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リツイートしただけで著作者人格権侵害になり得る最高裁判決はネット当たり屋やスパムを生み出す

パクツイをリツイートしただけで著作者人格権侵害になり得る最高裁判決が出てツイッタランドは騒然としているわけですが、この判決の報道がまたいいかげんなので、簡単に事案と判決内容を整理した上で、この判決の今後の影響を展望していきます。

リツイートによる自動トリミングが著作者人格権侵害に

上記でもまとめていますが、最高裁の判決文から事案の概要を書くと以下になります。参考:1審知財高裁

1:プロカメラマンである画像の権利者がホワイトとピンク色の鈴蘭の花の画像を自己のウェブサイトにUP
2:画像上部と下部には権利者の名前と転載禁止の文字が
3:ツイート者が無断で当該画像をツイートに添付(画像自体を編集はしていない)
4:リツイート者がツイート者のツイートをリツイート(画像自体を編集はしていない)
5:リツイート者のタイムライン(プロフィール画面)で画像の上部と下部が自動「トリミング」されて表示(画像自体が編集されたのではなく、表示が一部だけという意味)
6:自動表示だが、それはリツイート者のアカウントページにおいて行われているのでトリミングして表示した主体は元ツイート者やツイッター社ではなくリツイート者と判断された
7:パクツイをしたツイート者は(当然)画像の「著作権」侵害
8:トリミングされた表示は著作権侵害ではないが著作者人格権(氏名表示権)の侵害とされた
9:そのため、ツイート者のみならずリツイート者に対する発信者情報開示請求も認容された

単に「パクツイをリツイートしたから」権利侵害とされたわけではないという点は要注意です。というかこの理屈だとパクツイのリツイートじゃなくても権利侵害になり得ることになります。

インラインリンクによるトリミングの主体はツイッター社ではなくリツイート者

インラインリンク

トリミングして表示した主体はリツイート者」とされることに納得がいかないかもしれませんが、それはインラインリンクというものの性質が関係します。

インラインリンク」とは、「ユーザーの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて、リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいうものとする。」とあります。
参照:電子商取引及び情報財取引等に関する準則 平成29年6月 経済産業省140ページ以下

言葉だけだとなかなか理解できませんが、まぁこの辺とかhttps://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3040 、あとはhttps://www.kottolaw.com/column/001653.html この辺を見てください。

本件に即してざっくり言えば、リツイートされたツイートの表示というのは、元ツイートではなく「リツイートした人のウェブページ上から情報送信の指令が出されている」と技術的には言うことになる、ということです。

それはツイッター社が運営しているページからの送信であるわけですが、今回のような事案においてはリツイート者が主体となって情報送信したと法的に評価された、ということです。この判断が今回の判決で問題視されている点です。

さて、「リツイートによって画像が自動トリミング」って何よ?

という疑問を持つと思うので次項でまとめて解説します。

リツイートによる自動トリミングの例

例えば私が以下の画像付きツイートをしたとします。

リツイート画像の自動トリミング13

URLを見て欲しいのですが、これがこのツイートが掲載されている「ウェブページ」になります。画像も全部が表示されています。

https://twitter.com/Nathankirinoha/status/1285780480214790145が元ツイートの「ウェブページ」です。

次に、これをリツイートします。今回は自分自身でリツイートしていますが、他のアカウントがリツイートしても見え方は同じです。

リツイート画像の自動トリミング12

この場合は、下端が表示されているものの、上部が隠れて表示されました。

https://twitter.com/Nathankirinoha(プロフィール画面。判決文では「タイムライン」と書かれている)がリツイート者の「ウェブページ」になります。そのアカウントが開設されたことによって作られた「ウェブページ」なので、一部画像が隠れた表示はこのウェブサイトから情報送信の指令が出されています。だから責任がその人にある、というのが知財高裁と最高裁の理屈です。
※タイムライン=TLと言えばユーザー端末から見たそのユーザーアカウントにおけるホーム画面(いろんな人のツイートが流れてくるところ)を指しますが、どうやら裁判においてはそういう用語法じゃないようです。

このような自動的な表示上の変更のことが、裁判では「トリミング」と呼ばれています。今回の裁判の事案では、写真の中央部分だけが表示され、上部と下部が表示されない形式でした。

当時の仕様の話かと思いきや、この記事執筆にあたっていくつか他のユーザーがツイートしてる画像を見てまわったのですが、中には画像の中央部分だけ表示されているものがあるなど、現在でも行われているようです(表示範囲は広くなっているようだが)。

結局、どのような場合にどういう表示になるのか、挙動がよくわかりませんでした。

リツイートだけで著作者人格権侵害になり得る最高裁判決の影響:ブログリンクのサムネイル画像も

ちょっとあり得ないことのように思えますが、今回の判決は【リツイートしたら元の画像がTwitterの仕様によって自動トリミング表示されるが、このときに著作者人格権侵害になり得る】ということになります。

元画像に著作権がなかったりツイートしてる者に著作権がある場合にはリツイートは大丈夫ですが(そういう拡散のされ方を承諾していると推認される)、転載画像の場合にはかなりの注意が必要になってきます。

そして、これは同じ仕組みであるブログ上のサムネイル画像表示においても同様なので、ツイッタラーだけでなくnoteユーザー含むブロガーにとっても大きな問題です。

例えば以下の私の記事のサムネイル画像も、上下が切り取られて表示されています。

元の画像は天皇の系図という事実を示すもので、政府のHPで公開されているものなので著作権は気にする必要はありませんし、私自身の記事なのでどうでもいいです。

しかし、他人の記事のサムネイル画像で、今回のリツイート者のように無断転載画像がトリミング表示されていたらどうでしょうか?

