元彼
元彼へ
死ね🖕
冗談です
すみません。
冗談でも言っていいことと悪いことがある。
彼はそんなこと絶対に、口が裂けても言えないような、すごく優しい、いい人でした。
付き合ったのが2022.08.17。
それから1ヶ月は仲良くできてた。旅行もした。
ふと気づいたら、LINEの返事が素っ気なかった。返信が遅くなったように感じた。「好きだよ」と言えば「俺も好き」と返ってくるけど、自分からそれを言ってもらったことが一度もないことにも、気づいた。
別に彼はそんなつもりなかったのかもしれないが、私はなぜかすごく不安になって、泣いた。
電話の向こうで彼は困って、「うーん……」と言った後「電話繋いだままでいいから、LINEで伝えてもいい?」と言った。
「うん、」と返事をしてずいぶん待った後に送られて来たのが、元カノの話を含んだ長文LINEだった。
要約すると、
「俺も元カノに対して同じように不安になって、同じようなことを言って振られた。だけど今なら、元カノは俺のことを嫌いになったわけじゃなくて、俺が隣にいることが当たり前になってただけなんだって思う。俺も今、なるに対して同じ気持ち。嫌いになった訳じゃなくて、トキメキが無くなっただけ。一緒にいることが当たり前になった。好きとか言うタイプじゃないし、外でイチャイチャするタイプでもないけど、ちゃんと好きだし、これからも一緒にいたいと思ってるよ。」
という内容だった。
その時は(嫌われてない)とほっとして泣いたが、次の日の朝目覚めて(今カノが泣いてんのに元カノの話する男ってどう?)と思った。
それからも彼の態度(LINEの頻度とか、素っ気なさとか)は変わらなかった。
次に私が泣いたのは、元カノLINEを貰った約2週間後だったと思う。
このあたりから私は体調を崩して仕事に行きづらくなっていた。
夜中なのに彼は「電話する?」と言ってくれたが、私はもう泣いていたし、ちょっと怒っていたので「LINEでいい」と断った。
LINEで「やっぱり素っ気なく感じる」と言ったら「うーん、でも前言ったことと同じやねんなあ」と返ってきた。そっか、わかってるよ、でもね、と思ったので、「わかってるよ、でもね、」と言った。
「でも、私からのLINEをやめたら、連絡が途絶えると思うんだ」
知り合ってからこれまで、彼から話題を振ってくれたことはほとんどなかった。
次の日の昼、彼から「今日は何してるの~」とLINEが来た。すごく嬉しかったのに、それは彼が話題を振ってくれた、最初で最後のLINEだった。
彼はよく私の家に泊まりに来たが、私が彼の家に泊まりに行ったことはほとんどない。
12月に入る頃には、私から「いつ会える?」と聞かなければ会う予定を入れてくれなくなっていた。いや、最初からそうだった気がするが、私はやっとそのことに寂しさを覚えるようになっていた。
彼は度々実家に帰っていた。
仕事の研修に行くのに実家に泊まった方が近いから、という理由がほとんどだったけれど、それ以外でもよく実家にいた。
12月14日、彼が実家にいるのをわかっていて私は「会いたいなーと思って」と言った。「次の日仕事だとしんどいなあ」と彼は言った。まだ付き合って3ヶ月と少しだった。
『あんまり彼のこと全肯定しちゃだめだよ、嫌なことは嫌っていいな。舐められて、都合よく使われるよ』
彼のことを話す度、色んな人から同じことを言われていた。
私は素直なので、(怒ろう)と思い、怒った。
要約すると「もっと大事にして」だった。
いつもは既読がついたらすぐに返信をくれる(既読になるまでが遅い)のに、その時は何故か既読がついてから5時間くらい返信がなかった。待っている間に私は先輩とご飯を食べて、帰ってきた。
やっと来た返信は、色々書いてあったがつまり「しんどいから別れたい」だった。
それから3日かけて私たちは喧嘩をした。
ずっとLINEでのやりとりだった。
