盗人から返ってきたカーナビ

こんばんは。
前回を見てくださった方はありがとうございます。
昨日書き終わって、幸が薄い人間だけど不幸ではない気がしてきました。書いて気持ちを整理するって大事ですね。

それで、昨日ちょっとだけ書いた「車上荒らしに遭った件」を今日は書きます。

まず前置きとして、
時は2000年代後半、ニコニコ動画全盛期でAmazonの認知度が上がってきたくらいの時期です。
私はアパートに一人暮らしで、車をアパート隣の屋外契約駐車場に停めていました。

ある日、2日くらい大雨がアパートに降り注いでいたころ、
私は他県に遊びに行って難を逃れ、晴れ間に帰宅しました。

車に乗ろうと駐車場に向かいながら、
『あれ?私の車の窓開いてるなぁ。』
と自分の不用心さに衝撃を受けていました。
そして車の隣まで来た時、車内がびしょ濡れなことにさらに衝撃を受けます。
前2日大雨だったのに窓が開いてるわけなので当然ながら、
なにやってんだよ自分!と自分に激おこしてました。

そして車のカギを開け、ようやく事態に気づきます。
それまで、濡れそぼったシートと水たまりと化したドアの小物入れに目を奪われ、実状を把握できていませんでした。

車内にあったはずのあれこれが、
ミニゴリラ(製品名)の取り外せるカーナビも、
修学旅行で行った渋谷のタワレコで買ったケルティック・ウーマンのCDも、
座席下に隠していた、ヒール外出時にこっそり運転用に履き替えていた片方に穴の開いたぺたんこパンプスも、
ヒョウ柄のくったくたなブランケットも、
なにもない!一切ない!

あぁ、車上荒らしの被害に遭ったのだ、と空っぽの車内を見て把握しました。
が、一番最初に思ったのは、『いや、穴のあいたパンプス、いる?』でした。
あと、当時フリマアプリもない時期、地方だとニッチ過ぎる『ケルティック・ウーマンのCD、リサイクルショップで値段付くと思ってんの?この辺じゃ買えないのに!!』も思いました。私は大好きですが、地元のCDショップには置いていませんでしたし。

今思えばくたくたなブランケットも盗られてるし、使い古し好きとかの変な趣味の人だったんですかね・・・。
「盗るなら全部盗ってやる!」的な人だったのかな。中途半端に残ってても気持ち悪くて捨てそうだし。

私が窓を開けていたから狙われたのか、
それとも何かの手法を使ってヤツ(今後犯人をヤツと呼びます)が狙っていたマイカーの窓を開けたのかはわからないままです。

呆然としながら、警察に人生で初めて自分から電話しました。
脳がボケてて、
『911だっけ、119だっけ?あれ、それって時報だっけ?あ、110番か。』
みたいなふわふわした感じでした。

30分くらいしてパトカーが来て、警察官2人で車中を見分し、
「なくなったものとか、状況とかを聴取しないといけないので、近くの交番までご自身の車でついてきてくれますか?先導するので。」
と言われました。
『え、このびしょびしょな車に乗るの?』と正直思いましたが、しかし、パトカーに同乗するのも嫌です。
多分、警察の方もどっちがいいかを脳内シュミレーションして、「びしょびしょな車内」が優勢になったに違いありません。
私も、パトカーに乗せられて移送されていく奴、になりたくなかったのでびしょびしょな座席に座り、
交通違反者の気持ちを味わいながらパトカーに先導されて交番へ向かいました。

警察の人は大変淡々としていて、
被害届けに拇印を押すときに『なんだか犯罪者みたいだな』と一瞬ためらったときの眼圧がすごかった以外は、特に思い出はないです。
・・・いや、ありました。
警察の人が、盗難品リストを作るとき、
「パンプスは、穴が開いてるんですよね?片方。」
とつぶやきながら、「穴あき」と書くかためらっていました(手の動き的に、多分)。
「うーん、穴あきなら実用できないし売れないでしょうから被害総額には入らなそうだなぁ。他もなぁ。被害額としてまともに出るのはカーナビだけですね。」
と、困った下がり眉で言われました。


それから時は過ぎ。
カーナビがないけど買うのも負けたみたいで(今思うと意味わからないですね)マップルで頑張って、カーナビのなかった時代の先人たちに思いをはせつつ、
車内用CDを自作したりしながら1年を過ごしました。
とにかく思い出す度に、犯人がこの辺だと手に入らないケルティック・ウーマンのCDを盗っていったことにはずっと怒っていました。


