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上村元のひとりごと その239:カロリー

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 ミントが来てから、食品のカロリー表記が、あまり気にならなくなりました。

 一人で食べていた時は、こんなにこってりとしたものを食べてはいけない。組み合わせるなら、タンパク質と、野菜と、バランス良く。

 飲食店の宣伝文を書いていたため、全体に、摂取カロリーが高めだったこともあり、プライペートでは、なおさら、引き締めていかないと、ぶんぶくに太ってしまう。

 そんなふうに思い込み、ラベルを熟読してから、購入を決定していたのですが、自由気まま、食べたいものしか食べない、ぬいぐるみの猫と、一緒に食事をする際には、そんなことも言っていられません。

 たまには、カツ丼でも食べようか。

 そう思ったとして、さて、ミントは。

 基本的に、いつでも腹ぺこなので、なんでも、ふまっ。小さな黒い目を、らんらんと輝かせ、あぐあぐと、それはおいしそうに、かじりついてくれるのです。それは、いいのです。

 問題は、ぬいぐるみの猫が、摂取するカロリーを、どのように計算したらいいか、ということ。

 専用の小皿に、乗るだけの、ご飯と、カツを、差し上げても、必ず、それらは、残ります。はた目には、手付かずと言っていい。

 でも、ミントはやがて、くふーん。満腹の、ぽんぽこりんになって、席を降り、僕の膝に、すりすりとほっぺたをすりつけるので、抱き上げてやると、ぴーぷす、ぴーぷす。熟睡です。

 ちゃんと、食べているのです。

 何を?

 …わからない。

 残ったカツ丼は、もちろん、僕がきれいにさらげます。

 味は、僕が食べたものと、まるで変わらない。ただ、ちょっと、冷めてしまっただけ。

 計算の上では、僕は、カツ丼を一杯、食べました。

 それでは、僕が摂取したカロリーは、本当に、カツ丼一杯分なのか?

 寝息に合わせて、元気に上下する、青緑色の、まん丸のお腹を撫でながら、しみじみと、カロリーとは、成績だ。

 学校から、会社から、一人に一枚、渡される、個人の評価書類。

 それが、商品としての食品にも、貼り付けられて、店頭に並ぶ。

 これを食べると、体内で、この数値分の働きをしてくれます。

 ただし、あくまでも、概算なので、実際は、そちらの思惑通りにはいかないかもしれないことを、お含みおきのうえ、ご採用くださると幸いです。

 ため息をついて、カップを持ち上げ、麦茶をゆっくりすすります。

 ミントは、甘い物が駄目で、飲み物すらも、にゅー。眉をしかめて、口をつけようとしない。

 おやつに、ココアなど、一人で飲んでいたのですが、なんとなく、申し訳ないような気がして、最近はもっぱら、朝と昼は、麦茶、夜は、清酒です。

 カロリー理論の難点は、分け合うことを、考慮に入れていないこと。

 そして、食べ物とは、単品で食べることは、ほとんどなく、取り合わせによって生じる変化が、必ずあるはずなのに、それもまるで、見ようとしていないこと。

 どこまでも、自分のことしか、考えていない。

 僕は、僕だけで、生きているのではなく、ミントはもちろん、カツ丼や、皿や、カップや、空気や、いろんなものと一緒に、ここにいる。

 今朝食べた、味噌汁と、白飯と、白菜の漬け物(このところ、すっかりはまっています。近所のスーパーの、手作り品で、浅漬けですが、いい味をしています。日持ちするなら、買い占めたいくらい)も、まだ、胃に残っているかもしれない。

 形がないとされる、思いも、加えるなら、気が遠くなるほどの存在たちが、今、ここに、むぎゅうと詰め込まれているのだ。

 それらが全て、足し合わされた時に、発揮される力を、0から9までの数字の組み合わせで、表現し切ろうなんて、無理がある。

 科学を批判しているわけではないことは、急いで、申し述べておきます。

 カロリーは、確かに、大事です。病を抱える方にとっては、計算を誤ると、死活問題になる場合もある。

 しかし、それだけではない。

 カロリーだけが、食べ物じゃない。

 成績だけが、人間じゃない。

 中学高校と、進学校に在籍し、ひたすら、順位を一桁にしろと、びしばしに叩き込まれた身としては、声を大にして、言いたい。

 トップを取れなくたって、いいじゃないか。

 たまには、カツ丼を食べたって、いいじゃないか。

 このところ、胃腸の調子が悪いから、揚げ物は控えましょう。なんて、頭で考えているばかりでは、生きている醍醐味がない。

 スーパーの厨房で作られた、買った時は、できたてのほかほかだった、ミニサイズのカツ丼を、愛猫と分け合って、おいしくいただき、それぞれに満たされて、眠たくなっているなんて、これ以上の幸せはありません。

 なんだかわからない数字の群れに、責め立てられるばかりの毎日を、食べている間だけは、せめて、忘れていたいものです。それでは、また。

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