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上村元のひとりごと その482:断

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 …いかん。

 また、成功したいと願ってしまった。

 しみついた上昇志向というのは、簡単に、変えられないものなんだな。

 ため息をついて、膝の上、一心にするめをかじる愛猫を抱え直し、正面の壁、ドーベルマンの肖像を見つめます。

 収入がある、というだけでは、なぜ駄目なんだろう。

 いいじゃん、あれば。

 ゼロよりはましさ。

 借金もないし、人生、身軽だね。

 そう思えないのは、どうしてかというと、無意識に、他人と比べているから。

 その他人とは誰か、というと、僕が脳内で作り出した、架空の、イケてる男。

 あるいは、会社員時代の自分。

 さらにさかのぼれば、大手不動産会社の事務職員だった父か。

 …なんというか、正社員コンプレックス、みたいなのが、あるみたいだな。

 月収が安定していることが、心の安定に繫がっている。

 今だって、月収、あるにはあるが、封書の給与明細が郵送されてくるわけではなく、どうにも、もらっている感じが薄い。

 やっぱり、本当は、また、会社で働きたいんだろうな。

 スーパーに買い物に行くと、入り口脇のラックに挿してある、求人のフリーペーパーの表紙を、見るともなく、見てしまって。

 正社員、の文字があると、思わず、手に取りそうになるもんな。

 それが、たとえ、全然別の業種でも、とにかく、正社員なら、それでいいと、思ってしまうことがしょっちゅうだ。

 変えるべきは、そこなのでは?

 仕事を増やそうとする前に、自分の中に根強く残る、フリーランス、イコール、無職、といった差別意識を、取り除いた方がいいんじゃない?

 にちにちにちにち。にちにちにちにち。

 香ばしく、少し酸っぱい、するめの香りが、鼻先をかすめます。

 各種試してみたところ、ミントは、この味付けがお気に入りで、これしか召し上がらなくなったので、ここしばらく、同じメーカーの品です。

 北海道は、函館で、加工されたイカ。

 僕も、お相伴にあずかります。

 なかなか、美味しいです。

 ちなみに、十年近く前、函館に、行ったことがあります。

 残念ながら、北斗星には乗れませんでしたが、はやぶさと、白鳥を乗り継いで。

 台風通過直後で、海は大しけ、何度も土砂降りに見舞われた、天候さんざんな旅でしたが、それでも、楽しかった。

 もちろん、取材です。

 一度だけ、公費で、出張を命じられた(鉄道系の資本でした)。

 もう二度と、そういうことはない。

 どこへ行くにも、全部、自腹。

 それが、フリーランスというもの。

 …きついなあ。

 でも、自由だ。

 どこへも行かなくていいんだもの、引きこもりには、最適です。

 それで、いいじゃない。

 無理矢理、正社員を目指さなくても。

 ぽつぽつと、散発する依頼を受けて、頂いた案件を丁寧に処理して、干されるでもなく、馬車馬になるでもなく、少しずつ、貯金していけば。

 日用品も、嗜好品も、預金に見合う範囲に収めることにして、それ以上は、折り合いがつかないからと、やんわり、お断り。

 そうしよう。

 欲望に合わせていたら、いくらあっても足りない。

 ゆとりを持って働いて、得た額こそが、僕の取り分。

 ちゃんと用意されてるなんて、ありがたい。

 大事に使います。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 満腹になって、寝落ちした愛猫を、西武ライオンズのバスタオルでくるんでやり、残ったするめを、口内へ。

 函館は、今日、晴れているかな。

 窓の外、東京は、蒸し暑い曇天です。それでは、また。

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