そんなある日、警察から携帯に電話がかかってきました。
というか、一般的な電話番号なので警察だとはわからないまま「はい。」と出ました。

「〇〇署の者です。以前車上荒らしの被害に遭われましたよね?
 あのー、犯人が捕まりまして。最近捕まって、聴取していたら数年にわたってかなりの件数盗んでいて犯人が覚えていないのも多分たくさんあるんですけども、あなたの車の犯行については覚えていたみたいでして。
 で、大抵の盗品は手元から離れていて、この規模で結構前の犯行なのでかなりのレアケースなんですが、あなたの盗まれたカーナビは見つかりまして。
 それで、大変言いにくいのですが、どうやら犯人が、あなたのカーナビを自分用に使っていたようなんです。それで、あの、見つかったのは見つかったので返却することになるんですけれども、よろしければ一度署まで来ていただいて検分をお願いしたいと思いまして。気持ち的にちょっと嫌かもしれませんが、ご自身の物であるということを見ていただきたいわけです。」
 
そんな、終始申し訳ない雰囲気を醸し出しながらの電話でした。
(電話の内容のニュアンスはこんな感じでしたが、言い方は違うと思います。)

私としてはもう1年も前のことで気持ち的にも整理できていましたし、
『なんだそれ、逆に面白いな』と思ってしまいました。
警察の方には「検分に行きます」と返事しました。
ひょっとして、ケルティック・ウーマンもあるかもしれません。

警察署で見せられたのは間違いなく私のカーナビでした。ミニゴリラで、見た目もですが、製造番号が一緒でした。
(残念ながら、そこには悲願のケルティック・ウーマンはありませんでした。)
警察の方に言われるがまま、指差し写真「コレです、という感じで」を恥ずかしさから困り眉で撮り、大きすぎる紙袋に入れられたカーナビを貰って受け取りましたで証にサインし、ほんの15分程度で署を後にしました。

夜、自宅に戻ってから、
警察の方がきれいにしてくださっていたカーナビを念のためもう一度きれいに拭き、『結構きれいに使ってんなぁ』とか眺めながら一杯いただきました。

翌日、戻ってきたカーナビを捨てるのも忍びなく、『よく戻ってきたな』と脳内で声をかけながらマイカーに設置しました。
運がいいことに私はマップルで頑張っていたので後輩カーナビもいませんし、1年ぶりだけれども私のカーナビは元の座にすんなりと鎮座したわけです。
ついでに『自宅登録でもしとくか』と、カーナビの設定から自宅ボタンを押すと、
「〇〇市〇〇町〇丁目~」と、謎の住所が出てきました。1年前セットされていた私の自宅ではない、知らない誰かの自宅が登録されています。

『ん?うちからめっちゃ近くない?』と戦々恐々としながら、
『いや、これ絶対ヤツの住所じゃん。警察の人も「犯人が使ってた」って言ってたし!』
と憤りつつ、折角なので思い出として残しました。そう、私の自宅を登録することはやめました。

それから2年くらい、私はずっとそのカーナビを使い続けました。
折角返ってきた、警察曰く「レアケース」、もとい奇跡のカーナビですし、私の不運を打ち消してくれるのでは、と充電ができなくなるまで(多分寿命まで)使いました。

たまに自宅ボタンを押してルート案内でヤツの家を見に行きたくなる衝動を抑えつつ、結局一度も見に行きませんでした。
逮捕された後で引っ越してるかもしれませんし。


という、私の筆力のなさから思いもかけずなんかホラーな、
「世にも奇妙な物語」風な仕上がりで終わってしまいましたが。

同じ経験してる人いるのかな?
世界は広いので何人かは同じ境遇仲間もいるでしょうね。きっと。
仲間に出会えたら「返ってきた犯人の自宅登録済みのカーナビ」について一晩中飲みつつ語り合いたいですね。
ちなみに私は最近うすーくしたお湯割りの焼酎が好きです。

次は、全然別件の、
チベット人自治区で初めての食物アレルギーに死にかける、とインド洋横断中の機内でフレッシュジュースに死にかける、
の食物アレルギーネタをお送りします。
警察ネタと病院ネタの合算みたいな交通事故話のシリーズ前に、関連でちょっと明るい病院ネタをしておきたいと思います。

何かあったときに近くに対応してくれる病院があるって、幸せなことだなぁ。
と日本の都市部にいて思います。

それでは、良い夜をお過ごしください。