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vol.27 ☾∵л 梨茄子より 春の夜長もそれなりに長い л∵☽

梨茄子が不定期で発行しているメルマガのアーカイブです。
お送りしたものをほぼそのまま載せています。

2022年4月24日20時発行

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 こんばんは。梨茄子のたちくらです。
 この春もつつがなくキュートな危険外来生物・ナガミヒナゲシの開花を観測しました。オレンジ色の可愛い花ですが、凄まじい繁殖力で他の植物を圧迫するため危険と言われているのです。実は私のたんすにはナガミヒナゲシそっくりなふんわりスカートが入ってるのだけど、可愛らしさにひよって全然着れてません。憎まれながら疎まれながらそれでも可愛さ全開に、むしろ居場所を増やしていくあの花の肝の太さを、ずっと羨ましいと思っています。

◇◆春の夜のキッチンで◆◇

 「肉をとろけるまで煮込む」という作業が好きで、なにかにつけて肉塊を煮ているんですが、先日、その最たるものとして豚の脂身を煮詰めてラードを作りました。所要により1㎏のラードが必要になったのです。

 ネット上の先人の教えに従い、ハナマサで2kgで800円の冷凍の豚脂身を買いました。マヨネーズ状にパッケージングされたラードも売ってたんですが、これ4つ買うのもなんかあほだなと思ってやめました。このへんの判断は手間暇を愛すゆえですね。

 二重のビニール袋を破くと、白い冷たい板が10枚ほど入っていました。小さいのは3×20cmくらいの帯状で、大きいのはA4くらいの三角形、肝臓みたい、と思いました。これを分厚くしたらきっと私の肝臓サイズ。自分の肝臓の大きさが気になったのは人生で初めてかもしれません。

 先人によるとラードの作り方はいたってシンプル。

①脂身をちいさく切る
②2カップの水を加える
③煮る
④濾す

ネット上の先人たち

 これにのっとって、ラードを作っていこうと思います。

①脂身をちいさく切る 

 自然解凍しおえたら、まず切ります。目指すは2cm角です。

 予想通りではあるのですがさっそく最大の難関きました。多い、そしてグニグニで包丁の刃が進まない。縦横を切るだけでも大変なのに、大きい塊は厚みが4cmくらいあるので高さも切らなきゃいけません。水平に包丁の刃を入れようとしたら、そこに境界を発見しました。むっちりずっしりした高級羊羹みたいな質感の部分と、弾力あるグミみたいな質感の部分、上下に2層にわかれています。包丁で境目にちょっと切れ目を入れて手で引っぱると、圧着ハガキが剥がれるみたいに剝がれていきました。離れゆく2層の間を、さけるチーズを割くときに出てくる糸みたいなものが漂います。静かにわかれる白い脂身を、なぜかとても綺麗だと思いました。おなじ哺乳類、私の脂肪もこんなふうに白くて美しいんだろうか。それはないな、と瞬時に否定したのはなんでなんだろうか。

 恐ろしくて確認できないくらいの時間を経て、すべての脂身を2cm以下に切りそろえました。うっかり触ってしまった台所のそこかしこに脂がついてペタペタです。脂に触れ続けた手は何度洗ってもうっすら膜がはってる感じがして、それは強力なハンドクリームを塗ったようでもあって、急に自分の手がお金持ちマダムの手になった気がします。

②2カップの水を加える & ③煮る

 弱火。かなりしばらくして、脂身の間から透明な液体が見えてきました。蓋をしてさらに煮込みます。
 
 鍋から漂い出る湯気で、1DKの我が家全体が、ほのかに甘く濃厚で重ったるい空気になっていきます。換気扇回しているけど全然効かない、花粉症ゆえこの時期窓を開放するのは自殺行為、というわけで耐えるしかありません。逃げ場のない我が家の狭さを初めて不便だと思いました。

 洗濯物を畳み、掃除をし、本を読み、それでも暇で入浴までして待つこと2時間。蓋をとると、ほんの少し黄色い、とろっとした液体で満ちていて、底には色濃いめ小さめの揚げ玉みたいなのがたっぷり沈んでいました。

④濾す 

 粗熱をとったのち、キッチンペーパーをひいたざるにお玉で移していきます。
 最初の一杯が揚げ玉多めだったため漉すのにけっこうな時間がかかり、せめてものあがきで、ざる内をおたまでかき混ぜます。ざるに溜まっていく揚げ玉には中身が詰まったやつと、スカスカふわふわのやつがあって、詰まってる方が羊羹部分、スカフワがグミ部分、だったとわかるなんとなく。揚げ玉になっても残る脂身の魂。
 
