映画感想:『震える舌』は絶叫と苦悶で人の感情を叩きのめす闘病ホラーだ。(ネタバレあり)

 「震える舌」という映画を見た。
 いやはや、演技力がここまで映画を際立たせることができるとは。1980年といえばもう40年前になるのに、その演出が織りなす恐怖が脳髄に染み入るほどだった。ネタバレありの感想で行こうか。

 あらすじはざっくりと行こう。郊外の団地に住む3人家族がいた。父、母、そして娘の昌子ちゃん6歳の3人だ。物語は昌子ちゃんが泥遊びしてるシーンから始まる。チェロ協奏曲と共に流れる彼女のシーンは今後の不穏を予想させる。
 その数日後、昌子は口が開かなくなって食事をボロボロ落としたり千鳥足になったりと異常を見せ始める。風邪かと心配していた母と父だが、突然の昌子の絶叫から物語は激変する。なんと昌子は自分の舌を噛み千切らんと苦悶の顔で歯を食いしばってしまう。
 病院へと連れて行くとその診断結果は「破傷風」だ。極度の痙攣で筋肉緊張を起こし、脊椎骨折や舌を噛み切るなどという症状を起こし死に至りかねない病。光や音など些細な刺激で発作が起きてしまうため、黒カーテンが引かれた個室で絶対安静の、地獄のような闘病が始まった……という話。

 昌子ちゃんの絶叫が本当に恐ろしい。突然の静寂を切り裂くように響く叫び声と、口と歯を真っ赤に血で染め上げながら、激痛で顔を苦悶で歪める姿。筋肉硬直によって背中を仰け反らせる様はエクソシストめいているが現実で、自分の脊椎すら折りかねないほどの力で曲げられる。子供の騒ぐ声、食器の割れる音、そういったもので彼女はすぐ激痛の発作を起こす。
 いかんな。思い出そうとすると気が滅入るのが先に来てうまく描写ができなくなる。何から何まで真に迫っていて、おばけや怪談とかとは一線を画する緊迫と無力さを真正面から叩きつけられる作品なんだこれは。両親も看病しようとするのだけれど、度々起きる発作で次第に憔悴していく様も、見るものに逃げたくさせるような苦痛を与えてくれる。物語とは感情の共感ではあるが、これほどの負の感情を納得できる姿で共感させるとは。

 国立感染症研究所のページを斜め読みして、さくっと調べた知識ではあるため正確ではないかもしれんが、現代の破傷風治療も抗破傷風ヒト免疫グロブリン (TIG)療法や抗菌剤の投与、対症療法としての抗痙攣剤や呼吸血圧の管理が必要だったりと、作中と共通している部分が多く見受けられる。(医学専門であればもっとレビューできるかもしれぬが残念。詳しくわかりやすい知恵があれば嬉しい)
 まぁなんでこれを書いたかと言えば、破傷風という現実に存在する病と、それによって引き起こされる地獄のような症状を描いた作品が今作「震える舌」であり、その緻密な描写が圧倒的な説得力で視聴者を打ちのめす傑作であったという点を言いたかったからか。

 ただその一方で、終盤になると比較的あっさり昌子ちゃんの病状も良くなり、退院までの希望が見えるところで物語は閉幕する。この物語の肝は個人的には開始1時間までのピーク点であると思うかな。響き渡る絶叫と苦悶の顔に滴る血の赤。あれを演じられる子役の才能は見事である。

 破傷風の恐ろしさ、闘病の苦しさや憔悴を共感するための映画としてはまさに傑作と呼べる作品であった。おすすめ。ではここで筆を置くとしよう。

私は金の力で動く。