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新しい腎性貧血治療薬について(Vadadustat、バフセオ®)

 すでに日本国内でも数種類発売されている、経口hypoxia-inducible factor(HIF)prolyl hydroxylase inhibitor(HIF-PHI)のVadadustatについての論文があったのでどのくらいの効果が期待できるのかを見てみました。

 この薬はアケビア社(AKBA)が開発し、2020年8月に田辺三菱製薬からバフセオ®錠として発売されました。国内初のHIF-PHIはアステラスのRoxadustat(エベレンゾ®)で2019年に登場しています。


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Vadadustat in Patients with Anemia and Non–Dialysis-Dependent CKD
New England Journal of Medicine 384(17): 1589-1600.


【はじめに】

Vadadustat(バダデュスタット、商品名バフセオ®)は経口hypoxia-inducible factor(HIF)prolyl hydroxylase inhibitor(HIF-PHI)という、HIFを安定して造血作用を発揮する薬剤です。人体は低酸素状態にさらされると赤血球を産生するように対応しますが、これと同じ状況を薬剤で再現することに成功した薬剤がHIF-PHIです。VadadustatはHIF-PHIに属する薬剤の1つで、他にも4種類存在します。

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上図は赤字のHIF-PH inhibitorがVadadustatに相当するもので、HIF-α(低酸素誘導因子)が安定化することでエリスロポエチンの産生を促進して造血作用を発揮します。
(Discovery of Molidustat (BAY 85-3934): A Small-Molecule Oral HIF-Prolyl Hydroxylase (HIF-PH) Inhibitor for the Treatment of Renal Anemia より引用)

HIF-PHI系薬剤は何と言っても、経口の腎性貧血治療薬であることがポイントです。

本研究は非透析の慢性腎臓病の方を対象に、VadadustatとESA製剤であるdarbepoetinαを比較したphaseⅢオープンラベル、非劣性性試験です。

【研究概要】

Patients 対象者
透析を受けていない慢性腎臓病患者かつ
① ESA製剤による治療を受けていないHb 10未満の人 
② ESA製剤による治療を受けているHb 8-11(米国)の人、Hb 9-12(米国以外)の人


Intervention 治療介入 1739人
Vadadustat300㎎から開始して必要に応じて450㎎、600㎎(最大量)と増量する。

Comparison 対象群 1732人
Darbepoetin α静注または皮下注

両群でフェリチン100ng/ml、TSAT 20%以上を維持するようにした。
薬剤の調整は米国でHb 10-11mg/dl目標に、米国以外では10-12mg/dlになるように調整した。

Outcome 評価項目
主要アウトカムは最初の複合心血管イベントまでの期間(Time-to-event analysis)です。その他Hbの値も評価しています。

Result 結果
主要心血管イベントのハザード比は1.17 (95% confidence interval [CI], 1.01 to 1.36)で事前に設定した非劣性マージン1.25を満たさなかった。
Hbの値は非劣性を示した。(要するに従来のESA製剤に劣らない効果であった。)

下記は論文から主要アウトカムのみを抜粋した主要心血管イベントの累積発生数を示しています。若干Vadadustatの方が多いように見えます。

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下記Figure3はHbの改善を示した図でVadadustatとDarbepoetinほぼ同じ結果とみてよさそうです。

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Conclusion 結論
 VadadustatはDarbepoetin αと比較してHb値を改善する効果は劣らない結果であったが、主要心血管イベントの発生においては非劣性を示すことができなかった。

個人的感想
 複数の論文結果を参考にする必要がありますが、この論文ではVadadustatがDarbepoetin αと全く同じように使えるとは言いにくいようです。
 腎性貧血自体、十分治療されていない病態で、そのひとつの要因が注射製剤しか存在しなかったこともあると思います。経口治療薬でこれまで以上に多くの腎性貧血が治療される可能性を考えると十分選択に値すると感じます。


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