 やっとこさボウルいっぱいの脂を濾したとき、ふいに地面が揺れました。反射的にボウルを取り上げる、置いとくより揺れない、とその時は思ったのです。後で調べたら東京で震度4の地震でした。揺れはすぐにおさまり、手に持つのが置きっぱなしより安全かどうかはわかりませんが、ともかくラードは一滴もこぼさず守られました。 その後も地道な濾過作業をつづけ、果たして1kgちょっとの手作りラードと、山盛りの豚揚げ玉ができあがりました。脂身って脂だけでできてるわけじゃないんだな、脂じゃないこっちはなんなんだろうな。Googleに頼めば一瞬で解いてくれるであろう謎をわざわざ自分の頭で考えながら、食器用洗剤を泡立てていました。

※おまけ 食べる※ 

 出来上がったラードは、後日、カルニータスという1kgの豚肉を同量のラードで煮てちょっと塩っていうワイルドな料理となって、荒川河川敷の桜の下で美味しく頂戴しました。荒川はソメイヨシノじゃない桜がいっぱいで、時期を逃してもお花見が楽しめておすすめです。
 
 豚で煮た豚肉を挟んだパンにかぶりついたら、あの地震の瞬間に私が一番守りたかったのは出来立てのラード、というかラードがぶちまけられていない台所ということか、と唐突に思いました。守りたいものはクリーンな台所、守れるものは、守るべきものは、守るのに失敗したものは、あ、これ深追いしたらあかんやつだと気がついて、肉の旨味と強すぎる春の日差しとまわりの穏やかなおしゃべりにぼんやりと溶かしておきました。

◇◆ちかぢかの梨茄子◆◇

《たちくら 出演》
戯曲専門誌「石版と織物」創刊記念リーディング公演
山田カイルさんたちが作る雑誌「石版と織物」のおひろめ公演に出演します。今年になってから戯曲をただ音読する遊びにちょいちょい混じってたんですけど、急に実用化されておぉぉぉぉ?て思っています。

《下駄・カゲヤマ・つじこ 出演したり書いたり》
円盤に乗る派『仮想的な失調』
円盤に乗る派さんが6月に公演をします。つじこさんも出演します。たちくらのなによりポイントはフライヤーのイラストが三毛あんりさんだということです!!フライヤーに満足して本編見るの忘れそう。

◇◆下駄くんからなにごとか◆◇

 こないだ菜の花が堤防を壊すということで駆除しなきゃいけないというニュースを見ました。この菜の花も外来種の「セイヨウカラシナ」っていうやつらしいです。

 アメリカザリガニも餌用に買っていた数匹が逃げて繁殖した結果、いたるところに広がったらしいですから、生き物というはなんとも命への執着が強いものですね。

 食べることが好きなので、池波正太郎の食のエッセイをついつい買ってしまうのですが、ちょうど読んでいる『江戸前 通の歳時記』で4月は鯛と浅利がうまいのだと書いていました。

 読んでいると食べたくなったので、近場のお店に行ったのですが、残念ながらなく、代わりにそら豆と銀杏、そしてどじょうを食べました。

 その店では大きめのガラス瓶をカウンターに置いており、そこでどじょうを泳がせており、注文が入るとそこから何匹か出して調理してくれます。

今回は小鍋仕立てにしてもらいました。関東風の醤油ベースの味付けをした汁で、どじょうと豆腐とゴボウを煮て、浅葱が少量かけられています。

 ここのどじょうは専門店で食べるより小さく、細いのですが、逆にそれが良いというか。メインではなく、あくまで他の料理がある中での一品という感じで、なんともちょうど良い感じでした。

 つまみやすいので他の具材と合わせて口に入れやすく、ゴボウとともに口に運んで「やはり土っぽいもの同士は合うのだなぁ」と思いました。

◇◆たちくらのお返事◆◇

 長すぎかなぁと心配しながら下駄くんに下書きを投げたら、下駄くんからもそこそこ長い食べ物の話が返ってきました。合わせてくれてるのもあるのでしょうが、でも前回はザリガニまでの分量だったよね?終われるのにわざわざどじょうの話してるよね?梨茄子どっちも食べ物で長話しがち、ということがわかりましたが、下駄くんのちゃんと美味しそうだな。将来池波正太郎になれるのは下駄くんのほうです。

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