見出し画像

上村元のひとりごと その510:迷路

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 したいことや、欲しい物が、明確な場合。

 ためらっている時間は、はっきり言って、無駄です。

 人生は、一つ、課題をクリアすると、次の課題が、たちどころに現れてくるもの。

 同じところで止まっていればいるほど、いつまで経っても、次に進めない。

 が、しかし。

 立ち止まることによって、その後の人生が、変わってしまうことも、また、真実。

 ふんなー。

 はいはい、ただ今。

 遊んで、とせがむ声が、さっきから、背後で、聞こえていて、ちょっと、待ってね。

 原稿、きりのいいところまで、仕上げちゃうから。

 ぬんにー。

 待てねえよ。

 今すぐ、来いよ。

 そうはおっしゃいますが、これは、僕たちのご飯代を稼ぐ、大事な原稿でして…。

 ぐんぬー。

 うるせえよ。

 関係ねえよ。

 さっさとしろよ。

 すみません、でも…。

 ずんぎわー。

 ごちゃごちゃ言ってんじゃ、ねーよ!

 申し訳ございませんでした。

 リアル・チコちゃん、猫バージョン、に叱られて、書きかけの原稿を保存して、急ぎ、御許へ駆けつけます。

 にーぐるるん。

 たちまち、ご機嫌を取り戻し、抱き上げた腕の中、肩によじ登って、喉を鳴らす愛猫に、ため息をついて、しばし、その辺を歩き回ります。

 書くとは、言葉に、道をつけること。

 天然の水源から、田んぼに、水路を引くようなもの。

 慎重に、集中して、進めなくてはならない。

 下手をすると、洪水になる。

 でも、こうして、愛猫が、かまって欲しくて、ヤンキー化することも、しばしばで、そのつど、洪水を取るか、ヤンキーを取るか。

 悩みに悩んで、結局、ヤンキーを選ぶのですが、そうすると、頭の中に、洪水が。

 言葉の奔流に飲み込まれ、気づけば、いつもの、深海の底。

 もはや、田んぼに水路を引くどころではない。

 このようにして、当初の予定は、どんどん、ずれていくのです。

 にふーふふ。

 ずりずり。

 いててて。

 顔面に、べったりと抱きつかれ、頭頂部に、鼻先をねじ込まれて、前が見えなくなりながら、うめいているうち。

 さっきまで、書こうとしていた原稿の、ほとんどを忘れます。

 なんだったかな。

 何が、言いたかったんだっけ。

 そもそも、言いたいことなんて、あったかな。

 ただひたすら、聞こえた言葉を繫いでいくのが、物書きの仕事だったはず。

 そう、予定がある時点で、何かがおかしいんだな。

 先のことなど、知るわけもない。

 迷路だもの。

 たどり終えて初めて、全体が、見えてくるんだもの。

 作者は、僕じゃない。

 パズルの作成は、物書きの役ではない。

 あくまでも、解く側なんだ。

 それなら、時間をかけた方がいいね。

 迷うこと自体を、楽しんで。

 ミントと一緒に。

 ぬんきゃー。

 ごりごりと、愛の拷問を繰り出してくる、青緑色のぬいぐるみの猫を抱いて、レースのカーテンの向こう、晴れたり曇ったりの空を眺めます。

 人生という迷路を、これからも、丹念にたどりたいです。それでは、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?