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イスラエルの給水ホース

屋上緑化の笠木を想定して、サンプルを依頼され、作って北側空き地に草花を植えた。

笠木の一本一本に水をやるのは面倒なので、一箇所だけ給水して全部の笠木に行き渡るようにと考えた。しかし、三〇mほどの長さに渡って、均一に少しずつ水を与えると言う条件が意外に難しく、当方ではさまざまな形状を試してみたが今一つぴったりと来なかった。また、当社で厳格にレベルを出して実験しても、実際の笠木はそう水平についているとは限らない。取り付け職人にそこまでの施行精度は要求できない。

困っていたそんな時に、ある会社が送ってきた給水ホースは「イスラエル製」とのことで、結構良い値だったが、実際に使ってみて性能の良さに唸った。

三〇m先にも手元にも、同じように水が出て具合が良い。しかも水の出かたはポトリポトリと雫が落ちるようである。イメージは病院の点滴そっくりで、ゆっくりと静かに給水するので、土を流してしまう心配もなく、じわじわと浸み込んで行って土壌の保水力ギリギリ一杯まで水分を持たせられる。ホースの長さを決めたら途中をはさみなどで切って、一八〇度折り曲げて専用の止め具を差し込めば、実に簡単にエンドの始末ができる。

苛酷な砂漠地帯にキブツという農場を作り上げて食料の自給を図っていることは聞いていたが、蒸発と流出の微妙なバランスの中で、最大の保水効率を求めたホースである。一定の間隔で小穴が開いていて、そこだけホースの肉厚が厚く、丁度竹の節に似ている。節は穴の保護とホースの折れ防止だが、どうも二重構造らしい。これが国際特許で、日本では手が出ないそうだ。この辺のDIYの店で売っている散水器はジョロ、直、霧などの選択と放水の角度を変える方式がほとんどで、いずれにしても「じゃんじゃん」と水を出すことが前提である。さすがに砂漠でなければ思いつかないと感じた。

イスラエルは、意外なことに軍事技術では世界の最先端を行っている。医療機器なども素晴らしいものを出しているし、産業機器も優秀だと定評が有るハイテク国家なのである。「ユダヤ人って頭がいいんだ」と片付けるのは容易だが、このようなローテクに属す製品に接すると、頭だけではない苦労の後がしのばれる。

雨はろくに降らず、毎日照りつける太陽が大地をかさかさに荒らした中で、僅かな貴重な水で植物を育てなければ生きてゆけない状況が生んだ製品である。

かつてイザヤ・ベンダソンという人が「日本人は水と安全はタダと信じている」と書いたが、それからざっと三〇年、安全はタダでなくなった(セコムなどの会社が発展しているし、治安のためならお金を使うようになった)。もう一つのタダだった水も、貴重な資源になりつつある。

#水 #イスラエル #ホース #砂漠 #コラム


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