円盤に乗る派『料理昇降機』の稽古(たちくらようこ)
2月のある夜、円盤に乗る派さんの『料理昇降機』の公演の稽古にお邪魔しました。
この公演は、円盤に乗る場の俳優の日和下駄さんが自身の演技の方法を演技論にまとめ!それを実践するためのワークを開発し!円盤に乗る派の俳優・畠山峻さんとウォッチャー・渋木すずさんがハロルド・ピンターの『料理昇降機』という戯曲を使ってそのワークをやる!という公演で、今回はその2回目の稽古です。
円盤に乗る派さんは昨年から「俳優論をそのまま作品にする」という試みをしています(参照 「ありふれた演劇について」37)。去年のNEO表現まつりでは「演技をする人間の中に現れるさまざまなもの」という展示をしていました。この公演はこの試みの続きです。
『料理昇降機』とは。イギリスの劇作家ハロルド・ピンターの戯曲。ベンとガスという二人の男が、なんでかはわからないけど料理用エレベーターがある謎の地下室にいる・・・という二人芝居です。ベン役は渋木さん、ガス役は畠山さん。
お休みだったカゲヤマさんに前回の報告。いつもは作・演出を担当するカゲヤマさんは、今回はウォッチャーとして関わります。
1回目の稽古では、良く読めるような素材を見つけることを念頭に置きつつ思い思いにシーン1をやってみて、こうしようとしちゃったなーこうなってたねーという事実確認をして、体をこう動かしたら?など具体的な良くなる方法をみんなで考えて、もう1回やってみて、それからシーン2を1回読んだそうです。
「僕が演出しちゃったところがあって」と言い出した下駄さん。渋木さんがどうしたらいいかわかんないんだよね、となった時に、下駄さんがすぐ、こうしたらいいですよ!て言ってしまったそうで「これって演出じゃないですか」と反省顔です。
そう、演出は下駄さんの役割ではないのです。この公演における下駄さんの肩書きは「座長」。「演出」ではありません、とはいえ下駄さん以外の演出をする人もいません。演出不在の演劇公演です。
〈戯曲〉を〈良く〉読むためのワーク
この公演の元になっている下駄さんのワークは、戯曲を声に出して読む人が、自分自身の基準に基づいて〈良い〉ものを選ぶということが基礎になっています。演劇の公演において、良いか悪いかの判断は演出家がするのが一般的です。でも下駄さんのワークを実践するというこの公演では、何が良いか、何をするかしないかは、戯曲を声に出して読んでいる俳優が、それぞれの基準に基づいて決める!ことになるのです。
近況報告タイム
全員揃ったところで、のんびりと、本日の体調と最近あったことを報告。
「2週連続、白黒のハリウッド映画を観てる」「12連勤おわりなので眠めかも」
お互いのコンディションをなんとなく把握しておくの、なにげに大事。
シーン2を読む
シーン2を立ち稽古する前に、アイドリングとして、座ったまま読んでみます。
戯曲にはシーン分けはないのですが、この稽古ではいくつかに分けています。シーン2は、30ページ中の4〜5ページ目くらい、退屈で喋り続けるガス、話に乗らずに新聞を読んでいるベン、というシーン。
俳優のやりたいこと確認
前回の稽古で、俳優自身がどうやりたいか決めているので、まずはそれを確認します。
□渋木さんのやりたいこと
"気をそぞろにする"
いわゆる「意識の分散」。劇団・青年団の演技メソッドで、あっちもこっちも気にしながらセリフを言うと自然にみえる!というやつです。
前回の稽古では、マフラーをモフりつつ、乗る場の壁についてる飛行機を眺めながら、セリフを言っていたそうです。
□畠山さんのやりたいこと
"しっちゃかめっちゃか" と、"自分が思っているより無理して明るくする"。
さらに今後の目標として "0か100かではなく、その間のアイディアを出し方を知りたい" というのもあるそう。欲張りさんだ。
