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⚫️ルンバ性別未詳事件〜ルンバにオスとメスがあるか!?

 ところで、これは本日2020年11月4日の事件である。

 本日実家に行ったら、二階の客間の絨毯の真ん中に、ドーンとルンバが鎮座していた。

 なんだこれ。

 いやルンバなのは知っている。
 数年前、父が気まぐれに電気屋の三河屋さんに言って購入したルンバである。
 父は、これで自分の部屋を掃除するんだと意気揚々としていたが、高齢者の片付けられんものの多い部屋とルンバの相性が果てしなく悪いことはお分かりだと思う。
 ルンバは一度稼働したきり忘れられ、父の部屋の片隅に押し込まれていたはずであった。

 午後5時半ころ、私は台所に降りて行き、母に聞いた。
「お母さん、あのルンバ、なん?」
 母はいいところに来たばかりに目を輝かせ、
「あんたいいところに来たね!
 ルンバ、全然動かし方がわからんとよ!
 ちょっと見てくれん!」

 なんでも、父の部屋で眠っている高額な掃除機──ルンバが勿体無いと思い立ち、使おうと思ったが全く使い方が分からないのだと言う。
 そう言われても、前回のルンバ購入かつ放置にはわたしはまったくのノータッチで、ルンバは未履修である。
 まあ、今時のとは言え所詮家電、ある程度は見れば分かるだろうと二階へ取って返す。
 母もついてくる。
 夕食の支度をしていたのでは?

 ついて来なくてもいいのよ。

 ルンバを眺め渡して、電源スイッチはわかるが、充電がよく分からない。
 その前にゴミを貯めておくダスト容器に何やら埃が残っている。
「お母さん、ゴミ入ったままやけど。」
「あら本当、前掃除してそのままになってたんやね。」
 いやちょっと勘弁して。
 これ何年越しのゴミ?

 とりあえずゴミを捨てていると、母が言う。
「なんかコードが見当たらんやろ?
 中に仕舞われてるんじゃないかと思うんやけど。」
 なに言ってんだ、有線のルンバがあるか。

「いやいや、コード付きのルンバとかないやろ。
これ、充電せないかんやろ、充電器かなんかなかった?」
「分からんねえ、お父さんに聞かな。
 お父さん、夕方から出かけたらいかんって言ったのにさっき出かけたんよ。」
 時間は午後6時になろうとしていた。
 公園立ち尽くし事件再びか!?と一瞬思ったが、父がちょうど帰ってきた。

お父さん、ルンバの充電器知らん?
 お母さんがわからんかったって。
 持ってきてよ!」
 父は、自分の部屋によたよたと向かう。

「とりあえず、これ充電切れてるから、充電せんと使えんけん。」

 母に説明していると、父が何かを持って二階に上がってくる。

 ──どう見てもそれは。


「お父さん、なに、それ延長コードに見えるんやけど。」

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 父に突っ込むと、父はアホなので落ち着き払ってルンバを指差し


「これはオスじゃないから、メスだろ?
 だったら、このオスのところをメスに挿さないといけないだろ?」


 バカなんだうちの父は。

 ルンバに雌雄があるか!
 ルンバに延長コードを挿すところがあるか!
 延長コードのオスをルンバに挿して、残った反対側の延長コードのメスをどうするつもりだよ!

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 頭によぎったすべての言葉を圧殺して、私は思わず隣にいた母に聞いた。
「ねえ、お母さん。
 私、お父さんの言ってること一ミリも分からんのやけど、分かる?」
「分からん!」
 即答である。

 アホな父はアホなので、得意げに延長コードをかざし、もう一度繰り返そうとした。
「これがオスだから──。」
 私はもう聞いていなかった。
 最初からそうすればよかったと思いながら、「ルンバ」「説明書」とiPadで検索する。
 出てきた取扱説明書を読むと、やはりルンバは「ホームベース」で充電するらしい。

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 私は該当のページの画像を拡大して母に見せた。
「ルンバのそばにこれ無かった?」
 実際にルンバを取り出してきたのは母だ。
 母は
「あったかもしれん。
 ちょっと見てくる。」
 と言って部屋を出て行った。

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 しばらくして、母が紺色のおしゃれなギフト袋(こんなやつ)を持ってくる、まさか。
「あったよ!
 この中に入ってる!」

 絶対に使っていなかったことがわかる収納である。

 中からは、ホームベースと接続コードが出てきた。
「じゃあ充電せんと使えんけん充電しようか。」
 そう言って線を繋ぐ。

 ルンバが点灯する。
 何故かルンバの前に正座する母。
 なんでや。


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 なお、父は、このやり取りの間に、いつのまにか何事もなかったようにいなくなっていた。

「これでしばらく充電したらいいはずやけん。
 すぐには使えんよ。
 あと、これ、充電中は節電して充電するけん、表示ランプが消えるらしいよ。

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 言ったそばから、点灯が消える。
「消えたよ!?
 どうしたらいいん!」

 言ったやん消えるって。

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「いや今充電してるけん。
 確認するんやったら、ホームボタン押してくださいって。


 そしたら、充電できてたらこの電池のところが緑色になるし、まだだったらオレンジって。
 ほら。」
 一度押すと、表示はまだオレンジに点灯する。
 母はそれを見つめ──、60秒はすぐ経つので、また消えた。
「はっ、あんた消えたよ!」
 そうね、消えるものです。言ったやん?

「うん、とりあえず充電しといて上げるからお母さん夕ご飯まだやろ。
 行ってきたら。」
 とりあえず、母を促して、しばらく充電する。
 満タンではないが、仮稼働にはまあ良いだろうと判断して稼働させると、これがどうも、高齢者の家と相性が悪い。

 客間は、実家の中で一番余計なもののない部屋なのだが、まずプラスティックのゴミ箱にぶち当たって突き倒し、返す軌道で、親が無造作に立てかけていた写真の額に突っ込んだ
 写真の額を二枚バタンと前に倒したところで、ルンバはサッと戻って、今度は親がお盆やポットの目隠しにかけていた布を巻き込んだ。
 その次には親が重ねて敷いていた絨毯の段差に引っ掛かって脱出できなくなり、その度ごとに逐一救出して、これは母一人に稼働を任せるのは無理だなと思う。


 午後7時になっていた。

 夕食も終わったろうと、母に声を掛け、実際に見てもらう。
 母はいちいち
「あらっ引っ掛かったよ!」
「あらー、できらんとやねー。」
 と驚きながら、何故かルンバの前に立ち塞がった。

 ルンバは何度か母にぶつかった後、斜め右に翻っていった。
「……お母さん、なんしようと?」
「いやあっち掃除してもらいたいと思って。」
 真反対を指差すが、そういうのはルンバのAIには無理なんじゃないかな?

 しばらく動かすと、元々満タンにはしていなかったので、充電が切れる。

「あー、充電切れた。
 とりあえず、また充電しとくから。」
 ホームベースに載せて60秒経ったら、ランプの表示の照明が消え

る。

 もちろん、そのことは、さっき説明しているのだが。

「あらっ消えたよ!
 いいとね!?」

 やはりその一言が来るまでがセットだった。

(終わり)

もののついでにルンバ貼っとくね🤣



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高梨
投げ銭歓迎。頂けたら、心と胃袋の肥やしにします。 具体的には酒肴、本と音楽🎷。 でもおそらく、まずは、心意気をほかの書き手さんにも分けるでしょう。 しかし、投げ銭もいいけれど、読んで気が向いたらスキを押しておいてほしい。