主権免除について:韓国慰安婦訴訟なぜ日本は控訴しないのか?


国際法上の主権免除

最高裁判所第二小法廷 平成18年7月21日判決 平成15(受)1231
裁判要旨
1 外国国家は,主権的行為以外の私法的ないし業務管理的な行為については,我が国による民事裁判権の行使が当該外国国家の主権を侵害するおそれがあるなど特段の事情がない限り,我が国の民事裁判権に服することを免除されない。
2 外国国家の行為が,その性質上,私人でも行うことが可能な商業取引である場合には,その行為は,目的のいかんにかかわらず,外国国家が我が国の民事裁判権に服することを特段の事情がない限り免除されない私法的ないし業務管理的な行為に当たる。
3 外国国家は,私人との間の書面による契約に含まれた明文の規定により当該契約から生じた紛争について我が国の民事裁判権に服することを約することによって,我が国の民事裁判権に服する旨の意思を明確に表明した場合には,原則として,当該紛争について我が国の民事裁判権に服することを免除されない。

これは、東京三洋貿易株式会社らがパキスタン政府の代理人であるとされる者との間で売買契約や準消費貸借契約をしたと主張して貸金元金等の支払いをパキスタン政府に対して求めた事案です。

東京地裁は原告の請求認容、東京高裁は一審判決取消し、請求却下したところ最高裁が主権免除は制限免除であり、二審判決破棄差戻しをした事案。

国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約

この判例は国家及び国家財産の裁判権免除に関する国際連合条約にも合致(第3部参照)。

日本が控訴しないのは、本件では控訴してもしなくても国際法上の主権免除の立場に影響しないと考えたからと思われます(最初から欠席していた)。

第八条 裁判所における裁判手続への参加の効果
1 いずれの国も、次の場合には、他の国の裁判所における裁判手続において、裁判権からの免除を援用することができない。
(a) 自ら当該裁判手続を開始した場合
(b) 当該裁判手続に参加し、又は本案に関して他の措置をとった場合 ー省略ー

裁判手続に参加したからと言って必ずしも免除放棄にはなりません。

2 いずれの国も、次の (a) 又は (b) のことのみを目的として、裁判手続に参加し、又は他の措置をとる場合には、他の国の裁判所による裁判権の行使について同意したものとは認められない。
(a) 免除を援用すること。
(b) 裁判手続において対象となっている財産に関する権利又は利益を主張すること。
3 国の代表が他の国の裁判所に証人として出廷することは、当該他の国の裁判所による裁判権の行使についての当該国の同意と解してはならない。
4 いずれかの国が他の国の裁判所における裁判手続において出廷しなかったことは、当該他の国の裁判所による裁判権の行使についての当該国の同意と解してはならない。

韓国側の言う「反人道的不法行為」の実態は不存在

そのうえで、今回の韓国裁判所の理屈である「反人道的不法行為」は、国連条約上の主権免除適用外の事由にはなっていない上に、「そのような事実」が日本国の責任に帰せられるべき実態は不存在なので、主権免除を否定する前提を欠いていると言えます。

以上

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