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第76回(2023年)日本推理作家協会賞【長編および連作短編集部門】候補作を全部読んでみた

5月11日に発表される日本推理作家協会賞【長編および連作短編集部門】にノミネートされている5作品を読んだので、一気に感想を書いていこうと思います!

ミステリ好きとしては注目せざるを得ないこの賞ですが、私が1番好きだったのは「最後の鑑定人」(https://amzn.to/41nejRN)です。

でもインパクトでは「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」(https://amzn.to/42omfUa)と「プリンシパル」(https://amzn.to/44Pi8Ca)も負けてない…。

どの作品が選ばれるのか、とても楽しみです!

トリックや犯人に関するネタバレはありませんが、ミステリは前情報なしで読みたい!という人はここでページを閉じてくださいね。


「夜の道標」 芦沢央

1996年に起こった事件と、それによって動き始めた登場人物たちの運命について描いた社会派ミステリです。

冒頭からSLAM DUNKがきっかけでバスケットボールを始めた男の子が出てきてテンションが上がりました。ちょうど今SLAM DUNKにハマっているので…!これがリアルタイムでSLAM DUNKを読んでいた世代か~と嬉しくなりました。

しかし、社会派ミステリなのでそんなほのぼのした空気は長くは続きません。複数の登場人物が入れ替わりで語り手を務めながら物語は進んでいきますが、どのような終着点を迎えるのか全く読めませんでした。

終盤に向かうにつれて、点と点がつながり、事件の全体像が見えてきます。救われて欲しい人がたくさん出てきて、読みながら苦しくなってしまいました。

こういう本を読むと、誰かが虐待やDVを受けていることに気づいてしまったら、どうするのが正解なんだろうと考えてしまいます。中途半端に手を差し伸べると、その人がもっとひどい目に遭うことがわかっていてできることなんてあるのでしょうか。

作中では、日本がたどってきたある差別の歴史にも触れています。読み終わった後、いろんなことを考えてしまう物語でした。

「最後の鑑定人」 岩井圭也

科学鑑定を題材にした連作短編小説です。科学捜査でお馴染みのDNA鑑定や映像解析だけでなく、ガスクロマトグラフ質量分析計やポリグラフ検査、白骨死体から元の顔を復元する複顔、地理的プロファイリングなど、聞いたこともないような鑑定方法が登場しておもしろかったです。

DNA鑑定や指紋の鑑定がどのような原理で行われているのかという点についてもわかりやすく記載されていて、読み物としておもしろいだけでなくとても勉強になりました。

筆跡1つとっても、インクの成分や筆圧からいろんなことがわかるんですね。

ここまで科学が発展した今、完全犯罪なんて不可能だろうなと思うのと同時に、優れた鑑定士は仮定条件の付け方が上手いんだなとも思いました。

どんな科学技術も前提条件を間違えてしまうと求める結果は出なくて、その前提条件を決めるのが人間だということを考えると、やっぱり捜査するのがどれだけ優秀な人なのかが大事なのかもしれません。

「君のクイズ」 小川哲

クイズ番組の決勝戦で起こった不可思議な事件を、クイズ好きの青年が追いかける日常ミステリです。いや、クイズに関する謎って日常なのか…?その辺りはちょっと個人の判断に任せます。

他の4作が結構シリアスな雰囲気なので、この本はそこまで気負わずに読める内容だったのがよかったです。ミステリ好きからミステリ初心者さんまで幅広い人におすすめできそう。そう思った人が多かったのか、本屋大賞2023にもノミネートされていました。

クイズ番組発のクイズブームが起こっている今だからこそ、こういう作品が楽しめるんだと思います。クイズって奥深いなと思いながら読みました。

「名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件」 白井智之

実在の事件をオマージュして作られたミステリ小説です。

カルト団体の集団自殺事件が題材なので、冒頭からかなりグロい。でも、冒頭さえ超えてしまえば、あとは普通のミステリ感覚で読めました。

何層にも張り巡らされた伏線がすごくて、私はあと何回びっくりすればいいの!?と混乱するくらい緻密に計算されています。

最後の最後の最後まで気が抜けないミステリです。

「プリンシパル」 長浦京

戦後の日本を舞台に、極道の世界に生きる女性を描いた歴史ミステリです。どこまでが史実でどこからがフィクションなのかわからなくなるリアリティがありました。

昭和の極道がたくさん出てくるので、これも結構グロ展開が多いです。

誰が敵で誰が味方かわからなくなるストーリー展開に、終始ハラハラし通しでした。戦後復興の裏で、本当にこんなことが起こっていたのかも…?と思うと、恐ろしくなる物語です。

「プリンシパル」は、第44回(2023年)吉川英治文学新人賞にもノミネートされています。

最後に

日本推理作家協会というミステリ好きが集まっていそうな団体が選ぶ文学賞ということで、ミステリ好きとしては期待が高まります。

今やミステリもいろんなジャンルがあり、かなり細分化されているので、今回候補に選ばれた5作も多種多様でおもしろかったです。

ここからどの作品が選ばれるのか、楽しみですね!

他にも文学賞ノミネート作品を全部読んでみたシリーズがあるので、こちらも読んでもらえると嬉しいです。


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