上村元のひとりごと その412:徹底
こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。
楽しいことは、長続きしないみたいです。
ここ十日ほど、インターネットサーフィンにはまって、それはそれは、楽しかった。
久しぶりだったせいもあって、この世に、こんなにも楽しいことがあったのか。
浮かれて、長い時間を費やして、そして。
醒めました。
徐々に、目が痺れ、肩が張り、眠れなくなって。
しばらく、だるい期間が続いて、ふと、すっぱり。
もう、いいや。
あっという間に、元の僕。
暇さえあれば、ぼんやりしている、のんきな引きこもり暮らしが、戻ってきた。
にーしゃまー。
うりうり。
すりすり。
くふーん。
とふーん。
ベッドの上、奇声を発して、壊れた髭剃り機に、ほっぺたをすりつけ、ご機嫌で、喉を鳴らしている、愛猫ミントにも、ずいぶん、迷惑をかけました。
何もかも、上の空。
書くことすらも。
長時間にわたる閲覧の、何が、一番、害をなしたか。
身体の疲労は、実は、そんなでもない。
集中力が、散ったこと。
次々に立ち現れる、色とりどりの画面は、じっくりと、眺めるためにあるのではない。
あらゆるボタンが、別の場所への入り口で、一つをクリックすると、それこそ、無限に湧いてくる。
選択肢が。
いや、選択肢と見せかけて、単なる画面上の点々であるものが。
物がない。
信号だけ。
本腰を入れて、どれ。
しっかり付き合ってみようじゃないか。
目を見開き、真意を読み取ろうとすると、はい、次。
形を変えて、去っていく、と同時に、現れて。
果てのない拡散。
逆に、ものすごく、集中力のない人間になりたかったら、いつまでも、ネットを見ているといいかもしれません。
アナログバンザイと、言いたいのではない。
note等、発信の媒体としては、大変お世話になっている。
物書きとして、集中力を欠くことはできない、という話。
言葉は、信号ではありません。
どちらかというと、物に近い。
固有の色を持ち、形を有し、音も発している。
正確に聞き取るには、かなりの忍耐を要します。
はい次、はい次、というわけにはいかない。
これだ、という、核の部分がつかめるまで、待たなければ。
ぽわ。ぽわ。
深海の底から、カイの吐く、小さな泡が、つぶれずに、水面まで浮き出てくるには、いったい、どれほどの時間がかかるのか。
ネットサーフィンだったら、その間に、比喩ではなく、何百ページもスクロールできる。
待っていては、身が危ない。
常に、最新の情報に更新しておかないと、ばれてしまう。
単なる点々であるという、正体が。
実体のなさが。
ふんわやーも。
ぞりぞり。
ごりごり。
にししし。
くふふふ。
髭もないのに、熱心に、剃り続けているミントですが、その行為は、決して、無駄ではない。
ミントは、集中している。
髭剃り機の実体を、完全に、つかんでいる。
猫に言語があったなら、きっと、ミントは、大好きなおもちゃのことを、正確に描写できるでしょう。
黒くてね、硬くてね、ざらざらしてね、気持ちいいの、というふうに。
実体がつかめなくては、表現できない。
ネットの海で見たものについて、僕は、何も書けない。
著作権を気にする以前に、物がないから。
言葉もない。
からっぽ。
いくら楽しくても、いつまでも、続けたら、物書きとして、僕は、廃業せざるを得なくなる。
ぽわ。
ぽわ、ぽわ。
ならば、いくら妄想とそしられようとも、胸の奥、実体を伴って、確かに存在していると断言できる、カイのそばで、砂の上、仰向けに、ぼんやり寝そべっている方がましだ。
うむちゃーす。
あぐあぐ。
かじかじ。
すふーん。
るふーん。
かじるとね、美味しいんだよ。
言わんばかりに、ミントは、髭剃り機に食いつきます。
うっとりと、目を細めて、堪能していらっしゃるご様子。
眺めるうち、人間の僕も、つい、美味しいのかな。
食べてみたいな。
そそられて、いかん、いかん。
ぶんぶんと、頭を振るはめに。
ネットの海にも、本物はあります。
数は少ないけれど、実体をつかんで、発されている信号がある。
その向こうには、必ず、人がいる。
徹底した人が。
無謀と知りつつ、ネットの波に飛び乗り、溺れ、それでも、何かをつかもうと、つかんだものを分かち合おうと試みる、真のサーファーが。
そこまで行けば、きっと、表面的な気晴らしを超えた、波乗りの醍醐味にまで、達することができるはず。
僕には、できなかった。
潔く、身を引こうと思います。
地味で、ちっぽけな人生を、地道に、歩んでいくさまを、飾らず、こつこつと、書いていきます。
ミントとカイともども、これからも、どうぞよろしくお願いします。それでは、また。
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