BEMANI PRO LEAGUE 2021はなぜ盛り上がったのか
6月から始まったBEMANI PRO LEAGUE 2021もいよいよ来週10/2に千秋楽を迎える。
2020年当初の発表では正直どうなるのかと半信半疑だったが、ここまで毎回欠かさず見るくらいにはのめり込んでいる。
プロ選手たちの超高度なプレー、そして感情を揺さぶる数々の名場面に、非常に心が動かされた。
各配信の同接も毎回5千人を超え、1ゲームの大会、しかも初年度としては非常に盛り上がったと言えるだろう。
この記事では、BEMANI PRO LEAGUE 2021(以下BPL)を盛り上げた2つの「要因」について、筆者の考えを記してみたい。
ちなみに筆者はjubeat knitから音ゲーを始めて、弐寺はLincle Link (REFLEC BEATとの連動イベント)から少しずつ触り始めた。休止期間を挟んだりして、現在はSP九段程度の実力である。
その① よく練り込まれたルール作り
そもそもの話にはなるが、まず「音ゲーで」「団体戦で」「白熱した面白い試合を作る」という事自体が、かなりハードルが高いものである。その点において、BPLのルールはかなり良く出来たものであると言える。
「複雑すぎる」という声もみられるが、じっくり考えてみると、一つ一つが対戦を面白く見せるための重要な要素となっている事がわかる。
まず、一般的な音ゲーについて言えることとして、「運要素が少なく、実力差がかなりはっきり出る」という点がある。
音ゲーは対戦相手に介入できる要素がないし、1曲でも数百~数千単位のノーツがあるので、運によるブレはかなり少ない。ある人とある人が同じ曲で100回対戦した場合、20対80でも十分伯仲していると言える方で、ほとんどの場合どちらかが95勝、なんなら100勝してしまうだろう。対策の有無で勝つことはあるかもしれないが、同じ条件ならば、弱い人が強い人に勝てるということはほとんど無い。
元々持っている実力が違う場合、たとえ僅かなものであったとしても、それを覆して勝つのはかなり難しい。
この事はこと興行としては致命的で、見せる側としては「どちらが勝つか分からないハラハラした状況」を作りたいのに、ほとんどの試合で「強い人が順当に勝って終わり」という見ていてつまらない状態になってしまう。
団体戦においてはまた別の問題もあり、どの試合でも「強い順に後ろから並んでいるだけ」という、代り映えしない試合構成を作り出してしまう。
beatmania IIDXというゲームにおいては、
・鍵盤とターンテーブルという異なるコンポーネントが絡んでいることから、譜面傾向によって得意不得意が比較的出やすい
・RANDOM系のオプションがあることで、運によるブレの要素を生み出せる
という特徴があり、他の音ゲーと比べればまだ対戦として面白くなる要素がある。
といっても、これらはあくまで「音ゲーとしては比較的」というだけであって、単にIIDXでそのまま対戦しても、やはり強い人が勝って終わるだけである。
KACのような「一番を決める」という大会であればそれでも良いが、BPLは「興行」という側面を強く持っている。単に強い人が勝つというだけではない、「見ていて面白い試合展開」を作り出す必要がある。
BPLは、こういった問題を解決するためのルール構築がなされている。「強い人・強いチームが勝って終わり」にならないように、対戦ルールにおいて様々な工夫がされているのである。
長くなるので、箇条書きでまとめる。
・2曲勝負である……超短期決戦にすることで運やコンディションによるブレの要素を増やしている。また試合時間の短縮にもなる。
・譜面属性で課題曲をグループ分けする……課題曲に縛りがなければ、どの試合でも出る人が同じになる。譜面傾向に縛りを設けることで、「この試合にはこの人が出た方がよい」という変化を生み出せる。
・1対1で互いに1曲ずつ選曲する……「自分が得意な曲」や「相手が苦手な曲」を選ぶことで、地力の差を覆しやすい状況を作れる。
・ストラテジーカード……上記の選曲ルールだけだと、自選の1曲だけ練習していればよいことになる。だがそれでは引き分けの試合ばかりになるので、ストラテジーカードによって「自分の選曲が潰される可能性」を作り出し、課題曲をまんべんなく練習する必要性を生み出している。また使うタイミングによる戦略性も、試合を盛り上げるスパイスとなる。
・コストや出場回数の縛り……これは工夫というよりも、団体戦を成立させるためのルール作りという面が強い。しかし、10試合で200コスト以内かつ5回以上出場という配分はかなり絶妙なものであると感じた。
・先鋒1pt、中堅2pt、大将3ptというポイント配分……一般的な3試合の団体戦では、「大将戦を捨てて先鋒と中堅で確実に勝利し、総合2勝1敗で勝つ」という作戦が取れてしまうという問題がある。ポイント配分を変え「先鋒と中堅で全勝しても大将戦でポイントを取れなければ引き分けにしかならない」というルールにすることで、この作戦の有効性を下げている(それでも使う場面はあるが、デメリットがあるためあくまで戦略の一つとして捉えられる)。
