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クライアントのリカバリー効果を最大限に引き出す~NASM OPTモデル

ワークアウトの効果を最大限に引き出すためには、優れたトレーニングを行うだけでは不十分です。一貫したパフォーマンスには、トレーニングとリカバリーの最適なバランスも必要不可欠です。しかし、多くのクライアントにこのことについて言及すると、あまり関心を示さなかったり、抵抗したりする人もいます。計画的にリカバリーについて考えるクライアントは非常に少なく、中にはリカバリー期間がトレーニングの目標達成の妨げになると信じている人もいます。
 
したがって、私たちフィットネスの専門家は、クライアントがトレーニングだけでなく、しっかりとリカバリー期間を設けるために、リカバリーの重要性を伝える責任があります。様々な研究のレビューを参考に、リカバリートレーニングの実質的なメリットや最適なリカバリーのための適切な戦略をあなたのクライアントにも適用してみましょう。さらに、 NASM Optimum Performance Trainingモデルでは、リカバリープログラムを統合する方法の実践的な概要を学ぶことができます。
 
◆リカバリーの定義
 
リカバリー(回復)とは、ストレッサーの減少、変化、またはストレッサーからの脱却です。リカバリーのより包括的な定義は、「個々の持つ能力や機能性を再確立するための、内外的な複数のレベル(例えば、心理的、生理学的、社会的)におけるプロセス」です。
 
運動やトレーニングは、組織の損傷、炎症、痛み、倦怠感につながります。これは機能的には過度な負荷をかけたとも言えますが、多くの研究者は、リカバリーが達成されずにその状態が続くと、オーバートレーニング症候群の前兆であるアンダーリカバリー(回復不足)という状態になると指摘しています。
 
アンダーリカバリーを回避するために、戦略的なリカバリー法を体系的に適用することから始めましょう。戦略的なリカバリー法とは、トレーニングセッションの後、またはトレーニングセッションの間で行うアクティビティで、ケルマンらは、そのようなアクティビティを、①パッシブ (例:マッサージ)、②アクティブ(例:運動後のクールダウン)に分けました。
 
その他のリカバリーのカテゴリーには睡眠、栄養、神経系の倦怠感の軽減、そして効果的なストレス管理スキルなどが含まれます。これは心身共に体をリカバリーさせるために不可欠なことです。
 
①パッシブ リカバリー テクニック(マッサージ、クライオウセラピー〔凍結療法〕、圧迫衣服、水中浸漬、電気刺激など)は、効果的なリカバリー方法として、多くのエビデンスを集めています。これらの方法にはライセンスまたは高価な機器が必要なため、この記事では割愛します。以下では②アクティブなリカバリー戦略にフォーカスします。
 
◆リカバリーを測定する
 
リカバリーの程度を測る尺度として研究で最も一般的なのは、運動のパフォーマンス(例えば、ストレングス、パワー、スピード)やワークアウト後の痛み(遅発性筋肉痛、またはDOMSと呼ばれます)です。リカバリー方法により痛みが軽減した場合や、筋力やパワーをより早くリカバリーできた時に、そのリカバリー方法は効果的であると言えます。
 
リカバリーテクニックは様々ありますが、それぞれ、筋肉から代謝産物(損傷したタンパク質など)の除去を促進し、新鮮な栄養素を送る、という同様の目的を目指しています。そして一般的に言われている“筋肉が疲労すると乳酸が溜まる”というのは正しくないということも付け加えるべきでしょう。
 
乳酸の生成に筋肉の疲労や痛みは関係がなく、乳酸を「取り除く」または「排出する」必要はありません。レンクラヴィッツ博士が指摘するように、運動中のアシドーシス(血液の酸塩基平衡を酸性側にしようとする状態)は、細胞内のプロトンの蓄積の結果です。乳酸はこのプロトンの蓄積に反応して生成され、細胞の中和または緩和を助けます。乳酸の生成は、実際には激しい運動に対する肯定的な反応なのです。
 
◆アクティブ リカバリーを行うタイミング
 
アクティブ リカバリーは、運動セッション直後(クールダウン、ストレッチ、筋膜ローリング)、または運動セッションの間(低強度の運動)に実行します。各リカバリーがいつ実施されることを意図しているか、またタイミングが重要である理由、そして研究によりわかってきたことを見てみましょう。
 
◆カーディオクールダウン(エクササイズ直後)
 
5〜10分のカーディオクールダウンはアクティブ リカバリーの中で最も一般的な方法の一つですが、他のリカバリー方法よりも優れていることが研究でも報告されています。ある研究では、従来のクールダウンは激しい運動後のパッシブ リカバリーと同様だと指摘しています。
 
従来のカーディオクールダウンは、体の運動状態から非運動状態への移行をスムーズにする可能性があります。研究では低強度または中強度の有酸素運動が遅発性筋肉痛の悪影響を減少させるという結論には至っていません。したがって、カーディオをクールダウンの一部として含めることは間違いではありません。ただし、遅発性筋肉痛の減少に効果的ではない可能性もあることを知っておくことは重要です。
 
◆スタティックストレッチ(エクササイズ直後)
 
ストレッチは最適な筋肉の長さを復元し、筋肉の不均衡を防ぐために行われてきました。これは遅発性筋肉痛の予防または軽減する方法としてよく耳にしますが、この概念をサポートするための研究はほとんどありません。
 
しかし、他のリカバリー方法と組み合わせたストレッチが効果的であることは証明されています。カジェハ=ゴンザレジタルらは、スポーツの試合直後にマッサージとストレッチを組み合わせて行うと回復に効果的だと述べました。
 
しかし、トレーニングセッションの直後にマッサージを受けることができない場合はどうすればよいでしょうか?そのような時は筋膜をローリングする方法があります。
 
◆筋膜ローリング(エクササイズ直後)
 
