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上村元のひとりごと その384:逃げるは

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 今月は、トラウマ解消強化月間なのか?

 疑うくらいに、次々と、痛い記憶が掘り起こされます。

 きゅーにゅ、きゅーにゅ。

 愛猫にせがまれて、iPadを起動し、YouTubeを立ち上げて、真っ先に、目に飛び込んできたものは。

 星野源さんのご結婚を告げる、ニュース動画でした。

 …おめでとうございます。

 ちなみに、お相手は。

 むんぎゃー。

 せっつく愛猫をなだめつつ、もう少し、スクロール。

 星野さん最大の当たり作品である、『逃げるは恥だが役に立つ』で共演された、年下の、可愛らしい女優さん。

 …いや、これは、どうも…。

 しばらく、iPadを握ったまま、動けなくなり。

 ぶんどぐわぎじゃー。

 ぶち切れたミントに、本気で腕をかじられて、ようやく、我に返りました。

 すみませんでした。

 ひたすら頭を下げて、どうにか許していただき。

 愛猫いちおしの、ミュージックビデオを再生して差し上げて、また、呆然。

 僕は、男です。

 それも、女の人が好きな、男です。

 決して、星野さんと結婚したかったとか、そういうわけではない。

 じゃあ、何が、こんなにショックなの?

 いいじゃない。

 素晴らしいじゃない。

 お似合いのお二人だと、思いますよ。

 …それは、そうなんだけれど。

 うらやましいの?

 自分も、物書きとして、成功して、きれいな女の人と、結婚したかったとか?

 …まあ、それも、そうなんだけど。

 違う。

 違った。

 間違えた。

 頭の中、ぐるぐると、回り続けるのは、その言葉。

 りーわ、るーわ。

 ご満悦で、ミントがのぞき込んでいるのは、「白日」。

 お断りしておきますが、僕は、具体的に、どなたかを糾弾する目的で、この文章を書き始めたのではない。

 書きながら、ものすごく、痛いのです。

 かきむしられるようとは、このこと。

 あくまでも、糾弾すべきは、過去の自分。

 憧れてもいないものに、憧れるふりをして、人生を浪費していたのに、そのこと全てに、全く気づいていなかった、愚かな若さ。

 仕事相手とは、付き合わない。

 あるいは、付き合ってもいいけれど、結婚はしない。

 それが、物書きの鉄則です。

 クリエイターの、と言い換えてもいい。

 濁るから。

 聞こえなくなる。

 損得勘定にかき消されて、何より大事な、言葉そのものが。

 誰に教わったものか、小さい頃から、それだけは守ろうと、心に決めていて。

 一度たりとも、忘れないつもりで、物を書いてきたのに。

 いつの間にか、見失っていた。

 華やかな、芸の粋を極めた曲たちに、惹きつけられるあまり、譲るべきではないものを、譲ろうとしていた。

 いや、おおよそは、譲ってしまっていた。

 だから、失職した時、あんなにも、きつかったのだ。

 本来の自分から、うんとかけ離れてしまったために、軌道修正に、ものすごく、時間を要した。

 僕は、物書き。

 聞こえた言葉を、文章に換える者。

 その過程で現れる、さまざまな人や物に、物書き権限で、手を付けることは、決して、許されない。

 わかっていたのに。

 夢見てしまった。

 いつか、独立して、お金を稼いで、ふさわしい奥さんを迎えるのだと。

 …阿呆だね。

 そんなこと、はなから望めるはず、なかったのにね。

 後悔ばかりの人生だ。

 取り返しのつかない過ちの、一つや二つくらい、誰にでも、あるよな?

 んふーん。

 るふーん。

 ぽたぽた。

 にこにこ。

 歌わないで。

 聞かせないで。

 そんな素晴らしい声で、抉るような真実を、突きつけないで。

 ぼろぼろと、本気で泣きながら、愛猫のご機嫌タイムを邪魔しないよう、肩を震わせ、嗚咽をこらえます。

 常田さんの凄みは、音楽に関して、一切、夢を見ないこと。

 普通は、「白日」のように、絶対にヒットする、させてやろう、と意気込む曲を作る際には、ほぼ必ず、恋愛か、それに類するストーリーを、ミュージックビデオに取り入れるもの。

 それを、ばっさり切り捨て、リアルプレイシーン、男ばかり、しかも、モノクロ映像で、打って出た、潔癖なその気概こそが、多くの人の心をうち、YouTubeでの再生回数を、今なお伸ばし続ける勝因です。

 …無理だよ。

 僕に、そこまでの、覚悟はないよ。

 夢を見させてくれよ。

 儲けたかったよ。

 ちやほやされたかったよ。

 叶わないんだよ。

 知ってるよ。

 星野さんにはなれなくとも、せめて、星野さんの、ファンでいたかったんだよ。

 一生。

 覚めない夢を。

 戻れない。

 昔のようには、決して。

 …ぼろ泣きで聴く、「白日」ほど、切ない拷問はありません。

 星野さん、改めまして、ご結婚、おめでとうございます。

 どうか、あなたの人生が、ずっと、「恋」の世界でありますように。

 末永く、お幸せに。

 元ファンとして、かげながら、祈らせていただきます。それでは、また。

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