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クリスマスの前の晩

クリスマスの前の晩、男の子がお母さんに絵本を読んでもらっています。
トナカイさんの活躍するサンタさんのお話です。
「トナカイ、ヨームの話」
 
男の子はお母さんに「トナカイってなあに?」とききます。
お母さんは「シカの仲間で頭に角があるの。この国にはいないわ」
 
「さあ、おはなしはこれで終わり。あったかくしてベッドに入っておやすみなさい。」

男の子の部屋
お母さんも一緒に来る。うまくあったかくなるように毛布を重ねてくれる。
額にキスをして「おやすみ」
 
電気を消してでていく
 
しばらく暗くてシーンとしてる。
窓の外はしんしんと雪がふっている。
おかあさんが整えてくれた毛布があったかくて気持ちよい。
うとうと
夢をみた。どこからかシャンシャンシャンという鈴の音が聞こえる。
みると天からトナカイの引くそりが雪原におりてくるところ。
そりのあとには氷のつぶがキラキラしていてきれいだ。
とこちらをめざしてくるようだ。
♪シャンシャンシャン ♪シャンシャンシャン
 
いつのまにか雪はすっかり深くなってぼくも外にいる。
目の前にトナカイさんの大きなかわいい顔があって、ぺろりとぼくの顔をなめた。
ぼくはぞわっとして目をあけてしまう。目をあけるとトナカイさんの口から出る湯気に包まれて目の前にトナカイさんがいた!
 
ビックリしてパジャマのままバガッと起き上がる。外はしんしんと雪がふっている。
「夢?」
 
そのまま外をうかがう。耳をすましてみる。ととおくでかすかに
「♪シャンシャンシャン」
鈴の音はだんだん近づいてきて家の上で止まった。
窓からトナカイとそりが見える。サンタさん、おとなりのメリーちゃんのおうちに大きな円型のプレゼントをもっていくところ。
サンタさんはそれを運び終わると振り返り窓ガラスのところまでやってきて、コツコツと笑顔で窓ガラスをたたく。白いひげ、赤い衣装に赤いぼうし。丸い目がねをかけて、たのしそう。
窓をあけると、「さて、きみはトナカイに会ってみたいのじゃな。さっき絵本を読んでもらった時に言っとった。きっとトナカイの引くそりにも乗ってみたいことじゃろう。よければわしのプレゼント配りにもつきあわんか?今夜はちと行く場所が多くての。地球じゅうをめぐってな。手伝ってくれると助かるんじゃが。」
 
「あ、はいッ」
びっくりして言葉がでてこない。
「なにか着込むといい。今晩は冷えるからな。
そのままでよいぞ。そのままなにか着込んでベッドに入っておやすみ。しばらくしたら迎えに来るからな。それまでこのあたりのプレゼントを配っているのでな。」
「では。」といってプレゼントをかついで行ってしまう。
 
ぼくは窓を閉めて、衣装ダンスのところに走っていった。それからマフラーとセーター、もこもこのソックスにズボン、さいごに毛糸の帽子とてぶくろを出すとそれらを全部身につけてからワクワクしてベッドに戻った。
 
しばらくして、
「さて、じゅんびはいいかな?」
サンタさんの声がする。
ぼくは毛布をひっぱりあげた。
「ではこれからきみのベッドとこちらのそりをドッキングする。ようするにくっつけるっていうことだ。だからきみは寝たまま世界旅行ができちゃうわけだ。ハハッ。
ではしゅっーぱつー、しんこう!」
ベッドがスルスルと動きはじめ、ぼくはねたまま家をぬけだして、雪原を走っている。いっぱい着て、あったかい毛布にもぐりこんでいるから、冷たい風もなんのその。
目の前にはトナカイさんが引くサンタさんのそりがある。とっても気分がいい。
トナカイさんの鈴が♪シャンシャンシャンと言う音。そりが雪の上をシューシューとすべる音。ほほに夜風が冷たい。
そりは雪の上をすべるように進んでいく。目の前にこやまがある。
「よし、あそこで離陸する」
「そら、いくぞ。」
ふわり、そりがうく。そりに取り付けられているカンテラもふわりとうく。
思わず身を乗り出すぼく。
 
さっきまでいた雪の地面が遠くなっていく。目の前にあったこやまも森も上から見ると小さくきれいに見える。
「すごいや」
「これから少し大きい街まで飛んでいく。」
しばらく飛ぶと、ほかにもサンタのそりが飛んでいる。みんな片手をあげてあいさつする。
「そっちはどうだい?」
「手分けして半分くらい終わったよ。今年はいい子が多くてね。ヨーロッパは広いからな。ハハハッ。」
「サンタさんってひとりじゃないんだ」
「ああ、ひとりでプレゼントを配るのは大変だからね。サンタ連盟っていうのがあるからな。希望者はサンタ連盟に申請して、認められるとサンタになれるんだ。」
 
そうこうするうちに、1軒のお屋敷の前でそりがとまる。
「さてと、きみ、手伝ってくれるかね?
このうちのクレアは実にいい子でな。ひじょうにいいものをプレゼントにあげようと思う。
何だと思う?とても大きいものなんだが、今からそれを捕まえに行かなきゃならない。」
 
「うーん、なんだろう」
「まあいい。じつは彼女はポニーを欲しがっているんだ。それでちょっとそこまでポニーをつかまえに行こうと思う。手伝ってくれるかね?」
 
「あっちだ。」
ゆびさす方向をみると雪原のまんなかに馬の群れがある。
見通しのいい雪原の真ん中で野生の馬たちは群れになって立ったまま動かない。
「なにしてるの?」
ぼくがきくと、「眠ってるのさ」サンタさんが答える。
「敵におそわれたらすぐ逃げられるように馬はたったままねられるんだ。」
 
