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上村元のひとりごと その456:けじめ

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 今度こそ、覚悟を決めて。

 iPadと、MacBookを、購入時に入っていた箱に収めて、クローゼットの中段、父の形見のチェロに供えるように、安置します。

 充電器と、ケーブル類だけ、取っておいたのが、未練の証。

 狭い廊下に正座して、瞑目し、両手のひらを合わせます。

 今まで、ありがとう。

 どうぞ、安らかに。

 ぬふふーん。

 ぶふふーん。

 膝の上、すりすりと、僕の顎に頭頂部をすりつけるミントとともに、長いこと、成仏を祈って。

 目を開けて、うつむいて、ご機嫌な愛猫を抱いて、のろのろと、立ち上がり。

 ふらふらと、炬燵に戻って、天板に伏せられたiPhoneの、曇ったりんごのマークを見つめます。

 iPhone 7、32GB。

 …どう考えても、旧モデルなうえ、容量も、小さすぎる。

 二年前、初めてスマホにする時に(そう、デビューが、実に遅かった)、iPhone Xの出始めで、型落ちになっていたものを、安く買ったのです。

 一応、携帯ショップで購入した、新品の、正規品。

 動作に支障はないし、プラスチックカバーに守られて、ほとんど傷もない。

 でも、なんとも、頼りなく見える。

 iPadと、MacBookのサポートが得られないとなると、わずか32GBでは、この先、インターネットライターとして、やっていけるか、不安で仕方ない。

 最新モデルの、大容量タイプに、変えようかな。

 ちょうど、来月から、料金プランの契約更新が可能になる。

 これまでの使用量を見直して、よりニーズに合ったプランを検討すると同時に、思い切って、機種変更も、しようかな。

 ふんまおー。

 …頭では、そうするのがいいと、わかっているのに。

 じゃれじゃれと、肩によじ登ってくる愛猫の、大きなおしりを支えつつ。

 胸の底は、どんどん、冷えていく。

 全く、興味が持てない。

 ぴかぴかの、かっこいい、5G対応のスマホを手にしている自分が、どうしても、想像できない。

 したくない。

 いつまでも、無知でいたかった。

 自分の好みに合わせた、自分の思いの詰まった品を、後生大事に、唯一絶対と、握りしめていたかった。

 もう、戻れない。

 広い世間を、この身一つで渡っていくためには、何より先に、自分の好みを、脇に置かなければならないのだと、気づいてしまったから。

 自分のものだから、好きなのではない。

 縁あって、身近に暮らし、お互いに、なんとなく、大事にし合い。

 その過程で、ほんのりと、しみじみと、育まれる温かな気持ちを、愛にまで、高めていくのが、真の大人。

 ミントの元の飼い主のように、要らなくなったからと言って、可愛いぬいぐるみの猫を、ゴミ置き場に放置するとか、実に身勝手な幼児性が、しかし、今は、とても恋しい。

 そんな時代も、あったっけ。

 親がいて当たり前だと、傲慢に、信じきっていた時が、僕にも。

 思わず、涙ぐみそうになり。

 どるぶふふふ。

 じぶぐふふふ。

 僕の頭頂部を制覇して、ご満悦で、変わった音を立てる愛猫に、吹き出して、感傷をごまかします。

 買い換えよう。

 自分の好みは、一切排除して。

 noteライター、インターネットライター、iPhoneライターとして、恥じることなく、つけ上がることなく、安定して書き続けられる機種に。

 変わってしまった、けじめとして。

 見たことも、触れたこともない、したがって、何の思い入れもないスマホを、いつか、かけがえのない愛機と呼べますように。それでは、また。

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