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上村元のひとりごと その485:マスカラ

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 どうやら、ミントは、井口さんが好きみたいです。

 熱愛するバンド、King Gnuの動画を再生すると、大喜びで、炬燵に置いたiPhoneにかぶさって、くふーん。ぬふーん。

 うっとりと、小さな黒い目を細めて、曲に耳を傾け、時折、すりすり。

 ほっぺたをすりつけているのは、いつも、井口さんの登場箇所。

 …そうか。

 ミントの好みは、彼なのか。

 僕も、髭、伸ばそうかな。

 そうしたら、もっと、すりすりしてもらえるかも。

 推しの芸能人がいるパートナーをお持ちの方が、つい考えてしまうことを、ご多分に漏れずに考えながら、床にあぐら、膝に枕で、原稿用紙を埋めていきます(天板は、愛猫の大きなおしりで、いっぱいです)。

 物書きとして、僕は、どちらかと言うと、同じKing Gnuでも、作曲担当の常田さんに着目しています。

 誰が歌おうとも、彼の作品世界は、一貫して同じです。

 生きることはつらくて、投げ出したくなるばかりだが、命に任せ、当てもなく、無駄に輝き続けることだけが、選べなかった運命に対する反逆だ。

 ロックの王道を行く思想に、しかし、どこか柔らか味が感じられ、その源が何なのか、ずっと気になっていました。

 ボーカルが、女声、あるいは、それに近い井口さんだからか。

 それにしては、常田さんが歌うパートも、ごりごりのバスだけれど、トーンは、共通している。

 何と言うか、男女共有のような雰囲気は、もしかして、音楽ではなく、歌詞に由来するのでは。

 なんとなく、予想していたことが、このたび、常田さんがSixTONESに提供した楽曲、「マスカラ」によって、確信に近いものになりました。

 るふーん。

 むふーん。

 ぽたぽた。

 すりすり。

 …お断りしておきますが、僕は、「マスカラ」を、二回、それも、YouTubeバージョンでしか、聴いたことがない。

 King Gnuにあらずんば、音楽にあらずと、固く信じている愛猫が、なかなか、チャンネル権を譲ってくれないのです。

 スマホの他に、再生機もなく、というのは、言葉の綾だが、諸事情により、使えないため、うろ覚えで論じるしかない。

 不正確、何とぞご寛恕願います。

 さて、「マスカラ」。

 この曲の最大の特徴は、主人公の性別が決まらない、という点にあります。

 喰らえど喰らえど、の部分は、ちょっと柄の悪い男を思わせるが、マスカラ剝がれたまま、の決めどころは、泣き濡れた女の人を想起させる。

 まあ、男が女の人に、マスカラが剝がれた君もきれいだよ、と言っているように取れなくもないし、実際、歌っているSixTONESは、男のアイドルグループ。

 ファンの女の人を励ます効果を狙ったとも、充分、考えられる。

 しかし、常田大希は、秋元康ではない。

 完全なるアイドルプロデューサーになるには、優しすぎる。

 不器用と、言い換えていいかもしれない。

 おそらく、ご本人は、ごく一般的な男で、それ以外の観点を、ファッションを替えるようには、取り替えられない。

 それでも、この世には、自分とは異なる考えを持つ人たちも、確実に、存在する。

 自分は、どこまでも自分なので、そういう人たちの気持ちを、100%、理解できるとは言えないし、彼らに成り代わって歌うなんて、おこがましい。

 だから、最大限、場所を空けておくよ。

 聴く人それぞれが、それぞれの思想に合わせて、歌詞を解釈できるように。

 意味を、詰めない。

 あくまでも、詰めるのは、あなただ。

 にーごろろ。

 るふるふー。

 ぬいぐるみの猫のように、歌詞を全く聴かず、ボーカルにすりすりしているだけでもいい。

 果てしなく懐の広い、常田さんの曲のような文章を、僕も、書けるようになりたいです。それでは、また。

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