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仕事を通して意識が変わる。ネパールで起業したブランドの挑戦

国を捨てて海外を目指す

今井 ドキュメンタリーフォトグラファーであり、ネパールでサードアイチャクラというアウトドアバッグのブランドを立ち上げた門谷JUMBO優さんにお話を伺っています。

JUMBO よろしくお願いします、ジャンボです。

今井 前回は、ネパールの抱える問題についてもご紹介いただき、ネパールという国が少し理解できてきたのかなと思っていますが、仕事を通じて出会った職人さん、たくさんいらっしゃると思うんですけれども、思い出深い人だったりありますか?

JUMBO そうですね、それぞれ個性的な面々が集まっているので、みんな思い出深いんですでど、ネパールって出稼ぎの盛んな国なんです。みんなある程度のお金を稼ぎたいけれども国内でちゃんと身を立てられる仕事がないっていう人たちが大多数で、そういう人たちはみんな海外を目指すんです。
海外を目指した後にどうするかというと、単純労働をしてお金をある程度稼いでネパールに戻ってくる人も多いんですけれども、やっぱり目指すところは、海外に自分たちの生活のベースを築き直し、そこに家族を呼び寄せる。もうネパールを捨てて他の国に出てしまうことを目指してる人がかなり多いんです。

そんな中で、海外に仕事の口を求めて出稼ぎの準備をしていたけれども、お金の問題やビザの問題でなどで海外には行けそうにない人が入ってきてくれました。彼が仕事を続けていくうちに、「もう海外に行かなくてもいいと思ってる。ネパールの中で仕事をできることがこんなに誇りに思え、誰にも恥じることなくちゃんと仕事ができるのがすごく新鮮で嬉しい」って言ってくれたことがあって、やっていてよかったなって思いました。

村上 ちなみに彼がサードアイチャクラのドアを叩いたときは、当初、何歳ぐらいだったんですか。

JUMBO 彼は22ですかね。

村上 2015年に大きな地震があって、村が壊滅的になったときに、それでもこの村でずっと暮らしたいんだっていう人たちも多かった。特に年配の方はそうだと思うんですけど、逆に今の話ではどんどん海外を目指していくっていうところに少し僕はギャップがあるような気がしたんですけど、これはどうですかね。

JUMBO そうですね。一つは、現役で体を動かして働ける年代の人たちと、ある程度落ち着きたいって思ってる年代の人たちとのギャップっていうのはあると思います。
ただ全体的に言うと、ネパールの僻地というと、本当に道路環境とか移動環境も悪くて、いまだに大きな幹線道路から何日も歩かないとアプローチできないような村に住んでいる人たちもいるんです。そういう人たちが、現金収入を得ようと思ったときの大変さというのは、本当に筆舌に尽くしがたいというか、ある意味自給自足以外で食べることができない、地理環境に生まれてしまった。そういうハンディっていうのはもう本当にネパール国内でもいかんともしがたいところがあると思うんですね。そういう人たちにとってはやっぱりもう、現金が欲しければ海外に行くっていうのはもう半ば当たり前のような意識でいると思います。

村上 仕事だけではなくて、お金のことをどうしてもやむにやまれずというところだけ抜けば、やっぱりネパールで暮らしたい、ネパールという文化の中にいたいんでしょうか。

JUMBO そうですね。もちろん人それぞれなんですけれども、海外に対する憧れとか、もうちょっとネパールという国自体がまだまだ政情的にも、いろんな意味で落ち着かない国なので、そういったところに対して、疲れというか、失望感を抱いて、こんな国だったら海外に行ってしまいたいっていう、そういう思いを持ってる人もいると思います。
反面、やっぱり自分たちの生まれ育った場所、土地っていうものを大事にするっていう気質もあります。またネパールは、部族社会なので、自分たちの民族、カースト、そういったものを大事にするっていう気持ちもすごく強く持ち続けていて、特に自分の家がある村とか地域に対する愛情っていうのを強く持ってる人たちっていうのは多いですね。

例えば、すごく田舎の人たち、特にお年寄りの人たちって、いまだにカトマンズに行くことを「ネパールに行く」っていうんですよ。彼らの中の意識では、自分たちの住んでるエリアがまた別にあって、そこの外の世界というのはネパール、そういう意識を持ってる人も多いので、地域愛がすごく強い人もたくさん存在しますね。

ただ現実的にお金を稼ぐとか生活をしていくっていう上では、なかなかそこにしがみついていても、特に若い世代の人たちっていうのは、その土地にしがみつくことがもうできないような時代になってるのかなっていうふうに思います。

村上 なるほど。JUMBOさんの自身のことになりますが、最初にこのサードアイチャクラを立ち上げたときに、イーブンでいたい、イコールでいたいというお話もありました。どうですか、設立のときのこうしたかったっていうところは、その一言によってどういうふうに心にあるんでしょう。

JUMBO そうですね、何がイーブンかっていうのはとても難しい問題で、ただお金を彼らに払う。僕が発注者になるっていう立場でやるっていうことが、イーブンかどうかっていうイメージで言うと、僕はすごくイーブンだなと思っています。なぜかというと僕はそのブランドの責任者でありデザイナーなので、僕自身がしっかりとしたデザインを作って、しっかりとした運営をしないと、彼らが生活できなくなる。また、彼らがちゃんとしたものを、ちゃんとした数量を作ってくれないと、僕は僕で事業を運営していけなくなる。そういうとてもイコールの関係でいられる。だからこそこのブランドっていうものを運営し続けてるんだなっていうふうには思ってます。

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仕事を通して技術と自信をつける

今井 経済的にも政情的にも大変な状況にあるネパールの人々。心すらも国を離れようとしてしまってる人もいる中で、ネパールに暮らし続けたいと思う方もいるということで、このビジネスがネパールの光になるといいなと思いました。ところで先ほど22歳の男性のお話を伺いましたが、他にはどんな方がいらっしゃるんでしょうか?