意図せずして発信者情報開示請求の対象になりかねません。

発信者情報開示はされるが損害賠償請求は認容されるのか?

おそらく誤解が出そうなので当たり前すぎることも書きます。

今回の判決はプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求が認められたというだけであり、リツイート者に対する損害賠償請求が認められたわけではありません。

権利侵害が認められたと言っても、差止請求(リツイートの取消)の認容判決は得られるとは思いますが(既にリツイート取消してる場合には無意味)、不法行為となるための故意・過失が認められるかというと、かなり厳しいと思います(なんたって自動トリミングですから)。

転載厳禁と書かれた画像のリツイートだから不法行為もあり得る…と言われるかもしれませんが、だったら「著作権侵害」と法的に評価されたハズです。今回は転載厳禁とされたツイートをリツイートした行為ではなく、リツイートの結果「表示がトリミングされた」点を「著作者人格権侵害」と法的に評価されたのですから、無断転載と知りつつリツイートしていたなどの事情が立証されない限り、リツイート者が不法行為として賠償責任を負うことにはならないだろうと思います。

ネット上の当たり屋が横行する?

ただし、発信者情報開示請求によって、連絡先や住所等の個人情報は原告側に渡ることになります。そういう意味で、今回の判決は、匿名者の情報取得目的の【ネット上の当たり屋】行為を誘発しかねないと思います。

思考実験として、たとえば、以下のサムネイル画像の元画像が、私の書いた絵であり、上部に「転載厳禁」下部に私の名前「@Nathan(ねーさん)」と書かれていてトリミングされていたらどうでしょうか?

私見としては、サムネイル画像に指定する画像は、トリミングされる場合もあり得るという想定のもとで利用されるため、著作者人格権を侵害しない、と評価されるハズです。著作権法19条3項でも公正な慣行に基づく利用ならば著作者の氏名表示は必ずしも必須ではないとありますし。

なので、このような「ネット上の当たり屋」は無理ではないかと思います。

しかし、これが私の画像ではなく第三者の著作物だったら…今回のリツイートの訴訟と同じ状況になるため、やはり第三者の著作者人格権の侵害になります。

特に第三者と結託している場合に厄介です。たとえば最初の記事のサムネは全面表示させておきながら、拡散された後でサムネ画像をトリミング表示されたものに変更するとか。まぁ可能性の有無はともかく、考えればいくらでも思いついてしまいます。

しかもブラウザによって挙動が異なる場合もあるので、当たり屋でなくとも偶発的に加害者であるとして訴訟される可能性がぬぐい切れません。

これによる被害を絶対的に回避するには、https://www.jijitsu.net/entry/joseitennou-jokeitennou-chigai-wakariyasukuという形や 女系天皇と女性天皇の違い:世論調査の回答者は意味を理解しているのか という形で、インラインリンクではない形式でのリンクにするのが無難、ということになるでしょう。

なお、今回の判決は、インラインリンクそのものが権利侵害とされたのではなく、トリミング表示が権利侵害とされたのであり、インラインリンクであった点は権利侵害の主体となるかどうかに影響したに過ぎません。もしもインラインリンクそれ自体が権利侵害とされるなら、リツイ―ト時点で権利侵害=著作権侵害と評価されたハズですが、それは否定されています。

あと、今回の事案は転載自体が違法なので、ツイート者はそれによって不法行為を構成することは論を待たないのですが、仮に転載自体は適法な画像だったとしてもTwitterの仕様を考えれば、リツイート者に限らずツイート者のタイムライン上にもトリミング表示されているわけで、そうすると氏名表示権の侵害とされるおそれもあります(この場合も著作権法19条3項の可能性)。

全画像表示に仕様変更するとスパムが横行する

さて、最高裁の判決文の補足意見や反対意見では、Twitter社が仕様変更することによって対応するべきことが指摘されています。

既述のように、現在の仕様では、どういう場合にどの部分がトリミング表示されるのか挙動が不明なので、何らかの対策をとるべきことになります。

【日本の裁判例に合わせてTwitterが仕組みを変更するとは思えない】

という点はともかく、仮にリツイート時であっても全画像表示が為されるように仕様変更されたと仮定しましょう。

すると、縦長の画像をツイート・リツイートするスパムが横行するでしょう。これによってユーザーの利便性は著しく阻害されます。全画像表示にすることによる通信量の増大もツイッター社にとっては負担でしょう。

現在でもトレンドワードに合わせてKPOPアイドルが踊っている動画ツイートなどがスパム投稿されていますが、そのようなものと類似した行為が行われないと考える方が不思議でしょう。

じゃあ他に方法があるのか?となると、よくわかりません。今の所、ユーザーが注意しまくる以外に無いのかなぁ?

以上

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