映画感想:「ドント・ブリーズ」は正確に時を刻む映画でもある。

 映画「ドント・ブリーズ」をNetflixでみたので感想を残しておくよ。
ネタバレありありかもしれないので気になった人は早めにUターンだ。そうでない人ならキリコと一緒に地獄まで付き合ってもらおう。

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 あらすじはこうだ。
 盲目の退役軍人から金を奪おうと家に侵入した強盗3人組が、その軍人の超人的な聴覚によって逆に返り討ちにあうホラーもの。実にシンプルだろう。これでいいんだ。
 この映画は比較的コンパクトに作られた大傑作というのもポイントだろう。主要人物は5人。時間は90分。舞台は主に小さな一軒家の内部のみ。この閉鎖空間内で巻き込まれる物語性にきっと虜になるに違いない。

 私は特に気になった映画を見る時にはタイムテーブルを書き記しながら見ることにしている。映画が始まってから何分目で起承転結にあたる何が起きるのかとか、この場面のこのシーンがまさに決定的なターニングポイントとか。そういうのを記すとこの「ドント・ブリーズ」には驚異的な部分が見えるのだ。

 映画の冒頭というのはストーリーテーリングで極めて重要な部分であり、ここでコケると残りの89分間もずっと虚無と突き合わされることになる。
 だからこそこの映画でもクライマックスに当たる「老人に引きずられる女」という不気味なカットから始まる。そして時間が一気に巻き戻り、主人公である女ロッキーが3人組の強盗の一人であることだったり妹と家から逃げるために金がいるという目的が明示される。そのために「盲目の退役軍人の家から金を奪おう」という計画を立てる……。ここまでが起承転結に当たる起だろう。この映画では5分から10分で済ましている。

 この映画は「音を立ててはならない」という恐怖を盛り上げるために他の要素をシンプル化して、純度の高いものに仕立て上げた。そこがステキ。10分で始、30分までで承、そこから60分までが転。そして90分までの結という構成だ。そのタイムテーブルがあまりにも正確すぎて身悶えするくらいに感心したのがこの映画だ。120分あってはならない。90分だからこそこの恐怖とストーリーの完成度が出来上がった傑作。

 伏線の回収、脚本の完成度、キャラクターの立て方が完璧。家の中という狭い空間でありながら1時間半の長い時間を耐え抜く構成。スリルとホラー。狂気が音に引き寄せられていく。冒頭に「引きずられていく女」と「強盗をする女」ということで盲目の軍人の正当性が見えるかと思いきや、屋敷の地下の真実にふれると盲目の軍人の狂気が見えてくる。強盗への因果応報から軍人の凶行への因果応報へシフトチェンジしていく。実に面白い!! これはもう一度リストを読み直して研究しなければならない。
何よりも時間配分から何まで計算づく。1カットにも隙がない。

 実を言うと今回の感想も以前の文章との合作ゆえにかなり差雑な構成になってるが、おかげで次に書きたいテーマが見つかったのでその時まで待っていてほしい。ただそのまえがきだけ残しておこう。

 このドント・ブリーズという映画は、沈黙という映画の表現の回帰にして革命を起こした映画だ。
 是非見てほしい。読んでくださりありがたい。

私は金の力で動く。