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上村元のひとりごと その475:さくさく

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 時間をかければかけるほど、いい文章が書ける。

 そう信じて、つい最近まで、パソコンの前で、一日の大半を過ごしていました。

 しかし、どうも、違うのでは。

 ある程度、淡々と手を動かし、一定量を仕上げたら、すっぱりと、その場を離れた方がいいのでは。

 執筆機器の変更に伴い、執筆時間の見直しを行った結果、薄々思っていたことに、裏付けのようなものが与えられました。

 考えることは、もちろん、大事です。

 にーちーゆー。

 例えば、今、ベッドの上、謎の奇声を発して、西武ライオンズのバスタオルにからみついている、愛猫ミント。

 さっぱり、わからない。

 どうやって、その声は出ているのか。

 バスタオルに四つ脚をからめるのに、声は必要なのか。

 そして、どうして、仰向けに、つまり、背中にバスタオルを入れ込むようにして、寝そべっているのか。

 ブリッジ状態じゃない。

 苦しくないの?

 にーちーゆー。

 お坊さんがお経を唱えるような、独特の節回しが、むき出しになったぽんぽこお腹から、立ちのぼります。

 …何が、ミントをして、そうさせているのか。

 物書きとして、大事な考えどころですが、実際に、手を動かす時は、できるだけ、何も考えてはいけない。

 運動が、阻害されるから。

 考えることは、行為ではない。

 頭の中で起こっている、一種の化学反応であり、考えている時は、逆に、動いてはいけない。

 反応の全過程が、スムーズに遂行されるよう、なるべく、息をひそめ、じっと座って、経過を観察するのがいい。

 対して、書くことは、手を使う。

 片手、もしくは、両手が、気持ち良く動けるよう、できるだけ、不要な化学反応は、起こさないに限る。

 にーちーゆー。

 とはいえ、完璧に、何も考えないで書くと、いわゆる、自動書記。

 まるで意味の通らない、日本語にすらなっていない、文字の群れが、画面を、紙面を、埋めるだけ。

 僕は、物書き。

 規定されたテーマと枚数に応じて、クライアントの要望に見合った文章を提出するのが、仕事。

 とことん、考え抜かなくては、つとまらない。

 単純な運動と、複雑な化学反応に、どのように折り合いをつけていくか。

 腕の見せどころである、最重要ポイントを、きれいに解くため、毎回、苦戦します。

 はっきり言って、二十年近く、書き続けてなお、つかみ切った、と断定することはできない。

 それでも、一つだけ、これかな、と思うキーワードは。

 にーちーゆー。

 さくさく、です。

 考えすぎず、運動しすぎず、気持ちも入れすぎず、書く時の音。

 さく、さく、では、たどたどしいし、さくさくさく、では、焦っている。

 あくまでも、さくさく、進めていく。

 立ち止まっても、もちろん、構わない。

 戻るべき、さくさく、のペースを知っていれば、付かず離れず、程良い幅を保てる。

 ミントが何をしているのか、さっぱり把握していなくても、見て、聞いた、その様を、僕自身の困惑も含めて、写し取ることができれば、さくさく、成功です。

 そろそろ、お腹空かない?

 晩ご飯の時間だよ。

 にーちーゆー。

 相変わらず、虚空に向かって読経を続ける、一途な修行僧に微笑んで。

 そうっと立ち上がり、台所へ向かいます。

 何をしていても、常に、頭の中を、さくさくに近い感じに整えておくこと。

 そうすれば、四六時中、機械に張りついていなくても、読みやすく、書きやすい、ちょうどいい文章ができるのです。それでは、また。

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