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上村元のひとりごと その487:左手

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 …遅っ。

 あまりにも、毎日、右手で文字を書き、右手でスマホを打っていたら、何だか、いらいらしてきました。

 スムーズすぎるのです。

 ミントが歩く速度や、自分が呼吸するペースまで、だらだらして感じられる。

 いかん。

 少し、減速しないと。

 というわけで、あれこれ考えた結果。

 ちょっと、利き手を封印することにしました。

 とにかく、何でも、左手でやってみよう。

 試して早々、冒頭の一言が、口をつきます。

 思った以上に、遅い。

 だらだらを通り越して、もはや、ウサギとカメ。

 同じ身体の、対になった部分なのに、別の種類の生き物のよう。

 ぴふ。

 じいいいっ。

 みししし。

 左手で持った箸で、豚汁の豆腐を取ろうとして、あえなく、取りこぼし、ぼろぼろに砕いて、天を仰ぐ膝の上、とっくに満腹になった愛猫が、にやにや笑います。

 駄目だ。

 降参。

 生活のほぼあらゆる場面で、敗北し、よれよれで炬燵に向かって、いざ。

 最もハードルが高いと思しき、原稿書きにチャレンジです。

 まず、シャープペンシルを握る時点で、おぼつかない。

 指の、どの部分に、ペンをはさむんだ?

 右手で持ってみて、何度も持ち替えて、ようやく、セット完了。

 …名前、書いてみるか。

 ありがたいことに、僕の名前は簡単で、どれも、小学校一年生で習うものばかり。

 いくぞ。

 上、村、元…

 …遅っ。

 もう何度目かわからない、同じ感想をつぶやきながら、苦闘すること、一時間半。

 どうにか、ひとりごとの下書きが一本、仕上がりました。

 …書けるじゃん。

 絶対、最後まで行かないと思ったのに。

 もしかして、僕、文字だけ、両利き?

 違います。

 どう見ても、右利きの人間が、頑張って、左手で書いたとしか思えない、ぷるぷるの、がたがたの、匿名っぽい筆跡です。

 時間も、通常の1.5倍かかっている。

 でも、読める。

 いつに変わらぬ、僕の文章が、ぷるがた文字をまとって、紙の上に。

 ああ、僕は、物書きなんだな。

 右手だろうが、左手だろうが、ほぼ同じレベルの文章を、ほぼいつでも用意できる。

 食べるのが仕事の人は、手を替えても、完食するだろう。

 美容師さんなら、僕が左手で持つと、頭を叩くだけの棒になるヘアブラシを、口にくわえてでも操るだろう。

 能力とは、状況に左右されないもの。

 皆さんも、ご自身の才能を確かめたかったら、利き手を使わずにできるかどうか、お試しください。

 自分の以外な一面が、発見できるかもしれません。

 ふんぎー。

 さて、本来、利き手でない手を使うのは、とても面倒なもの。

 できれば、使わないで済むに越したことはない。

 ましてや、苦手な人や物になんて、絶対に、触れたくない。

 僕は、ミントを、左手で、抱っこできるだろうか?

 ぬんがー。

 できました。

 左手どころか、あと数本、手が欲しいくらいだった。

 ベッドと壁の狭い隙間に、自ら突っ込んで行って、見事にはさまり、パニックを起こす愛猫を、何とか、両手で、救出し。

 ぶんむくれの毛皮を、左右交互に、手のひらで撫でてなだめます。

 好き嫌いの本音すら、瞬時に判別できる左手を、もっと大事にしたいです。それでは、また。

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