筋膜ローリングに関する研究は過去5年間で増加しています。それらの研究では、ローラーマッサージをアクティブリカバリーの一部として適用することで、リカバリーのプロセスをスピードアップする可能性を指摘しています。
 
最近のメタ分析では、運動後の筋膜ローリングに関して、遅発性筋肉痛による痛みの軽減や、わずかではありますが、スプリントと筋力のパフォーマンスの回復を助けることも発見しされています。しかし、現在、ローラーマッサージを使用することで不快感を軽減できる理論的な根拠はわかっていません。
 
ホットフィールらは、間質液(細胞外液のうち血液とリンパ管の中を流れるリンパ液を除く体液)の蓄積による腫れや炎症性物質の存在が遅発性筋肉痛の痛みの原因である可能性が高いことを示しました。直接の圧迫やローリングが蓄積された体液の循環を促し、痛みの軽減に繋がることを説明できるでしょう。
 
さらに運動後の圧迫と遅発性筋肉痛について詳しく説明しましょう。ベリアードらとデュピュイらは、運動後に使用する圧迫衣服に関する調査をし、遅発性筋肉痛が実際に減少したことを発見しました。
 
ローラーマッサージをリカバリー方法として取り入れることで、炎症性の液体や代謝老廃物の排出など、神経系を介して神経生理学的効果が発生すると考えられます。重要なことは、筋膜ローリングは痛みを取り除くことはできないものの、大幅に軽減する可能性があるということです。したがって、運動後の筋膜ローリングとストレッチを組み合わせることで、「マッサージとストレッチ」と同様のリカバリー効果が得られる可能性があります。
 
◆低強度のエクササイズ(セッション間)
 
チャン、ヒューム&マクスウェルらによる詳細なレビューでは、セッション間の低強度の運動は、痛みを軽減する最も効果的な方法であったと結論付けられました。この低強度の運動は、既に痛みを感じている時に有益であることが重要です。上述のレビューでは、遅発性筋肉痛が誘発された後に1〜2日間、エクササイズに加えて全身運動を行う必要があると述べられています。
 
エクササイズ中の筋肉のリズミカルな収縮は、遅発性筋肉痛に関連する炎症性体液を循環させるための効果的な「ポンプ」として機能し、また組織を温めることで一時的に痛みを軽減させる効果が期待されます。
 
複雑な皮質を通じて痛みの軽減効果を生み出す証拠はさらに多くあります。アイオワ大学の研究では、膝関節置換術を行った人や、変形性関節症やその他の慢性疼痛症候群を患う人の痛みを運動が軽減させる可能性を実証しました。運動が痛みの発生メカニズムの抑制や興奮の減少を促し、中枢神経系を管理すると思われます。
 
このような研究で適用される運動は、一般にバイクやトレッドミルを使用した従来の有酸素運動が多く、なぜならこのような器具は手に入れやすく、強度がコントロールしやすいからです。また自重トレーニング(キャリステニクス calisthenics)は、伝統的な治療法と組み合わせることで痛みを大幅に軽減するのに役立ちます。
 
◆NASM OPT™モデルのリカバリートレーニング
 
多くの研究を要約すると、効果的なリカバリーは①トレーニング直後の筋膜ローリングと軽いストレッチ、および②高強度トレーニングのセッション間での低強度の全身運動、と言えるでしょう。

NASM-OPTモデル

NASM OPTモデルを参考にすると、フェーズ1:スタビライゼーション エンデュランス トレーニングを1〜2日、「リカバリーデイ」としてフェーズ3、4または5のワークアウト後に計画することができます。このフェーズ1のワークアウトは、次の点に注意しながら実行する必要があります。
 
① SMR(Self-Myofascial Release 自身での筋膜リリース)を行う場合は、硬くて痛みを感じるポイントでキープしない
 ローリングの目的は、間質液を循環させることです。動きを止めずにゆっくりと前後にローリング(1〜2インチ/秒で30〜60秒間)します。「1か所に圧力をかける」ローリング法は運動前のルーティンで行いましょう。
② プライオメトリクスおよびSAQトレーニングは避ける
 衝撃や高レベルの偏心減速を伴うため、プライオメトリクスと、SAQ(スピード=Speed、アジリティ=Agility、クイックネス=Quickness)は避けましょう。このような運動は、遅発性筋肉痛に関連する不快感を悪化させる可能性があります。
③ 体重移動により可動域を高める運動を取り入れる
 たとえば、通常のランジの代わりに、オーバーヘッドリーチを追加します。
④ レジスタンス:テンポを変える
 
◆リカバリーについて研究する
 
リカバリーと再生は、アスリートや一般の人々、そして研究者にとっても興味深いトピックです。研究やリカバリーの技術が成長しているので、あなたがあなたの環境、そしてあなたのクライアントにとって何が最適か、研究することをお勧めします。
 
リカバリーについて、できるだけ多くを学ぶことで、すべてのクライアントにより包括的なサービスを提供できるようになります。単にリカバリーを推奨するのではなく、リカバリーセッションを計画することで、クライアントはより早く目標に到達し、あなた自身のビジネスをも後押しすることができるでしょう。
 
◆コレクティブ エクササイズについて専門性を高める
 
NASMのコレクティブ エクササイズ スペシャライゼーションは、すべてのクライアントに適用できます。つまり、新規および既存のクライアントに付加価値をもたらすことができます。 NASM-CESの取得は 、“学ぶこと”への絶え間ない情熱と投資です。今日のフィットネス業界のリーダーとしての地位を確立するために、ぜひNASMを活用してください。
 
NASMブログ記事より https://blog.nasm.org/
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カイル・スタル
NASM-CPT, CES, PES, NASMマスターインストラクター


カイル・スタル


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