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少数派のままでいい

まずは前提となるふたつの話から。
ひとつ目はスマホゲームのレアリティについて。

スマホゲームのレアリティ

多くのスマホゲームでは、キャラクターやアイテムに、ノーマル、レア、スーパーレアなどのレアリティが設定されている。
中々手に入らないし、性能が優れているため、レアリティの高いアイテムやキャラクターは人気がある。

「レア」「レアリティ」は希少、希少性という意味である。珍しい、滅多に見ない、稀である、の意。少ない、という字があるように、数が少なく、従って手に入りづらい。

レアなものの価値が高いのは、スマホゲームに限らない。一点ものの着物、世界でひとつしかないオーダーメイドのアクセサリ、数量限定のシリアルナンバー入りグッズ、一年で十頭しか出荷されないブランド牛など、一般的に、大量生産されていないものは価値が高いことが多い。

マジョリティとマイノリティ

次の話はマジョリティとマイノリティの話。
それぞれ、多数派、少数派の意味。

英語だと、majorityとminority。
綴りの中に、major(メジャー)、minor(マイナー)が入っている。
major(メジャー)とは、それだけで「重要な」「主要な」「一流の」と言った意味があるそうな。
minor(マイナー)の方は、「ささいな」「たいしたことの無い」「二流の」と言った意味があるとのこと。

日本語としてマジョリティ、マイノリティと使う場合も、やはりマジョリティはポジティブ、マイノリティはネガティブな印象がある。
マイノリティについてはおそらく、障害者やLGBT(性的マイノリティと説明される)など、マジョリティを前提とした設計では不便を感じてしまうので改善して欲しい、といった文脈で語られることが多いため、不便を感じている方という意味合いが含まれ、ネガティブなイメージを持つようになったのではないか。

訳語として対応する「多数派」「少数派」は、字面だけ見るとただ単に数が多い・少ないことを表すだけだけれども、これにもやはり、それぞれ若干ポジティブ・ネガティブなイメージがある。
多数決で物事を決めることも多い世界では、多数派がポジティブだと思われやすいのだろう。

そして、世界の多くの部分はマジョリティを対象に設計されている。
例えば世の中には右利きの人が多いから、多くの道具や設備は右利きの人が使いやすいように設計されている。左利き用のはさみはあっても、右利き用のはさみと書かれたはさみはないだろう。右利き用が当たり前だから、わざわざ書かないのである。


先に価値判断がある

ひとつ目の話の、レアリティが高い=希少性があるという点と、ふたつ目の話のマイノリティにはネガティブなイメージがつきまとう点は相反しているように見える。
前者では数が少なければ貴重と言い、後者では数が少ない方にマイナスイメージがある、と。

実は、数が少ないことはおまけ要素に過ぎない。
スマホのレアが人気なのは、そもそもそのアイテムなりキャラクターなりの性能が高いからで、加えて入手が困難だから「ますます」人気が出るのである。
いくら一年に十頭しか出荷されない牛肉であれ、おいしくなければ人気は出ない。おいしくて、かつ、希少だから「ますます」人気に拍車がかかるのである。
希少性、数が少ないことは、この「ますます」の部分に対応している。

数が少ないことがポジティブな意味を持つか、ネガティブな意味を持つかは価値判断の次にある。
価値が高いとされたものの数が少なければ希少価値と呼ばれ、価値が低いとされたものの数が少なければ顧みられない。

だから、少数派は多数派になる必要はない。
やるべきことは、その性能を上げること、質を高めること。
質が高くなったとき、それまでマイノリティと呼ばれていたものは、レアリティが高いと呼び変えられるのだから。

気を付けないといけないことは、質の高さ・性能の高さを考えるとき、人気だけで判断しないこと。
質が高い、性能が良いなど人気になる理由があるから人気になるのであって、人気だから質が高くなるわけではない。人気だけを考えるなら、結局は多数派になろうとすることと同じになってしまう。

子曰く、位無きを患えず、以て立つ無きを患う。己を知るもの莫きを患えず、知らるべき無きを患うるなり。

論語 里仁(引用元は高橋源一郎『一億三千万人のための『論語』教室』P.96)

自分のことを知ってくれている人がいないことは問題ない、しかし、知られるほどの価値が無いとしたら問題である、と。


難しいのはその要素ごとに「何が質を高めることになるのか」から考える必要があることである。
食べ物ならおいしさや価格、調理のしやすさ。
アクセサリならおしゃれさや価格、お手入れのしやすさ。
では人間なら? 人としての質を高めるとはどういうことか。これは場面場面で異なるだろうし、考え続けていかなくてはいけないテーマである。

少数派であるが故に不便であること、顧みられないことには声を上げ、改善を求めるべきであるけれど、多数派にならなくてもいい。
レアリティが高いと呼ばれるその日に向けて、少数派のままでいい。

名角こま

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