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炭酸刺繍:喫茶店とズズと世界の終わり

お疲れ様です。総務部総務課マモたろうです。
今回は、炭酸の刺激を受けて詩の企画へ参加です。
普段と方向性が違いますが、お読みいただけますと幸いです。

参加する企画は「藤家 秋」さんの炭酸刺繡です。


喫茶店とズズと世界の終わり

前髪の長さが気になりはじめたあの頃の話。

ズッズズズー

残り少ないジンジャーエール。
500円もするのだから一滴でも残すもんか。

ズッズズッ

ちらりと隣のお姉さんがこちらを見る。
俺に気でもあるのだろうか。

「下品だよ」
笑顔だったはずの君はつぶやいた。

何の話だろう。

「音を立てて飲むのは下品だよ」
君は、ちくりとそう言った。


「好きなように飲んでいいだろ」
耳を真っ赤にしてそう言うしかなかった俺は
逃げ出したくてしょうがなかった。

となりの席のお姉さんが
またちらりとこちらを見る。
もう逃げ出したくてしょうがない。

ジンジャーエールを飲み干しただけなのに。
500円もするのに、なんて仕打ちだ、なにがエールだ。

俺は平静を装う。
両手の湿りはグラスの水滴なのか汗なのか
もうわかりやしない。


あの支払った千円札は湿っていたのだろうか。
もうここへは来れない。

(もう今日は帰ろう)
ズッ、ズッ

平静を装う俺は君と歩いている。
ズッ、ズッ、ズッ

「その歩き方、下品だよ」


ざらり。
あぁ、もう何もかも嫌だ。

あの時、炭酸の泡と一緒にはじけてしまえばよかった。

世界の終わりは今日だったのだ。

世界の終わりが身近だったあの頃の話。
超辛口なジンジャーエールの思い出。


不格好にかっこつけているのだから、さらにかっこつけるために
ホットコーヒーにしていたら、世界は違っていたのだろう思います。

お読みいただきありがとうございます。

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