春分の日の雪
些細なことで、想いがすれ違った。大切なものが壊れてしまいそうな予兆が小さなものであってもこんなにも怯えるのは、もう計り知れないほどこの関係が大事だから。
恋人は丁寧に言葉を選びながらわたしを安心させようとし、励まし、静かに語る。いつだってその誠実さが、泣くほど好きだ。
朝まで語り合ったあと、長いキスをする。恋人のキスから優しさが溢れ出すのは、真剣に想ってくれている愛が零れ落ちてくるからなのだと思う。そんな彼の頭を、胸に抱きしめながら眠った。
2018年3月19日
今日から約一日半、何にも邪魔されずに一緒に過ごせる。わたしたちの計画は、こうだ。
まず今夜、ホワイトデーに恋人が贈ってくれたワインを飲みながら、観かけて途中になっている映画を観る。明日は一緒にお風呂屋さん行き、さんざんダラダラしたのち移動して、東高円寺の焼き鳥屋さんでビールを飲み、その後その近くの恋人の妹さんの店に行き、洋酒を飲む。焼き鳥屋さんからは恋人のお友達も一緒だ。陶芸作家の彼女は古いお友達なので、恋人との昔話が聞けるだろう。妹さんの店は付き合う前に一度お邪魔して以来なのでこれまた楽しみ。
そしてもっと良いのは、夜中から雨だと予報が出ていて心が躍る。出かける日の雨は憂鬱だけれど、薄暗い部屋で雨の音に閉じ込められながら目覚めるのは、最高に好き。まして明日は隣に恋人が眠っているのだから、こんなに素敵なことはそうはないと思う。
そして、だいぶ暖かくはなってきたけれど、ちゃんと掛かっているか互いに気遣い合う毛布の中に温もりがある季節なのも、とてもとても良い。
それらすべてを総合して楽しみすぎてちょっとどうしたらいいかわかんないので、今夜恋人が現れる時間まで夜の街を歩き回って来る。
2018年3月20日
昨日の朝!わたしたちを閉じ込めたのは!なんと雨ではなく雪だったのだ!
春分の日だというのに。ほんの少しながら桜も咲き始めたというのに。なんて素敵。そして部屋は期待通りの暗さで、いつまでだって寝ていられた。
雪を感じつつ微睡ながらも途中で一度したセックスは、お酒も入っていないのですごく直接的で気持ちが良かった。
(そして、ゆっくりデートできる時はセクシーな下着をつけるのだけど、お手洗いに行き下ろしたパンツを見つめながら、こういうものを来る日も来る日も生産している人がいるのだよな、世の中にはつくづくいろいろな仕事があるな…と感じ入った。)
夕方、待ち合わせの東高円寺の駅前で陶芸家のお友達と合流した頃には、傘というものが全く意味をなさないほどの大荒れの天気、吹雪だった。まさに春の嵐だ。
避難するように焼き鳥屋さんに入り、思い思いにビールやサワーや焼酎を飲んでから外に出ると、依然として冗談のように激しい吹雪の中、キャーキャー言いながら恋人の妹の店(画家の彼女が営む『え』という喫茶店)へ移動。
一変して、外の嵐はまるで嘘かと思うような静かであたたかい空間で、白ワインを開けた。店というものは店主の纏う空気そのものだと思う。妹は今夜も、静かであたたかかった。
賑やかな陶芸家のお友達が話しを盛り上げてくれて、わたしたちはよく笑い、よく食べ、よく飲んで、すっかり打ち解けることができた。
彼女たちが話す恋人の昔話を、わたしはひとつとして取り零さないように注意して聞いた。
繊細で優しく 脚が長くてお洒落さん
いじめられればガキ大将をとっちめてくれ 誰からも愛される素晴らしい兄
〈恋人の妹より〉
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