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上村元のひとりごと その213:ゲーム

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 ゲームは、絵なのです。

 ストーリーも、音楽も、全ては、いかにその絵を、生きて、動いているように、魅力的に見せられるかを目的としています。

 気に入った絵は、いつまでも、見ていたい。

 できたら、その絵が、生きていて欲しい。

 泣いて、笑って、窮地に陥って、一件落着するのを、自分が、助けてあげることができたなら。

 このボタンを押せば、絵が、ジャンプする。このレバーを倒せば、絵が、角度を変えて見られる。このボタンとそのボタンを同時に押せば、走りながら、敵を倒せる。

 頑張ろうじゃないか。好きな絵のためならば、どんな複雑な操作でも、覚えてみせる。待っていてくれ、今、救いに行くから。

 ご飯よー。早く来なさい。

 せっかく、いいところだったのに。

 がっかりし、あきらめて、席を立つか。あるいは、無視して、続行するか。

 心優しく、面倒見のいい人ほど、困っている絵を放っておけなくて、後者を選択し、結果、望むと望まないとにかかわらず、絵の世界から離れられなくなる。

 いわゆる、中毒を起こす。

 なぜ、たくさんある娯楽の中で、ゲームだけが、目の敵のように、蔑まれ、悪と断じられ、ちょっとであれ、触れてはいけないもののように、憎まれるのか、ずっと考えていました。

 ちなみに、僕は、ゲームができません。

 しない、のではない。できないのです。

 小さい頃から、ゲームは近くにありました。

 友達は、ほぼ全員、マリオを操っていたし、パソコンが普及してからは、自ら、プログラミングを行って、簡単なゲームを制作する同級生もいた。

 でも、僕には、無理だった。

 とても恥ずかしいことで、書いていて、気持ちが沈み、いっそ、この原稿を破棄しようか。何度も思いましたが、しかし。

 ゲーム中毒に陥る原因と、その対処法の一つを、明らかにできれば、ゲームそのものが、いたずらに憎まれることもなくなる。

 完全な悪は、この世には存在しません。

 そう言いたくて、勇を奮って、書き始めたのですが、…苦しい。己の恥をさらすのは、やはり、できれば、したくない。

 つるんぺ、ぷるんぺ。

 ミントは、さっきから、洗顔に熱心で、気晴らしに、撫でたくても、撫でられない。ここは我慢して、続けましょう。

 僕がゲームをできない理由は、ただ一つ。

 描かれたものを、とりわけ、人間を、生き物とみなせないのです。

 静止していれば、つまり、マンガであれば、かろうじて、読める。手描きの写真集だと思えば、どうにかなる。

 でも、動き始めると、途端に、駄目。

 初期のマリオなど、粗すぎる画像であれば、かえって、図形として認識できるけれど、最近の、リアルな、カラフルな、3Dイラストは、もはや、僕にとって、理解の範疇を超えている。

 感情移入の、しようがない。

 人間ではない、さりとて、人形でもない。生きてはいない、それでも、動いている。

 いや、自分で、動いているのではない。

 僕が、動かさなければ、動かない。

 ボタンを押して。レバーを倒して。主人公になりきれ。悪を排せ。仲間を守れ。決して、画面から、目を離すなよ。

 …無理です。すみません。

 僕はきっと、冷酷で、無慈悲なのです。

 あなた方を、自分の同類の似姿だとは、どうやっても、思えないし、自分の時間の大部分を割いて、あなた方の冒険に付き合ったり、あなた方の窮地を救ったりすることは、どうしても、できない。

 中毒になるほど、ゲームにはまる人というのは、僕と違って、とても優しい人なのです。

 現実には、ボタン一つで、倒れている病人の手当てはできません。

 それでも、助けなくちゃ。思うからこそ、簡単にはできない自分に、ショックを受け、自分を責め、手軽に、誰かを救ったり、救われたりする世界に、吸い込まれていく。

 世の親御さん方、これを読んだら、どうか、ご自分の息子さん、娘さんが、ゲームに熱中しておられる時は、責めないであげてください。

 本当に、心優しい子供たちなのです。

 ただ、ちょっと、気が弱いだけ。よくできたね、助かったよ、ありがとうって、褒めて欲しいだけ。

 そういう子は、そういう大人は、どんどん、かまってあげてください。

 ほわま、ほわま。

 洗顔を終えたミントみたいに、抱っこして、膝の上、好きなだけ、まったりさせてあげてください。

 最新技術で描かれた絵に、何一つついていけない僕のような人間や、逆に、のめり込みすぎて、身体を壊す人を増やさないためにも、身近な触れ合いを、大切にしたい。

 たとえ、うっかりしっぽの先っぽを触ってしまい、ふんぎゃー。激怒され、どたばたの取っ組み合いを招こうとも、憎しみ合って生きるよりは、ずっとましなのです。それでは、また。

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