別れたくなくて、せめて会うか電話をしたい私と、そんなことせずに別れたい彼。
「俺の素っ気なさはもう治らないし、それでしんどくなったなるの気持ちに合わせようとするのがもうしんどい。もっといい人がいると思う」
結局そういう事だったけど、私は泣いて怒って縋り付いて、彼を引き止めた。
彼は言った。
「別れるって話は無しにしたい。でももう少し時間が欲しい。落ち着くまで待って欲しい」
いくらでも待ちます、と私は言った。
12月17日の夜だった。
25日は夜ご飯を一緒に食べよう、と、約束をしていた。
それから5日間、彼からの連絡は来なかった。
ひと月前から予約していた美容院で私は「クリスマス……もう無いかもしれなくて笑」と話すしか無かった。話しやすい男性美容師は「ジャブ打ちましょ、相手も何を言ったらいいか分からなくなってるのかもしれませんよ」と言った。
「おつかれー。髪を切ってみたよ」
「お疲れ様!俺も実家帰った時に切ったよ」
吐きそうになりながら打ち込んだメッセージへの返答は、ずいぶんあっさりしていて、喧嘩など何も無かったかのようだった。彼が髪を切ったことは知っていた。私は拍子抜けして、は???と思いつつ、「待てなくてごめん」と言った。
「待たせてるの俺やし。25日、会う?」
飛び上がって泣くほど嬉しかった。
会います!会う会う、プレゼントも店もなにも気にせん!会えればそれで。それでいい。
やっと会えた25日、私たちは騒がしい居酒屋のカウンターで、塩鍋をつつきながら、特に意味もオチもない会話をぽつぽつとし、手を繋ぐことも写真を撮ることもなく解散した。クリスマスプレゼントは、私から彼に送られた。程よい値段の財布と、ちょっといい印鑑ケース。おまけでコーヒーのドリップバッグ。喧嘩する前に作った手作りのチケットと、手紙。
今思えば、もっとしょぼい物にすれば良かった。
付き合っていた期間で私が彼に貰ったものは、どれだけ高く見積っても1000円しないアクリルキーホルダーひとつだ。
年が明けて、私たちは元のように連絡を取りあった。彼から話題提供はないし、私はそんなの気にせず話しかけ続けた。正月にひいたお御籤が大吉で、ああよかった、と思った。
1月9日、私は弟の成人式を見届けるという名目で実家にいた。彼と会う予定はひとつも立っていなかった。会えるかも、と言ってくれた日は勘違いや私の仕事で微妙に会えない感じだった。そろそろ会いたい、会う予定くらいは決めさせて欲しい、と思った私は、「月一でいいから会えたら嬉しいんやけど、今月どうかな……?」とLINEを送った。
既読がついて数時間、返信は来なかった。
1月10日の0時過ぎ、
「やっぱり別れたい」
とLINEが来た。ああそうか、と私は思った。
じゃあせめて声で振って。とお願いをしたら、今お風呂入ってるから待って、と言われた。(自分から別れ話始めといて、風呂入るんだ)と思いながら、私は待った。
電話の一言目は彼の「大丈夫?」だった。
(大丈夫なわけないだろ、馬鹿)と思ったから、「大丈夫じゃないよ」と言った。
もう好きじゃない、とちゃんと言われた。
声を聞けばやっぱり私の中には(好き)だけがあって、でも、好きな人にしんどい思いはして欲しくなくて、もう十分しんどがっていることは、馬鹿な私もちゃんとわかっていた。
「もう二度と幸せになんかならないでください」
と言えば「うん」と返す、そういうところだよ、と私は思う。そういうところで君は元カノに振られるし、そういうところも含めて好きだって言ってくれる女、私以外にいないと思うよ。
日産の看板を見ても、福知山に行っても、彼のことを思い出す。
伊根も天橋立も、鳥取も、有馬温泉も、私の部屋にも彼との思い出が張り付いている。
振られた次の昼には実家を出発した。2時間半の運転中は、ずっとSaucy Dogを聞いていた。そんなに好きじゃなかったシンデレラボーイで、ボロボロ泣いた。
