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"マッスルクロック”=筋肉に発現する時計遺伝子とは?〈1〉

エイミー・アッシュモア, PHD

多くのアスリートは、毎日同じ時刻にトレーニングすることを好みます。最も体が目覚めている時、空腹でない時、最も集中している時、または最もストレスが少ないと感じるとき、など理由は様々でしょう。

毎回同じ時間にトレーニングを設定する方が簡単だと思う人もいるかもしれません。それもおそらく正しいです。しかし、それは単に心理的な理由だけでなく、生物学的な理由があることも分かってきました。それは誰もが知っていて、しかし実際はほとんど聞いたことがないことかもしれません“マッスルクロック”=筋肉に発現する時計遺伝子、つまり体内時計です。

□マッスルクロック=筋肉に発現する時計遺伝子とは何か?

マッスルクロッとは、脳に存在する中枢の時計遺伝子と同じように、筋肉に発現する時計遺伝子です。中枢時計は体のリズムをモニタリングし調整しますが、マッスルクロックは主に筋肉の活動と筋肉以外の部分やそれを取り巻く環境の変化とを同調させます。

骨格筋、生物学的システム、体の外部環境が同調することで、全身に影響をもたらすリズムが確立され、スポーツやフィットネスのパフォーマンス、病気の予防、健康に影響を与えます。

マッスルクロックについて、細胞レベルから体全体のシステムまで広く学ぶことは、トレーニングの基礎を理解するのに役立ちます。ここでは、マッスルクロックに関する生物学的研究の概要と、それらに基づくプログラミングの原理(生体力学的類似性やインターミッテント・レストなど)、またそれらを適用したプログラムの例を紹介します。

プログラムを作成する際にこれらの要素を考慮することにより、クライアントが各エクササイズセッションからより多くの効果を得ることができ、また、長期的な健康と、病気の予防効果を高めることができます。

□マッスルクロックが重要な理由

体重の40%以上を占める筋肉は体に大きな影響を及ぼします。600を超える骨格筋にはそれぞれに時計=クロックがあります。つまり、体内には600を超える独立したマッスルクロックが存在するのです。これらのマッスルクロックは、24時間周期で骨格筋の活動と脳に位置する中枢時計とを同期させる働きをします。

さらに、マッスルクロックは、毎日の筋肉活動をホルモンのレベルや体温の変動などの自然な体の周期に合わせるように機能し、体内の他の臓器やシステム(例えば消化器系、肝臓、食生活など)、そして体外の環境(昼と夜の光のレベルの変化など)に伴う変化にも影響を与えます。

マッスルクロックは、マッスルクロック間で繋がり、また腱や靭帯を含む他の筋骨格系の末梢時計とも繋がっています。重要なのは、脳内の中枢時計がマッスルクロックを含む末梢時計を直接指揮し、あるいは筋骨格系の末梢時計が脳の中枢時計をコントロールするのではない、と理解することです。ただし、後述するように、マッスルクロックは運動を介して、間接的に中枢時計に影響を与えます。

□マッスルクロックはどのように繋がるのか

筋肉と体のシステムの同期は、細胞レベルでの複雑なコミュニケーションによって行われます。「転写因子」と呼ばれるDNAに結合するタンパク質によって、筋肉機能の調節を助けます。

骨格筋が運動中のような収縮を繰り返すと、筋肉に特有のタンパク質の一種であるミオカインを放出します。中枢時計を含む体の他のシステムは、ミオカインの放出を、筋肉が機能していることを示す信号として認識します。

この放出と認識を通じて、骨格筋と他の体のシステムへの伝達が起こります。最終的には運動中と運動後に同期することによって、パフォーマンスとその効果の最大化が期待できます。マッスルクロックを健康とフィットネスにおいて最適化する方法を理解するための鍵は、それらが時刻によってどのような影響を受けているかを認識することです。

□フィットネスを行う時刻が筋肉にとって重要である理由

マッスルクロックを含むすべての体内時計の目的は、体の内外の環境で起こる変化や情報をキャッチし、24時間周期に体を合わせることにあります。一定のスケジュールでトレーニングをすることで、体がアクティブな活動と休息を認識し、筋肉や他の体のシステムが整う概日リズム(24時間周期で変動する生理現象)が生まれます。

フィットネスやスポーツを行う際に、体や筋肉に自然に発生する変化に合わせた定期的な運動スケジュールを順守すると、より効果的となります。これらの変化には、ホルモンのレベルや筋肉の柔軟性の変化、また時間帯による酸素消費率の変動や、筋肉のパフォーマンスのピークに固有する生化学的な基質(酵素によって作用される物質)のレベルの変化が含まれます。

筋肉に特有のタンパク質の一種、ミオカインが運動中に放出されると、それらは瞬時に筋肉活動に関する情報を提供するだけではなく、いつ筋肉がアクティブになっているかに関連する時刻を体に伝えるという重要な役割を担っています。

□毎日同じ時間に運動する必要があるか?

毎日同じ時間に運動するというのはよい考えです。毎日同じ時間に骨格筋の収縮を繰り返す運動を体系的に行うことで、体は学習し、日々の運動をする時間を予測します。このことによって、マッスルクロックは筋肉のパフォーマンスを高め、筋肉と他の体のシステムとを同期させ、健康とフィットネスを向上させることができます。

□マッスルクロックに関する研究

マッスルクロックは2000年代初頭に発見されましたが、それに基づいた運動プログラムの作成への取り組みが始まったのは最近のことです。トレーニングの時間帯の影響についての大きなエビデンスを提供した2つの研究の詳細を紹介します。

1つ目は、運動が行われる時間に焦点を当てたもの、2つ目は、定期的なスケジュールを守ることのメリットを示したものです。

(「たった1度のトレーニングの後に変化は起こるのか」につづく)

NASMブログより

https://blog.nasm.org/muscle-clocks-and-the-value-of-synchronized-training

 

 

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