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国際公法で司法試験を突破する

司法試験において受験者は主要7科目に加えて選択科目を選ぶことになっています。選択科目とは、労働法・経済法・倒産法・知的財産法・租税法・国際公法系・国際私法・環境法の8つです。

この中で私は国際公法を選択しました。国際公法は受験者・合格者ともに極めて少なく、情報があまり出回っていません。(令和3年度の合格者はわずか19人であり、これは8科目中最少です。)国際公法をやってみたいけどリスクが高いのでやめておこうと考えている人も多いのではないでしょうか。しかし、やるべきことを的確に整理していけば、国際公法は案外コスパの良い科目です。この点について自分の体験を基に書いていこうと思います。

1 使った教材

・実務法律基礎講座 国際公法 

事案や図表を用いて主要論点を簡潔に解説した入門書です。そのまま論証に使えそうな表現が多く、論証化に役立ちます。各章の冒頭には事例問題(過去問を小問ごとに分割したもの)と参考答案が付いており、実際の出題レベルや答案の書き方を具体的に把握できます。

・有斐閣ストゥディア 国際法

上述の実務法律基礎講座は極めて実戦向きではあるものの、そうであるがゆえに解説が分かりにくい箇所や体系化が不十分な箇所があります。そこで副教材として有斐閣ストゥディアを使い、基礎講座では理解できなかったところや、論点間の関係が不明瞭なところを補うようにしていました。また、本書はコラム形式で重要判例にも言及しているため、これ一冊あれば判例集は不要かと思います。

・演習プラクティス 国際法

テーマ別の事例演習48問と総合演習5問が掲載されています。各章冒頭には論点のまとめがあり、段階的に事例演習に入ることができます。著者の一人である兼原先生は長年考査委員を務めていらっしゃったようで、この点でも司法試験向きの教材といえます。

・過去問

平成18年~30年の過去問につき問題・出題趣旨・採点実感が載っています。

2 進め方

各論点につき、①問題提起方法、②あてはめ方、③典型事例を念頭に置いて論証集を自作し、それを何度も読み返しつつ、並行して問題演習を行うという勉強方法を採用していました。具体的な流れは以下の通りです。

⑴ 実務基礎講座を読む → 論証集を自作

⑵ 有斐閣ストゥディアを読む → 論証集に追加

⑶ 演習プラクティスを解く
※論点まとめを読む → 論証集に追加
※事例演習:答案構成のみ
※総合演習:フルスケールで書いてみる

⑷ 過去問を解く
※原則:時間を測って答案構成
※直前3年分:制限時間内にフルスケールで書いてみる
※出題趣旨・採点実感を読む → 論証集に追加

3 論証化のコツ

論証化の方法・粒度は主要7科目と変わりません。条約の文言や国際法の原則を出発点にして規範を導いていきます。

【国家承認の効果】
主権平等原則に照らし、既存国家が新国家に対する審査権を有しているとは認められない。そのため、新国家は国家性を備えれば当然に国際法主体となり、国家承認は新国家の成立を確認する効果を持つにとどまる(宣言的効果説)。このように解しても、国家承認は国交樹立に先立つ政治的判断として重要性を有するため、国家承認制度の意義を没却しない。
【法律的紛争(ICJ規程36条)】
「法律的紛争」とは、当事国が権利義務を争う形式において紛争の論点を定式化している場合をいう。ただし、紛争の本質が政治的なものであり、法的側面はその枝葉末節にすぎない場合、当該紛争は「法律的紛争」にあたらない(政治的紛争論)。

規範の元ネタとなる判例があれば、その判例名もカッコ書きで指摘しましょう。また、裁判官の意見や国内裁判所の判例が根拠となることもありますので、その場合はその旨を明記しましょう。

【国籍継続の原則】
「国籍」とは個人と国家との間の真正な結合をいう(ノッテボーム事件)。そして、損害発生時から請求時まで「継続」して国籍を有していなければならない。ただし、「真正な結合」基準の趣旨は重国籍を解消する点にあるため、単一国籍者には適用されない(ノッテボーム事件反対意見)。
【効果理論】
グローバル化が進展した国際社会において、外国においても自国の利益を保護する必要性が高まっている。また、立法管轄権の行使は禁止規範が無い限り国家の裁量性が認められている(ローチュス号事件)。そのため、外国での行為が自国に対する実質的効果を持ち、その意図をもってなされる場合、立法管轄権の行使が認められるべきである(米アルコア事件)。

司法試験六法に載っていない条約を根拠とする場合、個別の条文を指摘する必要は無く、「○○条約参照」と書いておけば足ります。

【国家性の要件】
恒常的住民、領土、政府、外交的能力が必要である(モンテビデオ条約参照
【国家責任の要件】
国家責任を追及するためには、①当該行為が国家に帰属し、②当該行為が国際法上の義務に違反することが必要である(国家責任条文参照)。

各論点につき、問題提起方法を確認しておきましょう。例えば、国家承認については「本件においてX国は○○の状態(eg,Z国と紛争中)のY国に△△(eg,外交官の派遣)している。かかる行為は尚早の承認として国際法上違法とならないか。」と問題提起することにしていました。「事実を適示→かかる場合~」とするのが一番簡単です。一見否定されそうな事案では「かかる場合にも」とするとスムーズにつながります。

また、あてはめ例(下位規範)も押さえておいた方が安心です。慣習国際法の要件については、以下のあてはめ例を論証に追加していました。

※国連決議だけでは一般慣行とならない。
※厳密な一致は不要であり、不一致行為が規則の違反として扱われていれば、一般慣行が認められる。
※総会決議や後続の条約も「法的信念」の根拠となる。

4 国際公法は得点しにくい…?

これの13~14頁の表を見ていただくと分かる通り、国際公法の得点分布は明らかに他の科目よりも下にズレています。例えば50点以上の得点者は、他の科目では40%前後いるのに対して、国際公法では28.57%しかいません。この意味で、国際公法は「得点しにくい」科目といえます。

しかし、これは国際公法の問題が特別難しいとか試験委員が厳しいとかではなく、圧倒的情報不足により受験者のレベルがそこまで高くないからだと思われます。国際法の教科書は分厚いものが多く、判例百選は極めて難解です。そのため、とりあえず教科書を読んで判例学習をして…という風に進めていると、事例問題を解いたり論証を洗練させたりする時間を中々確保できません。これは法律の試験における典型的な「負けパターン」ですが、どの教材をどの程度勉強すれば合格ラインに達するのかを教えてくれる先人がほぼ存在しない国際公法では、このパターンに陥りやすいわけです。あとこれは完全に私の偏見ですが、敢えて国際公法を選択するような受験生は、問題を解くより文献を読みたい、雑に何周もやるより丁寧に一周やりたい、という感じのオタクっぽい人(良く言えば学者肌の人)が多く、このことが上記の傾向に一層拍車を掛けているような気がします。

いずれにせよ、私の場合は予備試験の合格発表があった2月から学習に取り掛かったため、3カ月強しか学習期間を確保できなかったわけですが、それでも過去問に十分立ち向かえる状態にまで仕上げることができました。この間に使った教材は薄い本(字義通り)三冊と過去問題集だけです。そう考えると、国際公法は選択肢として十分アリだと思うのです。

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