「女性へのAED忌避」の原因に関する論文等を皆読んでいない


「女性へのAED使用が男性よりも少なく、その理由は男性が女性からセクハラなど性被害を訴えられるリスクを感じたからだ」

これ、論文を読んだら断言できないはずなんですよ。

上掲記事で論文やアンケートの内容とその理解の仕方はまとめてあるので、ここでは要点だけ。

AED使用者・AED使用を躊躇した者の性別は不明

AED使用者・AED使用を躊躇した者の性別は不明

論文においてAED使用者・AED使用を躊躇した者の性別は不明です。

大事なことなので二度…

NHKなどの報道において「女性へのAEDが少ない」とされる記事の元となる論文は清原康介・石見拓教授らの論文の考察部分ですが、他のAED使用の論文(海外のもの)も含めて、使用者の性別は不明です。

そのため、女性へのAED使用が男性に比して少ない傾向は海外でも共通していますが、「これらの違いの理由はさらに調査する必要がある」とだけ言われています。

男性へのAED使用も少ない

「女性へのAED使用が少ないことが問題だ」というのはそうですが、それ以前に【男性へのAED使用も少ない】です。

この状況下で女性に対するAED使用だけ殊更に取り上げる意義はあるのでしょうか?

女性も女性へのAED使用に抵抗を感じる可能性を考えている

旭化成ゾールメディカルのアンケート(実際に救命処置を経験していない者も回答する類のもの)では、男女の限定がない場合に服を脱がすことに抵抗を感じるというのはかなり低い順位です。むしろ救命処置がわからない、知っていても実際に行うことに抵抗がある、といった回答が上位に来ています。

救命処置の知識が十分にあると仮定して、女性に対する救命処置に限定した内容も、「救命処置をしたいが抵抗がある」と回答した方の男女比は、男性58.0%、女性42.0%という結果でした。

相当数の女性が女性に対するAEDに抵抗を感じる可能性があると考えている」という現実。

アクセサリや服の構造からAED適用かわからない、服の破損に対する請求への警戒などの可能性

こうしてみると、女性へのAEDが少ない理由として、以下の可能性も出てきます。

・女性はアクセサリを身に着けていることが多いことや、服の構造がわからない者が脱がせることができないため、AED適用かわからないから行われない
・服の破損に対する請求への警戒などの可能性を考えて行いたくない人がいる

決して「男性が」「女性や周囲からセクハラ等の性被害リスクをおそれて」ということに限られるわけではないわけです。逆に「AED使用者が女性であっても」「被救命者たる女性が肌を露出されることに抵抗を感じる」という可能性もあるわけです。

SNSで拡散される共同幻想

上記いずれの原因予想も、NHK報道がベースにしている石見教授らの論文でも書かれています。NHKの記事では石見教授らの発言に関しては「倒れた人が女性の場合、素肌を出してAEDを使うことに一定の抵抗感があるのではないか」としか書かれていません

にもかかわらず、「男性が誤解されるリスク」のみが強調されてSNSで拡散されています。NHKの記事は、そうしたSNSの反応を取り上げているためにさらにSNS上のナラティブを加速させている面があります。NHKがSNSの声を取り上げたのは「法的リスク」について明確に整理(神の目から見て通常の行動を取っていればリスクはゼロ)するためだったと思われますが、SNSではそこからさらにヒステリックな反応が生じています。

実際の救急処置の現場ではどう出るかわからない

それでも、実際の救急処置に現場で居合わせた者がどういう行動に出るかは、それこそその場になってみないとわかりません。

普段偉そうなことを言っていても、いざその場面になったらすべて頭から吹っ飛んで何もできないというコトはあり得ますし、SNSで「AEDはリスクしかないからやらない」と書いていても、実際には救命に寄与する行動をとることはあるでしょう。

その意味で、単なる「危惧感」は、現実にはほとんど影響しないため、あまり深刻に捉える必要はないと思います。

すべての救命処置を必要とする者に対して適切にAEDが適用されるようになるために、報道や専門家のせいにすることなく、必要な知識を共有していけばよいだけだと思っています。

noteにあった素晴らしい記事。

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