確認し終えたら、読みます。
休憩1
本日のおやつ
のちほど、ものすごい活躍をみせます。
シーン2をやる
やってみる
ベンはソファーに腰かけたまま、ガスは椅子を立ったり座ったり。ベンはガスがいろいろ言っても動じない、という態度に見えます。
やった感想・見てた感想を言う
下駄さんが、渋木さんと畠山さんにそれぞれやってみた感想を聞きます。
□渋木さん
やりたかった ”気をそぞろにする” はできたけど、畠山さんをこんなに無視するのがいいのかわかんないって思ったな、これが日常ならいいのかな、とは思っている・・・などなどなど。
□畠山さん
明るくやろうとはしたんじゃないかな、しっちゃかめっちゃかにはなってたんじゃないかな。それを再生する引き出しとして、いっこいっこ驚くというアクトをしていたので、驚かない会話になるとトーンダウンした。言ってることに追いつけてないんだろうな・・・などなどなど。
二人が自分の思ったことを話す間、下駄座長はずっとフンフン相槌を打ちつつ、ものすごい勢いでメモしています。
□下駄さんの見ていた感想
二人の感想を聞いたあと、下駄さんが見ていた感想を伝えます。
渋木さんについて
「けっこうコミュニケーションしてるようにみえたのだけど・・・渋木さんの感想とのギャップが明確にあって、それが気になっている」
実は、渋木さんは、ガスとコミュニケーションしているつもりはなく、ガスの奥や隣にいるなにかとしゃべっているイメージだったそう。
ということは、
発見!相手役のいる方に意識の焦点を合わせると、コミュニケーションしているようにちょっと見える!(ただしいわゆる会話ではない)
これが良いかどうか、演技に使うかは、渋木さんの判断で決まります。
畠山さんについて
「けっこう笑っちゃったじゃないすか、なんでなんすか?」
畠山さんのお返事は「あれは・・・やっぱり・・・おれ何やってんだろーって」
というのは、 “おれ何やってんだろー" も含むしっちゃかめっちゃかをやってみよう、という意図なのです。笑うくらいのかんじで稽古して、本番には笑わないようにしよう、と。
演技の感想を伝え終えた下駄さん「稽古2回目だったなー」
1回目の稽古では、俳優それぞれの監督が違う!ていうくらいの異常さだったそうなのですが(ちなみに渋木さんは濱口竜介監督、畠山さんは深作欣二監督)、今回は、異常ちゃ異常だけど、畠山さんによると「違うことをしているけど、空気感が同じ」くらいになったそうなのです。
この変化について、渋木さんは、上から目線になるというトライをしていて、そうしたらイライラしなくなって、気にかけないけどガスの存在を許せるようになっていた、と教えてくれました。
下駄さん「これで、また許せなくなったらドラマって感じしますよね」たしかに!一同盛り上がりましたが、下駄さんすぐに「まぁそうなるかはわかんない」。
ドラマを目指していかないところが、俳優の思う良いが最優先のこの稽古ならでは、です。
次はどう良く読むかのプランを決める
◻︎畠山さん
常に明るい人がしゃべってるのはちょっとおかしいかなと思って、台本の盛り上がり方で盛り上がりたいな・・・などなどなど。
◻︎渋木さん
"脱おじさん、かわいくしたい" という渋木さんのやりたいことに対して、下駄さんの提案があったり、畠山さんが話し始めたり……
このプラン決めで20分くらいかけています。みんなすんごいしゃべる……!
休憩2
音響家の血が騒ぐのか、カゲヤマさんはケーブルを巻くとき生き生きします。
シーン3を読む
シーン2の続きの2ページほどを、読んでみます。ガスが、なんか、すごい怒っている……ベンは相変わらず、冷静な態度に見えます。
振り返り中に、発明
先ほどのように畠山さん、渋木さんがそれぞれやってみた感想を話し、下駄さんが見ていた感想を話しているときに、ちょっとした発明が起きました!
