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上村元のひとりごと その449:作文

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 大山鳴動して、スマホ一台。

 ぽっかりと、心に隙間が空きました。

 父が亡くなったことと、あるいは、関係があるのかもしれない。

 それくらい、ここ数日の、電子機器がらみのリニューアルは、半端じゃなかった。

 残されたiPhoneを、握っては、炬燵に置き、置いては、また握り。

 限りなく、スマホが手放せない高校生のようだが、もちろん、何かが違う。

 年齢だけではない。

 何が?

 ふやーお。

 はいはい、ただ今。

 ベッドの上、可愛らしく呼びつける、愛猫ミントのもとへ、馳せ参じ。

 乱れてしまった黄色い毛布を、丁寧に掛け直し、満足げなうなずきを賜って、もぐり込んでいく大きなおしりを、お見送りし。

 ため息をついて、ベッドの縁に腰掛けます。

 高校生には、自分がある。

 正確には、今後、華々しく実現されていくはずの、輝かしい自己イメージがある。

 今はまだ、親の言うなりで、スマホも制限付きだけれど、これから、一人暮らしをして、好き放題、リアルだろうが二次元だろうが、世界と繫がっていくぞ、という意気込みと、それに伴う不安が、ないまぜで。

 …そんな頃も、あったっけ。

 当時は、ガラケーだったけども。

 若かったなあ。

 何でもできると、思っていたっけな。

 なんて、感慨に浸っている場合ではない。

 事態は、かなり、深刻です。

 回り回って、高校生どころか、小学生に、戻ってしまったのだから。

 何だろう、この機械。

 どうやって、遊ぶのかな。

 誰かに訊きたいけれど、お父さんもお母さんも仕事だし、友達はいないし。

 にーぎひひ。

 もごもご。

 ずぼっす。

 むふーん。

 よしよし、よくやったね。

 毛布の端から、顔を出し、得意気に称賛を要求しては、頭を撫でられて、いい気分になり、またもぐっていく愛猫は、音楽が鳴っていないスマホに、何の興味もないし。

 …わかんないや。

 いいか、置いとけば。

 置いとこう。

 臆病に、手を放すも、しかし、何となく気になって、持ち上げては、以下同文。

 iPhoneと、自分が、まるでリンクしていない。

 これを使って、己を表現しようとは、思いつきもしないどころか、表現すべき己自身が、どこにもない。

 ただただ、世界は地続きで、仮想も、現実も、区別がなくて。

 平らだけれど、妙に、きらきらしている。

 暇なのに、退屈じゃない。

 スマホ、必要ですか?

 …いや、そんなには。

 ずぼっす。

 ぶふーん。

 よしよし。

 なでなで。

 ぐふーん。

 ずぼっす。

 どうやら、人生の振り出しに、戻ってしまったらしい。

 くたびれた心身に、小学生が宿った。

 ここから、また、中学生、高校生を、やり直すのか?

 嫌だな。

 しんどいな。

 というか、そもそも、できないな。

 他とは異なる素晴らしい自分は、一度壊れてしまうと、修復不能。

 無垢で無傷、というのが、大前提だからね。

 壊れたからには、無傷じゃないよね。

 というわけで、僕はこのまま、永遠の少年ならぬ、永遠の小学生を、生きていかなければならない。

 成長は、できない。

 決して、さも一人前の顔をして、さらさらと、パソコンで執筆することは、あり得ない。

 手で書いて、清書して、提出する。

 書く物は、全部、作文。

 ひとりごとという名の、小学生の作文を、これからも、どうぞよろしくお願いします。それでは、また。

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