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ささやかハード・ワーク・デイズ

「俺たちみたいな、転々と場所を変えながら農場で働く渡り労働者は、この世でいちばん孤独な存在なんだ。何しろ、家族もいなければ、住む場所もねぇんだからな。農場に来ては、そこで額に汗してあくせく働く。その稼いだ金を握りしめて街に出て、ぱっと使い果たす。そうしたら、また新たな働き口の農場に向かい、汗水たらして遮二無二働くしかねぇ。明日の希望があるわけじゃねぇし」

ジョン・スタインベック『ハツカネズミと人間』, p29

ハツカネズミと人間が織り成す入念な計画の下での目論見も
やがて頓挫する。
約束された喜びは満たされず、
悲しみと苦しみの中に溺れ苦しむ

ロバート・バーンズ『ハツカネズミに寄せて』

休日である。
遅くまで寝ていたかったのだけれど6時くらいには目が覚めてしまって、仕方なく本を読んだり窓の外の濃いオレンジが家々を満たしていくのを眺めていた。

昔はいくらでも眠ることが出来た。
今ではどんなに疲れていても6~7時間くらいで目が覚める。最後に「よく眠れたな」と思えたのはいつのことだったか、もう思い出すこともできないでいる。

この日記は、読書の休憩として書かれている。

この街に来て半年、農場でのバイトを始めて4ヶ月くらいが経った。バイトを始めた頃はまだ残暑の厳しい時期だったのだけれど、最近はじっとしていると凍死してしまうのではないかと思うくらい寒い。海沿いの農場なので、太平洋から吹いてくる風がさらに気力と体力を削ってくる。

作業は本格的に収穫に移行し、四つん這いのような恰好になって畝の玉ねぎを全て引っこ抜く「総取り」や、中腰のまま収穫に適した玉ねぎを集める「間引き」など、とにかく疲れる姿勢を長時間続けたり体力を使うものがメインになった。加えてこの寒さである。まともな防寒着を持っていない私は作業中、太陽が早く出てくれないものかと祈りさえしている。

雲間から気まぐれに零れてくる朝の陽射しだけが、凍えるような野良仕事における唯一の癒しである。

昼休憩は事務所兼倉庫の前にあるベンチに腰掛けて、主に買い漁った4割引きの総菜パンを食べている。たまに隣にある直売所でおかずを買ったりもする。
基本的にしょぼい食事をしているからか、パートの方によく食べ物を恵んでもらったりして、順調に餌付けが進行している。

ベンチで日に当たっていると社長が「日向ぼっこしてんの?」と笑いかけてきたり、年齢の近い社員さんが座ってきて世間話やら愚痴やらを聞いたり、本好きのおじいさんと最近読んだ本やおいしいコーヒーの情報を交換したりと、日々の会話不足も解消されとても平和に過ごしている。
勤務時間を4時間から6時間に変更したおかげでお昼を事務所で過ごし、こうした時間を持てるようになったと思えば、多少作業がしんどくてもまぁ許容範囲であると言える。

たぶん今は、それなりのバランスで生活を回せているのだと思う。

とにかく今日から連休である。
「何もしない」を楽しんでやることにしよう。

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