ベン(渋木さん)の台詞「(静かに)連絡を聞いたのは誰だ、おれか、お前か」の(静かに)というト書きについて。
渋木さんは、”ガスがうるさくてイライラしているけど、イライラを出さないように冷静に” と解釈し、そのように台詞を言いました。一方で下駄さんは ”小さい声で言う” というシンプルな解釈。解釈が分かれました。
下駄さんは「渋木さんの読みが、そうだ!そうでしかない!と思うのなら、それでいいと思う」とのことなのですが......渋木さん、困った顔です。
「難しくて・・・下駄くんが言うと若干権威性があるから静かに言ったほうがいいのかな、って思っちゃうんだよね・・・演技をアドバイスする人、座長でかつ演技をみている人が言うと、小さい声で言ったほうがいいのかなと思ってしまうけど、それが自分の感じている良さなのか、うーん、って思う、ちぐはぐになっちゃいそう」
下駄さんのお返事は「両方の解釈が両立する方法を探せたらいちばんいいかな、と思う・・・」とはいえ「アドバイスするみたいな関係が、余分な効果になっているのはあるよね」
渋木さん「俳優じゃない人間に対する扱いが難しいなと思う、このワーク。どうやったら対等にしゃべれるか。アイディアを出す段階で、経験が違うから、いろいろあると思っていて」
下駄さん「演技の技術という点では僕の方が知っているけど、渋木さんには渋木さんしかできないことがある。技術は共有可能で使ってもらえばよくて、それを使ってどうするかは渋木さんの判断だから・・・」
渋木さん「自分で選択するという責任が自分に生じるわけだよね」
演技経験が多く、演技を見る側の下駄さんの言葉を、演技経験が少なく見られる側の立場の渋木さんは、重く受け取らざるを得ません。普通の演劇の稽古での演出家と俳優の関係でもこういうことはありがちですが、このワークでは、俳優が自分の基準で良いものを選ぶ!ということが大事なので、この関係が続いてしまうのはゆゆしき事態です......!
「いっかい好きにさせろや!って思ってる」という渋木さん。下駄さんは「好きにしてもらっていいですけど……」と言いますが、「好きにしろって言われて好きにできないんだよね、人間は……」畠山さんが苦しい真実を口にします。
全員が、うむぅ......となっていたとき、畠山さんから「めちゃめちゃ雑なアイディアだけど」と提案が。
「意見を、(渋木さんに向かってまっすぐ)こう言う、ていうよりかは、(渋木さんと自分のまんなからへんをさして)このへんに置いときたいよね」
畠山さん「その声を持った人が言ってる主張になるような認識の仕方をしすぎちゃうと、難しくて」
下駄さん「僕がまさしく渋木さんにむかって言う、ていう関係だと、余分な要素がうまれてしまうわけですね」
渋木さん「けっこう怖くて、直で言われると・・・ここらへん(渋木さんのちょっと手前)に置いといてくれると」
下駄さん「構造的にそうしたほうがいいから……ぬいぐるみとか置いとく?」
というわけでとりあえず、みんなの真ん中に海老明太マヨおかきを置いてみました。
下駄さんが海老マヨに向かって話してみると……
渋木さん「めっちゃいい!……これすごいいい!!」
構造的に強くなってしまう下駄さんの言葉も、海老マヨを経由することでマイルドになって、良いものを選ぶ判断材料として受け止めやすくなりました!
ワークの成立を揺るがすゆゆしき事態は、本人じゃなくてお菓子に向かって話す、という発明でスーパースピード解決したのでした。さすが円盤に乗る人たち、問題発生から解決までがはやーい!!
ウォッチャーの感想と、上演について
本日の稽古はここまで。
次回の稽古の日程と、宿題「真ん中に置きたいものをもってくる」を確認して、ウォッチャーのカゲヤマさんにウォッチした感想を聞きました。
カゲヤマさん「なんでもできる上演なんだなって、何が飛び出してくるかわかんないぞっていう気持ちで本番を見れそうだなって思って・・・けっこう怖い。怖い上演なんじゃないかと」
その上演について、カゲヤマさん以外の三人の間で、「上演はしなくてもいいいんだけど」「上演、する?」「するする」「面白い方がいいですか?」「無責任にやりたい」「観客のために面白くしよう、はない」「私にとってやりたいことをだけやる場にしたいかな」というやりとりが……… 上演は行われるようですが、安心して作品を享受できる、と思わずにみた方が良さそうです。カゲヤマさんがアフタートークをはりきっているので、面白い体験にはなることでしょう!
乗る派の皆さん、ありがとうございました。お稽古がんばって!
円盤に乗る派『料理昇降機』公演の詳細はこちら
3月30、31日の2日間です。お楽しみに。
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