実家を出る前にマッチングアプリを始めた。アプリで出会った男のことを、アプリで出会った男で忘れようと思った。
一瞬だけでいいから、嘘でいいから、形だけでいいから愛されたかった。
10日の夜明け前に振られて、同じ日の日没後には一人目と会っていた。夜のドライブの予定だった。
11日の夜にも、別の人と夜のドライブをした。
危ないことはわかっていたし、実際に性的なことをしたりされたりした。二人目に至っては最後までした。
自傷行為と同じだった。
傷ついて死のうと思っていた。
いや、実際には死なないけれど、彼のことを好きだった自分を殺そうと思った。
二日続けて知らない男に会って、二日続けて一人で泣いた。やっぱり彼のことが好きだと思った。
だけど、二人の男のおかげで彼を「元彼」と呼べるようになった。「もとかれ」の口の動きに舌が慣れて、脳が追いつくのにそう時間はかからなかった。
振られてから3日ほど経って、悲しみは怒りに変わりつつあった。
きっと、悲しみ→怒り→忘却、の流れでやっと、元彼のことがどうでも良くなっていくんだろうと思った。
Sugarのウエディング・ベルの歌詞がやけに響いた。(くたばっちまえ、アーメン)
死んでしまえ、と思った時、彼の顔が好きだったことを思い出した。
あの顔がこの世からいなくなるのは勿体ない。彼を愛したご家族やご友人にも申し訳ない。だけど、私はどうしても彼に腹が立つ。
結局「腹部を刺されて血を吐いて死ね」に落ち着いた。
きっと私はこれからも日産の看板を見る度に彼のことをうっすら思い出す。
私は彼の血液型を知らないし、怒った声を聞いたことがない。名前の由来だけ聞いときゃよかった、と今になって思う。
彼の表情はいつも凪のようで、声が低くて聞き取りづらくて、おかげで私の心はいつも大嵐だった。
旅行と猫が好きなことと、大学と年齢しか共通点がなかった。
趣味もよく聞く音楽も何一つ重ならなくて、だから私はわざわざUVERworldを聴いて好きな曲をみつけようとしたのに、彼は、私が短歌が好きだということを、きっとあんまりよくわかっていない。
初めての彼氏にしては、難しい相手だった。
私は人間として、ピースがいくつか欠けている自覚がある。それは「愛」で、詳しく言えば、自分で自分を愛する気持ちと、家族から愛されている確証。
自分も家族も上手く信じられない。もうこれは明確に理由と原因があるトラウマで、おかげで私は他人のこともあんまり信じていない。特に自分に向けられた好意は全て疑ってかかる癖がある。
それなのに、だからかもしれないが、欠けている「愛」のピースを、恋愛で埋めようとしたがる。恋愛に依存する。
そんな私と、愛情表現があっさりな元彼。
そりゃしんどくもなるって。
今思えば付き合い方も最悪だった。
好きなところは沢山あったけれど、人に話すと愚痴しか出てこなかった。しんどくなったら別れていいんだよ、と色んな人に言われていた。やめとけ、とはっきり言われたこともあった。
今年のお御籤は大吉だった。
引いた直後は、彼との幸せな日々を想像して嬉しくなった。だけど、それは勘違いだった。
彼と別れて正解だったと思えるような、いい出会いがこれからあるのだろうか。恋に限らず、なにか、いい出会い。
復縁しようとは思っていない。
後悔させるくらい幸せな生活を送ろうと思っている。
見返してやろ!と友だちは言ってくれる。
見返してやる、と、私は返す。
冒頭で
死ね🖕
と言ったが、まあ別に死ななくてもいい。
ささくれができた指でパソコン叩いて痛、と思って欲しい、くらい。
彼はいい人だった。
酷い男になりきれず、私を振る時すらも優しかった。
だからこそ、次の彼女が可哀想だと思う。
だから、元彼へ。
もう二度と、幸せになんかならないでください。
ばいばい。
さよなら。
楽しかったよ。
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