ヒルシュスプルング病について(番外編)

娘が夜間診療を経て大学病院でヒルシュスプルング病の疑いを告げられたのは、本格的にコロナが流行り始めた頃。今回は、即入院を勧められた娘がなぜ入院しなかったのか、というお話。

入院の話が出たあと、看護師さんが話をさらにきた。その中ではコロナ院内感染防止のための海外渡航の有無や発熱の確認もあった。

渡航はしていなかったものの、義父母が半月前に来日していたことが引っ掛かった。念のためと熱を測られると38度。にわかに現場が騒然とした。

看護師は固い顔で診察室へ戻り、中からはざわめきが聞こえた。「マジかよ…アウトじゃんか!」という叫びまで。

当時、某病院の院内感染が報道された矢先のことで、現場の先生方は特に神経を尖らせていたのだと思う。だから決して怒ってはいませんが。聞こえたぞ、おい。

すわコロナ!とすぐに陰圧室にうつされ、娘がどうなったのかは分からない。でもひとつだけ。わたしは確信していた。

これはただの発熱じゃない。

この熱の発生源は、、、乳だ。

娘の体調不良により満足に飲まれていなかった乳は、病院の待ち時間も合わせて10時間ほどまともに消費されていなかった。母乳育児をされた方ならご理解いただけると思うが、そんなことしたら当然胸が張る。痛いくらいに張って熱を持つ。

だが、それを伝え損ねた上に陰圧室には長らく誰も来なかったので、次にわたしが人に会ったのは小一時間後、洗腸されて点滴を入れられて泣き疲れてプンスカした娘だった。しかも絶食を言い渡されて。

この小さいのに絶食をされてしまうと、ますます乳が張る…飲んでもらって乳の張りを解消するというわたしの望みは潰えた。ので、こっそりと恥を忍んで看護師さんに紙コップをお願いした。

乳が張って熱を持って大変痛いのです。乳が出れば熱は下がります。とりあえず絞った乳を入れる容器をください。と

半信半疑の看護師さんはそれでも紙コップを持ってきてくれた。絞った母乳はコップ2杯分。はぁ、すっきり。そのあと熱を測ると、平熱に戻っていた。まあ。陰圧室からは出られなかったけど。

その後は絶食してブスくれている娘を抱きしめ、簡易ベットに座りフラフラになりながら夜を明かした。暑い陰圧室の中、睡眠不足と新たに製造された母乳に体中のエネルギーを取られ、翌朝は低血糖で吐き気とめまいを催したが、洗腸の手技を伝授され、昼には無事に帰宅した。念のためと、PCR検査を受けたがちゃんと陰性だった。

人生の中でもワーストテンにカウントされる一晩だった。もう二度とやりたくない。が翌朝、陰圧室の窓越しに娘を見た看護師さん達が、心なしみんなニコニコしていた。ついでに、帰りがけにベビービョルンの抱っこ紐にちんまりおさまった娘を見て「可愛い!!」とキャッキャしてくれたので、親バカパワーで母の心は少し回復した。

余談だが。夜間診療の痛手から、娘の手術日はきちんと搾乳機を持参した。


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