親子の馬が起きたようだ。
サンタさんはその中にやさしく分け入り、一頭の茶色い子馬を選んだ。
「この子はクレアのもとに行ってもいいといっている。お母さん馬もしょうちしてくれた。」
親子の馬は互いに別れをおしみ、ヒヒーンといなないた。
サンタさんが子馬にひきづなをつけ、ぼくにわたす。
「この子をクレアの家の納屋までつれていっておくれ。」
 
馬なんて初めて近くでみる。近くでみるとやさしくて茶色いめをしている。さわると毛並みがとてもいい。ぼくは子馬をなでてから歩きだした。雪道を馬はいやがらずに歩いてくれた。
 
茶色い子馬は行先が分かっているかのように、首を下から上にふりながらぼくのあとをついてくる。とちゅう、子馬の足が止まってしまった。うしろを振り返り、ブヒヒンッ、といななく。吐く息が白い。茶色い目がうるんでいる。
お母さんや群れが恋しくなってしまったみたいだ。ちょっとかわいそうに思ってぼくも立ち止まる。ぼくは赤い手袋の手でやさしく子馬のたてがみをなでてあげた。それからそおっと首のあたりを抱きしめてみた。きっとさみしいんだ。ぼくはそう思った。
馬はまたブヒヒンッといって鼻をふるわせた。
しばらくすると小馬はまた自分から歩きはじめた。クレアのお屋敷が見えてきて納屋の前に来ると、サンタさんが納屋のとびらをあけてくれた。。
「さあ、おはいり」
ぼくがいうと子馬はおとなしく納屋に入ってくれた。
サンタさんが手綱を外してくれる。
子馬と話している。
「朝になればクレアが君を見つけてくれるはずだ。」
納屋には干し草がたくさんあって、小馬はその上によこになった。
「よし、これでひと安心だな」
サンタさんがいう。
ぼくはまだ茶色い子馬をみていたかった。
「この屋敷の人たちが起きてくる前にまだプレゼントを配らなくちゃならないところがあるぞ。ここにいてもいいが、できればいっしょに来てほしいな。ここへはあとでもう一度寄ろう。」
 
そりにもどるとトナカイさんたちが待ってましたと歓迎してくれた。
ぼくは靴をぬいでそりに入れると、ベッドに乗って毛布にくるまった。
「さて、ぼうや。用意は万端かい?」
サンタさんはそりの御者席にすわってうしろを振り返りぼくにウインクして前を向くと、
「しゅっーぱつー、しんこう!」
と号令をかけた。
トナカイさんたちがかけていく。雪原の上を♪シャンシャン、♪︎シャンシャンかけていく。
さっき茶色い子馬を見つけた野生の馬の群れの脇を通り抜ける。
ベッドのなかはあったくて、ぼくはなんだか眠くなってしまった。
だってきっと今もう真夜中すぎだよね。いつもは部屋のベッドでお母さんにキスしてもらって、ぐっすり眠ってる時間じゃない。サンタさんのお仕事って大変だね。ぼくたちが寝てる間にプレゼント配っといてくれるなんて、サンタさんはいつ寝るんだろう?
大人って寝なくてもだいじょうぶなのかな?なんて考えながら眠ってしまったみたいだ。
 
「だいじょうぶかい?」
気づくと、サンタさんが毛布を持ち上げてぼくの顔をのぞきこんでいる。
「しばらく寝ていたようだからわし一人でしばらくまわってきた。
さて、ここはどこだと思う?ヒント雪は積もっとるかな?」
 
みれば雪なんかどこにもない。そしてぬるい風がふいている。
「地面を見てごらん。」
ベッドから土をみてみるとサラサラの海辺の砂のようだ。
砂?
後ろをみてごらん。
振り返るとピラミッドがあった。
あ、じゃあスフィンクスは?
スフィンクスも少しはなれたところにどうどうと座っている。
すごいや。
ちょっとした歴史観光じゃないか。
 
ていうかもう明け方かもしれない。
 
今夜は地球をめぐってサンタさんのプレゼント配りを手伝って世界中をめぐっちゃった。
おお、もうすぐ夜明け。サンタさんのそりから見る地球の夜明けは素晴らしかった。少しずつ空の色が変化して、夕焼けみたいにピンクに色づいてくる。そりはかまわず走ってく。
あの子馬良かったな。クレアにも会ってみたかったけど。
 
そうこう思っているうちに自分のおうちに着きました。
 
サンタさんが、「今晩はいろいろ忙しくてクレアの家にもう一度行くのを忘れてしまったの。すまん、すまん。かわりに来年あの子馬とクレアの様子を見に行くというのはどうじゃ?本当はもっと早く連れて行きたいんじゃが。」
 
「うん、お願い。」とぼく。
「ぼくも馬に乗ってみたいな~。」
「そうか、そうか。」
 
と部屋にベッドが戻ってきました。
「ドッキング完了!」サンタさんが叫びます。
「では、来年な。待っておるぞ」
サンタさんのそりは♪︎シャンシャンシャンと音をたてながら明るくなってきた空のかなたに消えていきました。
 
さて、クリスマスの朝。
お母さんとお父さんも起きてきてツリーの木の下のプレゼントを見たら、
馬はいなかったけど乗馬レッスンのチケットがあった!サンタさん約束を守ってくれた!
他にもチョコレートのお菓子や綿菓子が。そして、一冊の絵本。
包み紙を破ってみると、タイトルは「クリスマスの前の晩」。
って、僕の話じゃないか!
ぼくはにっこりして、本を片手にお母さんたちに昨日の冒険話を聞かせたんだ。
 
おわり

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