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上村元のひとりごと その477:リニューアル

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 ゼロから始める方が、楽しいし、やる気が出ます。

 どんなあばら家でも、俺が建てたんだ、と思えば、輝いて見える。

 あるいは、長いこと使われていなかった古民家を、自分の好みに作り替えるとか。

 とにかく、いったん、完全に終わらせて、新規作成をしたいのです。

 でも、たいてい、できない。

 開店したまま、改装することを強いられる。

 この人生を、いったん、完全に終わらせて、をやろうとすると、ちょっと、待て。

 死ぬの?

 嫌だな。

 となって、どうしても、未練が残る。

 しかし、今の生き方のままでは、明らかに、立ちゆかなくなってきて、じわじわと、随所にほころびが生じ。

 修繕しないと。

 時間と予算を割いて。

 …やっぱり、嫌だな。

 となって、どうしても、及び腰。

 小さく変えるのは、つらいのです。

 一気に、ばーんと、取り壊せるなら、どんなにか。

 夢を見て、威勢良く物を捨ててみても、結局、何も変わらない。

 ぬっふーん。

 るっふーん。

 浮かれ気味の足取りで、ミントが、埃っぽい床を歩いています。

 楽しいことでも、あったのか。

 そう、あったのです。

 ゴキブリの死骸が。

 得意気に、焦げ茶のかたまりをくわえてきて、にこにこと、炬燵に座る僕を見上げて、まんわー。

 ほめて頂戴と、鳴いた口から、こぼれ落ちたそれの正体を認めた時の、絶望よ。

 ついに、ミントも、大人になってしまった。

 一人前に、虫を狩れるまでに成長した、ぬいぐるみの猫なんて、聞いたこともない。

 どうしよう。

 この先、勝手に外に出て、ねずみとか、捕まえて来ては、見せてくれるようになったら。

 ぐるぐると、妄想に脳を乗っ取られつつ、まん丸い頭を撫でてやり、るんるんと、お散歩を再開する、大きなおしりを見送って、おえー。

 となりつつ、件の黒い物体を、ティッシュペーパーで包んで、さらにビニール袋をかぶせて、ゴミ箱へ。

 ほっとしたことに、Gさんは、とっくに昇天していて、あくまでも、ミントは、見つけただけと思われる、年季の入った亡骸でした。

 …いや、ほっとしている場合じゃない。

 驚異の生命力を誇るゴキブリが、自然に息を引き取り、半ばミイラ化するまで、どれくらいの時間がかかると思っているんだ。

 その間、一切、僕は、部屋の掃除をしなかったことになる。

 もしかして、他にも、たくさんの遺体が眠っているやもしれず。

 これ以上、安置所になるのは嫌だ。

 清めないと。

 除菌、滅菌、埃取り。

 冬が来る前に。

 …嫌だなあ。

 やりたくない。

 というわけで、冒頭に戻ります。

 住みながらの清掃は、大変、面倒。

 でも、そろそろ、やらないと。

 どこから、手を付けよう。

 天板に頰杖で、しばし、熟考。

 …炬燵、磨くか。

 とりあえず、上に乗っている物を、床に…じゃ、駄目だ。

 ミントの足跡が見えるくらい、汚い。

 まずは、掃除機、かけるか。

 取りに行こう。

 よいしょ…

 あんぎゃもがぐわっちゃー。

 ゴキブリは平気なのに、クモには弱い愛猫の、宿敵との遭遇現場に出くわして、がっくりと、肩を落とし。

 掃除機の代わりに、ぽさぽさの、ぶんむくれの毛皮を抱いて、埃まみれの床に、さらに足跡を刻みます。

 まだまだ、リニューアルには、遠そうです。それでは、また。

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