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恋敵

一軒目で盛り上がった私たちはタクシー数台に分乗して次の店に移動することにした。その中で金城さんは、帰るわ、と軽く別れの挨拶を残して去っていった。

金城さんはめったに人の集まるところに寄りつかない人で、私より少し若い恋人がいた。私は彼にずっと辛い恋をしていた。私は今日こそあなたに想いを伝えなければ。もともと駄目だったものをもっと駄目にする行為だとわかっていても。金城さんの視界に入りたかった。

でも、もういろいろと手遅れだった。金城さんは私たちほど盛り上がったわけではなかったし、私はもう泥酔してしまっていた。金城さんに見下されたに違いない。

叶わぬ恋を抱えて私は、車に乗るのを拒否してドアの前で座り込んだ。誰もが私の姿を呆れて笑った。私は道路のアスファルトにしがみつくようにして号泣した。
そのメンツの中で1人私を笑わなかった人がいた。ガタイのいい料理人のヤマムラさんだった。どちらかというと内気で静かな雰囲気の青年で、私はまだ彼と一言も話したことがなかった。
彼は私のそばに座り込み私と同じ目線まで顔を下げて、軽く肩に手を触れた。「つらいよね。」彼はそう言った。本当につらそうだった。「金さんのこと好きなんでしょ?」私は初めて素直に首を縦に振った。そして彼の顔を見た。「僕もわかるよ。でも、どうしようもないよ。どうしようもない。」自分に言い聞かせるような小さな声で、私は、彼とは恋敵なのだと知った。そして2人とも敗者なのだということも。

彼は繊細な花を摘むかのように、優しく私を車に乗せた。「さすがヤマさん!女の子の扱いわかってるわー!手慣れてるねー!」そうか、彼は私だけに「打ち明けた」のだ。

私の切ない恋。彼の切ない恋。

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