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上村元のひとりごと その415:泣く

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 泣いています。

 ぼろ泣きです。

 止まりません。

 涙も、鼻水も、嗚咽も、ちっとも。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 壊れた電子レンジから、元気な寝息が聞こえます。

 しとしとと、そぼ降る雨の午後です。

 時々、ミントがお昼寝で、部屋が暗いと、発作のように、泣いてしまう。

 悲しいわけではない。

 と思う。

 少なくとも、直接の原因は、心の痛手ではない。

 いつだって、生きることはつらいので、泣いたって、どうしようもないことはわかっている。

 体内の、水分調節だろうか。

 それは、あるかもしれない。

 身体は、実によくできたシステムで、小さな僕の頭では、管理・制御できるものではない。

 自動排泄機能が、稼働しているはず。

 しかし、泣くのは、結構、負担がかかる。

 目はしょぼつくし、鼻は傷むし、呼吸も動悸も乱れる。

 なぜ、わざわざ、通常通り、尿や汗という形で処理しないのか。

 そうしきれない何かが、あるのか。

 あるんだろうな。

 みっともないを通り越して、もはや、滑稽なほど、しゃくり上げながら、箱からティッシュペーパーを引き出して、あ。

 終わった。

 がっくり。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 真剣に泣いているのに、ティッシュが切れると、ものすごく、外される。

 かえって、気分が落ち着いて、最後の一枚で、どうにか洟をぬぐいながら、膝でずり歩き、タンスの隣に積んである、ピカチュウ柄のネピアをつかみます。

 可愛いなあ。

 癒されるとは、このことか。

 愛猫が、いつもごめんね。

 近くの床に転がっていた、ミント狂愛のぬいぐるみ、巨大なピカチュウに謝りつつ、ともに炬燵に抱えて帰り。

 べりべりと、箱の蓋を開けて、再度、洟をかみ、涙を拭いて、脇に座った黄色いねずみの、丸い背中を撫でます。

 絶望は、暗闇ではない。

 白いのです。

 それも、輝く純白ではなく、文字通り、何もない色。

 すっからかん、というのも、また違う。

 空っぽであれば、埋められる。

 手当たり次第、その辺にあるものを、端から詰め込んでいけばいい。

 ぱんぱんで、入らない。

 何もない、が詰まっていて、どかせない。

 打つ手、なし。

 泣くしかない。

 泣けるだけ、まだ、まし。

 これが、涙も涸れ果てると、死ぬ。

 心が、セメント化して、二度とは戻れない。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ありがたいことに、ミントや、ピカチュウがいてくれるおかげで、僕はまだ、真の枯死状態に至ったことはないけれど。

 いつ、そうなっても、おかしくはない。

 わからないんだ。

 ぼろ泣きの理由が、自分では、さっぱり。

 原因不明の症状に、つける薬はない。

 せいぜい、ティッシュとかの、対症療法だけ。

 鈍なりに、一生懸命、考えたんだけどな。

 教えて。

 なんで、泣いてるの?

 言ってごらん。

 できる限り、善処するから。

 説得を試みるものの、なしのつぶて。

 察するしかないのか。

 それとも、これが、表現者の心の闇か。

 かっこよすぎないか?

 僕って、そんなに、すごい物書きだった?

 いやいや。

 確かに、書くことがうまく行っていれば、泣かないけどね。

 その代わり、非常に、不安になる。

 いつまで、好調が続くんだろう。

 いつかは、落ちるのなら、今すぐ、落ちたい。

 いてもたってもいられず、つい、せっかくのフォームを崩して、望み通り、落ちていく。

 そして、泣く。

 のか?

 そうだとすると、本当の原因は、いい時にある。

 よく書けたな、という文章を、過大評価していないか?

 取り出しては、にやにやして、大事にしまい込んではいないか?

 成功体験が、僕を縛る。

 正確には、その後の僕を、その前の僕から、切り離す。

 ずっと、同じように書き続けろと、暗黙のうちに、自分に強いていた、その負担が、涙となって、今、溢れているのでは?

 そもそも、問題は、文章の良し悪しにはない。

 読み手の反応だ。

 SNSで、いいね!の数に一喜一憂するように、ウェブマガジンで、ちゃんと読まれたかどうかを、必要以上に、気にしすぎている。

 伊勢さんとお仲間に、僕を見込んで、依頼されたコラムであるのだからと、肩肘張って、反響がいまひとつだと、自分の存在そのものが、否定されたような感じがして。

 ひとりごとは、気にならないのにね。

 いつでも、どこでも、どなたでも、お好きにお読みくださいと、微笑んで、投げられるのにね。

 有料契約って、恐ろしい。

 もしくは、僕って、お金に弱すぎる。

 どこから、改善したらいいんだろう。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 元気な寝息が、響き続けます。

 いつの間にか、涙は乾いている。

 ベランダから、薄陽も差してきました。

 ひとまず、顔を洗って、水分補給です。それでは、また。

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