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2023香港中楽団 兵庫公演

公演を聴いた人々のSNSの感想や、本格的民楽オケを初めて聴いた生徒さんからのメールで伝わってくる感動の言葉で、日本の中国音楽界を走った香港中楽団ショックの余波に浸っております。

私が大阪の中国民族楽団に参加して、いろいろなオーケストラ曲に接していたのが20世紀最後の数年と21世紀最初の数年。壮大で愛国的な大曲の数々に少々飽きて、その後は比較的新しいジャンルだった胡琴四重奏に興味が移ったわけですが、考えればそれから20年近くが過ぎており、今回の公演ではその間の中国民族オーケストラの変化を感じることができました。
かつて西洋の管弦楽を真似て始まった中国民族オーケストラが、中国楽器の特徴を活かす作曲・演奏技法、楽器の編成及び配置等、様々な実験と試行錯誤を経て、いよいよ洗練と熟成の段階を迎えたんだなという気がしました。

香港中楽団の小編成の胡琴アンサンブルは何度か現地に聞きに行ったし、日本でも聴いたことがありますが、今までにない編成ゆえ、気鋭の若手作曲家に委託されて新曲が次々に生み出されるという感じで、とにかくそれらの曲がかっこいい。オーケストラ規模でも同じ状況だったはずで、今回も初めて聴く曲がほとんどでした。

最後の譚盾の曲は1986年作とのことで、新しくはない(昔オーケストラ華夏でやった?覚えがあるようないような...)けど、滅多に聞けるものではないので、とても新鮮でした。
中国民族楽団の最大の武器は力強い打楽器群と、華々しい哨吶の音色で盛り上げまくる血の湧き立つようなキレッキレのクライマックスだと思いますが、この曲はその効果を最大限に使って成功している曲の一つだと思います。西北組曲はそれ以外の要素も別格ですが、私が中国オケの曲に接していた頃は、とりあえず打楽器と哨吶で盛り上げるタイプの手法が多くて少々食傷気味だった。(どの曲もそれぞれは格好いいんですけどね。打楽器と哨吶が前面に出てくると、二胡なんてどんだけ人数いても全然聞こえなくなる。)

今回聴いた曲の中には、どないやって合わせてんねんと思うような高度に複雑で神秘的なメロディー、西洋楽器との違和感のないコラボレーション、器楽奏者が曲中で声を使ったり楽器を叩いたりする飛び道具的表現法などが次々と登場、これまでの力強く盛り上げる派手やかな表現は各種ある武器の中の一つとなり、いろんなタイプの曲を味わうことのできるプログラムになっていたと思います。久しぶりに聴く私も、初めて聴いた多くの生徒さんも、チケットを間違えて余分に買ってしまったという理由で連れてこられたうちの息子も、目を見張り、わくわくして最後まで飽きることなく楽しむことができました。

サクソフォーン協奏曲は初めて聴いたのでどんな感じになるかと思ったけど、サックスって音程を隣の音程まで綺麗にスライドさせることができるんですね⁈二胡では”活音”、”打音”と呼ばれるタイプの装飾音が自然に入って、またppからfまで自在に膨らみを作ることのできるリード楽器の特性がとても曲に合っていて、ソリスト住谷美帆さんが、彫りの深い顔立ちの中央アジアの乙女か、仏教壁画の飛天に見えてくるくらいでした。

そこそこ長くこの世界を見てきたから思うのですが、以前は中国楽器と西洋楽器の音楽家は至る所で音楽上の異文化交流的問題が生じて、音楽的常識の違いにより話が通じない、最終的にやむなく諦めによる落とし所を探して辻褄を合わせるみたいな事態になりやすいのですが、今回の協奏曲はとてもしっくりとして違和感なく、ソリストの力量と共に香港中楽団の国際的洗練度を感じました。

香港中楽団は歴史的にも西洋文化と接する立ち位置にいたので洗練度に置いて抜きん出ているのかもしれませんが、またこれを機に他の民楽オーケストラにも耳を傾けてみたいと思います。台湾も長いこと学生民楽オケが盛んで裾野が広いので、面白いことになってきてるかもしれないな。コロナが収束して人の往来もまた活発になりつつあるので、これからまたいろいろ楽しみです。

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