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時間を止めろ!!・・・ラスト・ツー・ミニッツ

 アメリカン・フットボールの試合は、15分区切り(1クウォーター)を4本、合計60分という時間が決まっている。そして、この60分という時間の使い方で、様々なドラマが生まれるスポーツでもある。

子供の頃の記憶

 子供の頃の記憶がある。正月3が日のうちの1日、日帰りで親戚のおばあちゃんの家に一家そろって顔を出すことが恒例で、正月の楽しみの一つであった。
 当時、アメリカのカレッジフットボールが(たぶんローズボウルだったと思うが)、毎年正月にTVで生中継されていた。
 ある年、その日おばあちゃんの家に行く、という正月のある日、その日はたまたまローズボウルの生中継の日だった。アメリカ時間のナイターの試合なので、日本時間の午前中、普通なら「さて出かけるか」というくらいの時間、その試合をくいいるように見ていた父親が、「試合が終わったら出発する」という。当時アメリカン・フットボールには興味のなかった私は試合が終わるのを待ちわびていた。

 画面には、残り時間を表示する時計が映し出される。残り2分、1分、と終わりが近づいてきた(はず)の時間帯、頻繁にこの時計が止まり、なかなか試合が終わらない。おばあちゃんの家に行きたい一心の私にとって、アメリカン・フットボールってなんてまどろっこしいゲームなのだろう、と恨んだ。

 しかし、後に、この「時間がなかなか進まない」試合展開はアメリカン・フットボールの醍醐味の一つと理解することになる。

60分では終わらない

 アメリカン・フットボールの試合時間は60分だが、決して1時間では終わらない。しかも、サッカーのように数分余分に時間がかかる、なんてものではなく、正味、2時間はかかる。スーパーボウルのような、がっつりハーフタイムショーを行い、CMもいっぱい流れる試合では3,4時間はみておく必要がある。

 なぜそんなに時間がかかるのか。
 それは、試合時間にはカウントしないシチュエーションを細かにルール化し、そのシチュエーションでは実際に時計を止め、「きっちり60分の試合時間(プレー時間)を計測する」からである。

 その細かなルールについては他に紹介しているサイトが多々あるためここでは省くが(私も100%理解していない、さらにプロとアマチュアでルールが違うし、というのが本当の理由だが)、タイムアウトやケガや微妙な判定で審判が試合を止めたときはもちろんだが、プレーがサイドラインを出たときや、パス失敗などでも時計は止まる。これ、つまり、プレーしている選手が、意識的に時計を止めることができる、ということだ。

残り2分

 たとえばサッカーを想像してみてほしい。1点ビハインドでアディショナル・タイム突入、残り2分。もう攻め続けるしかないけど、時間は刻々と過ぎてゆくし、相手にボールをとられればそれだけ攻撃時間はなくなる。そうこうしているうちに試合終了、となる。

 アメリカン・フットボールだとどうなるか。7点差(タッチダウン+コンバージョン1本差)のビハインドで残り2分。自陣30ヤードからの攻撃(タッチダウンまで残り70ヤード)。
 こんな状況でも、それほど焦ることはない。特にNFLなら「あと2分(120秒)もある」となる。
 1回の攻撃に要する時間は、早ければ数秒、70ヤードならうまくすれば数回の攻撃でタッチダウンをとれるので、2,3回失敗プレーがあったとしても、120秒あれば十分、ということだ。

 ただし、この時重要なのは、1回ごとのプレーの間、なるべく時計を止め、時間を有効に使うこと。そうでないと、サッカーのようにいつの間にか試合が終わってしまうことになる。そこで、「意識的に時計を止める」プレーを選択することになる。先に書いたように、「サイドラインを出る」「パスを(わざと)失敗する」などだ。もちろん、前後半3つずつ与えられるタイムアウトを有効的に使うことも必要だ。

 ちなみに、この「ラスト2分(ツー・ミニッツ)」というのは、アメリカン・フットボールの試合で(多くの場合)最も盛り上がる場面だ。盛り上がる場面なので、わざわざラスト2分で試合を止め、CMを流すための時間をつくる。盛り上がる場面なので、視聴率も最も高くなる時間帯だから、という理由。これも「アメリカン」なルールだ。

 1989年の第23回スーパーボウルで、ジョー・モンタナが見せたラスト2分の逆転タッチダウン。これは、”THE DRIVE”として語り継がれているラスト2分だ。私もその日、会社を休んで朝からテレビにかじりついており、ラッキーにもこのシーンを生で見ていたことを鮮明に覚えている。

パスをわざと失敗する

 さて、「パスを“わざと”失敗する」と書いたが、これは、4回の攻撃権の一つを犠牲にしてでも時間を止める有効な手段なのだが、ここでおもしろいルールがある。

 通常、クウォーターバックがパスを投げる際、ターゲットとなるレシーバーが誰もいないところに投げると、「インテンショナル・グラウンディング」という反則となる。つまりは「遅延行為」だ。
 ただし、「残り時間が少なく」、「明らかに時間を止めたい」というシチュエーションに限り、「ボールを地面にたたきつける」行為で時間を止めることがルール上許されている。「スパイク」する、という行為である。

 クウォーターバックが、ボールを受け取って直後に、「くそっ!」みたいな感じでボールを下にたたきつけるシーンをご覧になったこともあるだろう。なんであんな、ボールを粗末に扱うような、無駄なことするんだろう・・・って疑問に思われた方もいるかもしれない。あれが「スパイク」だ。

 これ、見れたのはラッキーかもしれない。勝つか負けるか、ギリギリの状況で行う、最もスリリングな状況だということだから。
(下記ビデオ30秒過ぎにパトリック・マホームズがスパイクしてる)

 最後に、スパイクとみせかけて、パスを投げてタッチダウン、なんて姑息(?)なプレーもたまーにある。


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