・2ステージ制で3チームがセミファイナル進出する……チームによって「1stステージに全力を出す」「2ndステージに全力を出す」「1st2ndを通して好順位につける」という3つの戦略が取れるようになる。これによりシーズン内でもコスト配分がチームによって変わり、同じチームばかり勝つという状況になりにくい。実際にBPL2021においては、上記3つの異なる戦略を用いたROUND1, SUPER NOVA Tohoku, APINA VRAMeSの3チームがセミファイナルに進出することになった。
このように考えてみると、一つ一つのルールにちゃんと意味があり、BPLという興行を面白く見せるためのルール作りがなされていることが分かる。
音ゲーの対戦自体は実力差がしっかりと現れるものだが、選曲ルールの工夫で戦術による逆転要素を作り出し、さらに団体戦としてのルールの工夫でシーズンを通しての戦略要素を持たせている。これにより、ひとつのeSportsとしても面白く、見ている側にとっても毎回どうなるか分からないアチアチの展開を生み出すことに成功しているのである。
その② 魅力的なプロプレイヤー達
現代はeSports戦国時代であり、単にゲームで大会を作りましたというだけで観客を集めるのは非常に難しい。
そこには魅力的な選手の存在が不可欠であり、実力に加えてパフォーマンスやファンサービスで人々を熱狂させるプレイヤーの力がなければ、運営がいくら賞金や大会規模で盛り上げようともeSportsを成功させることはできない。
この点においては、音ゲーというゲーム性とeSportsの興行という側面は非常に相性が悪い。
筆者の主観となってしまうが、音ゲーというジャンルは基本的に対人要素がないゆえに、「自分の道を究めたい」というような人が集まる傾向が強い。プレイヤーの性質として、パフォーマンスやプレイスタイルではなくスコアという数字のみによって評価されたいという人、さらに言えば自分が満足できれば他人の評価などどうでもいいという人が比較的多いように思う。
もちろんこれ自体にはいいも悪いもないが、eSportsを盛り上げるという意味では、もはや現代においてはその価値観は通用しない。ゲームプレイだけでなくその外、対外的な発信にも意識が向いたプレイヤーがいなければ、eSportsとして観客を惹きつける、魅力あるものとはならないのだ。
その点を見ると、BPLに参加している選手たちは皆、実力だけではなく、発信の面にもしっかりと意識を持っている。もちろんプロテストの段階でそういった人を集めているという面もあるが、音楽ゲームというジャンルのトッププレイヤーで、これだけ発信力やパフォーマンス力を備えた人を集められたのは凄い事だ。
これはIIDXという、長い歴史があり、数々のゲームの興亡の中を生き残ってきたゲームだからこそ出来た事でもあると思う。
beatmaniaから始まったBEMANIは、かつてはアーケードゲームの中で一大ブームを巻き起こした。しかし現在はKONAMI以外からも多数のアーケード音ゲーが出ているし、スマホでの音ゲーも普及している。さらにはゲームセンターという業界自体が近年厳しい状況に立たされており、ゲームセンター閉店のニュースは後を絶たない。
beatmania IIDXはそういった歴史の中をくぐり抜けてきた根強い人気のあるゲームではあるが、今の状況ではあと何年シリーズが続くのか、決して安心できる状況ではない。その意識はKONAMIやゲームセンターだけではない、プレイヤー間にも共有されたものとしてあり、「IIDXを盛り上げたい」……いや、「盛り上げなくてはならない」という危機意識を、多くのプレイヤーが持っている。
だからこそこのBEMANI PRO LEAGUEという機会に、近年のトッププレイヤーだけではない、若手からベテランまで、数々のそうそうたるメンバーが集まった。そして、BPLを、IIDXを、ひいては音楽ゲームをもっと盛り上げるために、一人一人が魅力的なプレイヤーであろうと努力をしている。だからこそ、BPLはここまでの盛り上げを作る事ができたのだと思う。
今回BPLを盛り上げてくれたプロプレイヤー達に、感謝の意を示さずにはいられない。
シーズン初めにはDolce.とU*TAKAしか知らなかったのに、いつの間にか全員の名前やプレースタイルまで言えるようになった、いつのまにか推しのチームができた、推しの選手ができた。そんな人は多いはずだ。
そうしたBPLの盛り上がりは、IIDXの上達だけではなく、あらゆる方面に努力を怠らず、BPLを楽しいものにしてくれた選手の頑張りがなければ、絶対に成し遂げられなかったものである。筆者はそう確信している。
おわりに
この5か月間、筆者自身もそうだし、IIDX界隈、さらにはBEMANI界隈も、非常にBPLによって盛り上がったと思う。
それは大会自体を作ったKONAMIやチームオーナーだけでなく、DJや実況解説などの出演者、現場の様々なスタッフ、そして何より選手達、その全員の努力があってこそのものだと思う。
できれば来年、そしてその先も、この闘いを見届けたい。今はそう願うばかりだ。