づかれてしまう、そんなプレッシャーもあるんですか?

安部 1年に1回もないんですけど、「なんか味が違う」という声をいただくこともありました。意図的には当然変えてないですけど、前回言ったように、いりこも常に均一ではないので、私たちとしてはもちろん均一になるようにいりこを混ぜています。さらに乾燥も機械で熱風乾燥するんですが、季節によって気温も違うし、梅雨と冬では湿度も違う。一定の温度ではできないわけなんです。その時期に合わせて調整する、そこが難しいところなのかなと思います。

村上 本当多分難しいでしょうね。でも皆さんもやっぱりすごいなと思うし、そこまで馴染まれてるというのも凄いなって改めて感じます。フタバさんも別のラインナップも作っていると思いますけど、「御飯の友」があることによって、新商品へは影響しますか?フィロソフィーと言うか。

安部 「御飯の友」は熊本で確立されすぎていて、いろいろ触るのが正直怖いな部分があるんですけど、そこは守っていく部分で、逆に新商品は、私の個人的な思いですけど、その時の流行りとか、ちょっと自分たちが楽しみたいとか、そういうのも入れていくのもいいのかなって思います。

村上 僕自身のことになるんですけど、子供のころ僕は給食じゃなくお弁当だったので、ふりかけが入っていて、毎日のように食べていたんですが、大人になってくると、ふりかけを食べる機会がすごく減ったなという気もしているんですけど、購買層という意味ではどうなんですか、フタバさんのお客さんは。

安部 お子さんがいるご家庭がやはり多いです。あとは年配の方ですかね。だからちょうど30後半から50前半ぐらいが、ちょっともしかしたらスポっと抜けているような感じかなという気はします。

村上 それ、なぜなんでしょう。業界の皆さんは、どういうふうに皆さん考えているんでしょう。

安部 私も高校まではよく食べてたんですよ。でも大学生になって一人暮らしを始めて、まあ好きなものしか食べないんですよね。社会人になっても、まあそうですね。食べる機会がなくて。でもこの仕事を始めてから、職業柄食べるようになった。それプラス、子供が出来て、子供に食べさせるということなので、やっぱりライフスタイルによって変わってくるんじゃないかなって思いますね。

食事の「名脇役」が与えてくれること

村上 これは僕の勝手な思いでしかないんですけど、ふりかけって、何かについてくるもの、子どもの頃であればお弁当に母親が入れてくれて喜んでかけてたというように、今でもお子様ランチにふりかけがそえられていたりとか、「添えられてる」っていうイメージで、そういう立ち位置にあるような感じがするんですけど、いかがですか。

安部 正直、やっぱりメインにはなれないかなって思ってるんです。ただ、あると嬉しい、名脇役というか、そういった立ち位置かなと思ってます。ですので、あると嬉しいなって思ってもらえるようなふりかけをいろいろ出せるといいなと思ってます。

今井 子供のころに食べた味って一生忘れないですよね。大人になってもふとそれを食べると、まるで地元に帰ってきたかのような、ふりかけの味は、何かそういうものにつながるのかなと思いました。

村上 ふりかけは名脇役だっていう言葉をいただいたんですけど、ぼくもまさにそうだなって思うんですが、僕の経験と重なって大変恐縮なんですけど、僕はミッションとして、長期の火星を模した閉鎖実験とか、南極の観測基地とかに行くことがあって、その時にふりかけを持っていったらすごく重宝したっていう思いがあるんですね。名わき役であるとともに、お母さんとかからしたらお助けツールなんじゃないかなっていう気がすごくしているんです。

なぜかというと、閉鎖空間の中での食事って、そんなにバラエティがあるわけじゃないんですよね。例えば僕が、毎日食事を準備する食料調達係だったとすると、食事が貧相だと僕に文句が来るんですよ。僕のせいじゃないし、これしかないんだからしょうがないことなんですが、それでも僕に文句が来る。そんなときにサッとふりかけを置くと、なんか自分で選べるし、真っ白いご飯の上にちょっと彩りが添えられるわけじゃないですか。そういうことだけで、同じご飯でも全然違う。僕からすると「ふぅ、今日もかわせたな」という感じで、ふりかけに助けられたイメージを感じることが多いなと思っているんです。どうですか、僕の話で恐縮ですが。

