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上村元のひとりごと その204:ほとぼり

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 充電が終わっても、すぐにコードを抜いてはいけません。

 待つのです。

 アダプターが冷めて、常温に戻るまで。

 iPhoneの電池の減りが早いのが、ずっと気になっていて、あれこれと、検索&模索して、ようやく、答えに出会いました。

 同じような頻度で使っていて、どうして、iPadは、電池の保ちがいいんだろう。ふと思ったのが、きっかけでした。

 もちろん、電話回線の有無が、大きな違いですが、それにしても。

 ほわま、ほわま。

 鼻だけを熱心にこする洗顔を終えて、すっきりしたミントが、パソコンデスクの椅子の上から、抱っこをせがみます。

 立ち上がり、青緑色の毛皮を抱き取って、炬燵に戻る。

 ご機嫌で、てぃるるる。喉を鳴らすミントは、洗顔の後、いつもこうして、僕の膝でくつろぎます。

 右前脚で、つるんぺ。左前脚で、ぷるんぺ。

 そればかり、ひたすらに繰り返す洗顔は、ミントにとって、重労働なのでしょうか。すぐには、遊びに出かけられないほどに、消耗しているのか。

 そこで、はっとしたのです。

 そうか。iPadは、充電が完了してからも、しばらく、放置しているんだ。

 iPhoneは、仕事の連絡等、緊急の用件がもたらされるかもしれないと、無意識に、焦って、100%、の文字が出たら、すぐ、コンセントから外していた。

 いつも、気になっていた。アダプターが、まだ、温かいことが。

 食べ物なら、できたての、熱々を、召し上がれ、と差し出すことが、最高のおもてなしである場合が多いけれど、電子機器は、食べられない。

 むしろ、熱を持ったままにしておく方が、発火の恐れがあって、危険だ。

 常時繫ぎっぱなしにしておく、過充電も、ものすごく危ないが、時折の、必要に応じての充電ならば、そんなに急いでコードを外さなくてもいいのでは。

 ミントみたいに、洗顔の後は、まったりする。そんな時間を、iPhoneにも、設けてあげたらいいのでは。

 というわけで、試してみたところ。

 気のせいかもしれません。でも、なんだかやっぱり、減りが、遅い。

 むしゃん。

 まったりが完了して、ミントは、すっくと立ち上がり、ぶるるる。毛皮をふるって、とてっ。膝から飛び降り、とてとてとてとて。ちりんちりん。むっきゃー。愛しのピカチュウのもとへ、ランデブーに向かいます。

 ミントにとって、僕は、なんなんだろう。

 むなしさを感じ、嫉妬にかられた時もありました。

 親以外の生き物と暮らすのは、初めてだったので、戸惑うことばかり。

 とりわけ苦しんだのは、心の距離です。

 運命の相手、とばかりに、思い入れたり。単なるペット、とクールに、割り切ろうとしたり。欠かせない相棒、とごとくに、対等を装ってみたり。

 それもこれも、ミントとの繫がりから生じた、ほとぼりのせいでした。

 充分に、寝かせておくべきだった。アダプターの粗熱が取れるまで、外すのを、待っているべきだった。

 それを、表示は確かに100%だが、もう少し、詰める余地のあるうちに、抜いてしまうことで、不安定な温度差が残り、それが、嫉妬だの、いじけだのに、結びついていった。

 一緒にいられれば、それでいい。

 笑っていてくれれば、幸せだ。

 そんな単純なことまで、忘れかけるくらいに、頭ばかりが熱くなって。

 ぬっふーん。べすべす。むがー。げすげす。ぎぬぎぬ。にぎー。どんごろ。ふんがー。ぽいーん。んふーん。

 ぬいぐるみ同士には、お互いにしかわからない、深く通じるものがあるらしい。

 動かぬピカチュウに、動きすぎるほど動くミントが、一方的に、からんでいるようだけれど、ぼうっと見ていると、そうでもない。

 長いしっぽで、まん丸のお腹で、ピカチュウも、ミントに応えている。

 突っ転ばして、じゃれあって、馬乗り(ねずみ乗り?)になり、はずんで、抱きついて、すりすりして。

 炬燵に頰杖で、遠くから、決して手を出さず、ただ見つめているうちに、なんだか、全てが、収まるべきところに収まっていく気がして、そして。

 そして、ようやく、書いたものを、読み返せる。

 文章も、食べ物ではない。

 どちらかというと、電子機器に近い、人工物です。

 書き手のほとぼりを、できる限り冷やして、常温で、読む方にお届けし、読む方が、安全に使っていただけるよう、最大限の配慮を行いたい。

 残念ながら、アダプターほどに、わかりやすい基準はないので、こうして、ミントの助けを借りて、なんとなく、そろそろかな。体感で、判断しているため、読み苦しい点も、かなりあるかと思われます。

 その場合は、存分に、放置してください。

 あなたにとって、本当に必要なものなら、いつか、そのうち、ちょうどいい温度になりますように。それでは、また。

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