JUMBO そうですねうちの工房では、特に男性女性の区別なく仕事をしたいっていう人を受け入れるようにしています。ただネパールの国自体は、ヒンドゥー教であるとか、カースト制度であるとか、いろんな文化的な背景から、どうしても女性の方が立場が弱くなってしまう、ある意味男尊女卑の風習がまだまだ根強く残っている国なので、女性を受け入れるっていうところは少し力を入れているところではありますね。

村上 実際入られた方でいうと、どうですか、男性ならでは女性ならではとかって感じたりすることありますか。

JUMBO そうですね。もちろん性別差による体力の違いとか、そういったものはあるんですけれども、やっぱり女性の方が全般的に細やかな気配りというか、例えば、出来上がったカバンを検品をして、糸くずが出てないかとか、そういった部分をちゃんと確認してくれるのは女性の方が得意ですし、逆にカバンって材料が分厚いので、なかなか力が必要な場面ってあるんですね。そういったところはやっぱり圧倒的に男性の方が有利です。
作業の性質によって、どの人が何が得意っていうのを分けて考えていくようにしています。

一番最初は、どうしても男性側が「女性にはあんなことできない」とか「頭が悪いから」とか、そういうすごく良くない言葉を使って、女性のことを形容することがあったんですね。

僕自身はそういう言い方はいい気分がしないので、どうやって注意したらいいのかなって悩んでいたんですけれども、例えば実際にこれだけの数をこれだけの期間内で作らなきゃいけないとか、こういう技術をいつまでに身につけなきゃいけないとかってなったときに、いやが応でも男性と女性のミックスで、コンペティションになるわけです。能力差が目に見えて出てくるわけですね。

そういったことを繰り返してると、やっぱり女性の方が得意な分野っていうものが、男性側にもしっかりと見えてくるので、段々段々そういう言葉っていうのが減ってきて、逆にこの作業は、僕らの方が得意だから、僕らやりますと。こっちは女性にやってもらった方が早いし綺麗にできるので、女性にやってもらいたい。そういう前向きな意見が出てくるようになりましたし、それによってやっぱり女性の側も自信がつくというか、この作業だったら私達に任せてくれと。彼らの側からすごく進歩的な言葉が出てくるようになったっていうのがすごく嬉しいですね。

村上 女性スタッフの方もたくさんいらっしゃると思うんですけど、特に思い出に残ってる人いますか。

JUMBO そうですね。うちの工房は、ネパールの首都であるカトマンズの北の方にあるんですけれども、カトマンズの郊外には農村地帯が広がっていて、首都圏であるにもかかわらず、不便な場所っていくつかあるんですね。
その中でも一番うちの工房からすると遠い場所にある南の端にある農村から何人か女性の職人が通ってきてくれていて。

村上 毎日通ってるんですか。

JUMBO そうなんです。最初は毎日通ってたんですけれども、やっぱり夏にトラが出るから怖いっていうことで、何とかその工房に泊まり込めるようにしてほしいって言われて、寮を急ごしらえで作ったことがあって。なんかもう毎日毎朝、工房の掃除から戸締りまで全部やってくれるっていう。そうしてくれるかわりに寮に住んでもいいよっていうシステム作ったんですけど、それによって今までは田舎にずっと暮らし続けてきて、あまり世間のことを気にしたこともないような人たちが、少しずつ仕事に対して意識が高くなるというか、他の職人が遅刻してきたら、その子たちが怒るみたいなのは、仕事に対して新しい意識が芽生えてきてるっていうのが嬉しいなと思って見てました。

彼女たちは今、結婚してレギュラーでうちの縫製の仕事はもうしていないんですけれども、でも結婚したときに、この公募で仕事をしたことで、手に職がついたから、内職をしてミシンを踏み続けたいとか、そういうふうな話もしてくれたので、結果的に何か彼女たちの人生に幸せに役に立ったのかなみたいなとは思った覚えがありますね。

今井 ありがとうございます。ジャンボさん1回目だったと思うんですけれども学校などを作るのはちょっと自分には荷が重いなんていう話をされていたかと思うんですけれども、お話を聞いてるとこの工房でありながら、何かネパールの人たちにとって、まさに学校のような場所になってるのかなっていうことを思いました。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

次回も引き続き、山岳を専門とするドキュメンタリーフォトグラファーでありながら、ネパールでアウトドア用のバッグなどをつくるブランドを立ち上げた門谷 "JUMBO" 優さんにお話を伺います。なぜネパールでアウトドアバッグをつくるのかというお話を通して、ネパールの抱える問題や、門谷さんの向き合い方を聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

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