安部  確かに「お助けツール」っていう意味では当たってるんじゃないかなと思います。さっきもお話ししたように、うちの子供も白いご飯だけじゃ食べないのに、ふりかけをかけてやると、なぜか食べるんですよね。村上さんの言う「選ぶ楽しさ」って、子供でも大人でも一緒なんじゃないかなって思っています。ふりかけに限らずですけど、選べるというだけで、なんか気持ちがちょっと高ぶるのはあるかなって思います。

村上 あと、名前が「ふりかけ」じゃないですか。「振って、かける」っていう通り、ふりかけているこの瞬間が、実は醍醐味のひとつじゃないかなと思うんです。あと、ご飯が絶妙だと思うんです。白いキャンバスの上に色がつく。もしご飯が白じゃなかったら、ここまで相性が良かったかどうかとも思います。最後に自分もひと振り、料理を作っていっているみたいな、ちょっと極端に言い過ぎかもしれないですけど、少なからずそこが根っこにある気もするんですが、言い過ぎですかね。

安部 そう思ってかけていただけると、作り手としては非常に嬉しいですね・笑

商品

村上 そういう意味では、いろんな色も混じってると思うんですけど、そういう見た目とか、分量とか、振った時のサラサラ感とか、そういったところもこだわってたりするんですか。

安部 まずは味の部分ではあるんですけど、ふりかけもいろんな材料を使うと、比重の関係で分離したりするので、ちゃんと混ざった状態がキープできるようにとかは考えます。あとは先ほどの「彩り」ですね。弊社に「花ちりめん」という商品があるんですけど、いろんな野菜のフレークが入っていて、見た目がすごく綺麗なんです。それを白いご飯にかけると、すごい「映える」って言っていただき、私はあまりSNSはしないんですけど、お客さんからお弁当にかけたらすごく綺麗だとかっていう声をいただいたりはします。

村上 そういうところ、重要ですよね。やっぱり色とか。あと、名前なんですけど、ふりかけって言ってますけど、これはどうなんですか。

安部 「ふりかけ」という言葉自体は、昔はなかったんです。弊社の「御飯の友」というように、「〇〇の友」っていうのが、ふりかけの名前だったみたいです。今でも広島の方の会社さんで「旅行の友」っていう商品もありますし、昔は「露営の友」とか、そういったのがふりかけの名前についてたみたいなんですね。

村上 友という目線で言うと、やっぱりご飯ありきなんでしょうか。ご飯をターゲットに考えているのか、別にご飯だけじゃないのか、どう思って作ってらっしゃるんでしょうか。

安部 当時のことを考えると、やはりご飯がメインではあったのかなと思いますけど、お米の消費量って十年前からするとすごく減ってきているんです。ただふりかけ全体の売上って、そんなに減ってないんです。比例して減ってるわけじゃなくて、まあ維持か、ちょっと減ってるかなぐらいな感じなんです。
そう考えると最初のご飯にかけて食べるスタイルから変わってきてるのかなと思います。ご飯じゃなくて、パンでもいいし、サラダでもいいし、いろんなものにふりかけるっていうスタイルが少しずつ増えてきているから、そういう現象になってるんじゃないかなって思いますね。

今井 ふりかけって味を与えるだけじゃなくて 、楽しさを与えるだとか、色だとか、選択だとか、美しさだとか、いろんなもの与えてくれる「友だち」というのが本当にしっくりくる言葉だなと聞いていて思いました。

(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 株式会社フタバ)


次回のおしらせ

ご飯にかけるだけで食の楽しみが一気に広がる「ふりかけ」。もともと、カルシウム不足を補うために熊本の薬剤師によって考案されたものでした。以来、100年以上にわたり「元祖ふりかけ」の味を守るフタバ代表取締役の安部直也さんに、「変えないために代わり続ける挑戦」について伺います。お楽しみに。

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