成海紗智

小説家志望です。成海紗智(なるみさち)と申します。 自称、腹黒性悪。作品もほとんど嫌味…

成海紗智

小説家志望です。成海紗智(なるみさち)と申します。 自称、腹黒性悪。作品もほとんど嫌味と性格の歪み丸出しです。 ここでは短編小説を書き、依頼があれば個別で中編以上もお書きします。 ネタ提供、テーマ提供、執筆依頼は随時受け付けております! よろしくお願いいたします🍀

最近の記事

香りの標

ゴム製のカエルを悪戯に使ったり、モデルガンや玩具のナイフで強盗に入ったりと、人間は物の形で危険を察知する。いや、人間だけではなく、視力のある生き物全てに言えることだ。事実、自然界にも無毒であるにも関わらず、猛毒を持つヘビと似た模様を持つ無毒のヘビが存在するほどだ。その中でも特に人間は、視覚情報への依存度が高い。だからこそ、それ以外の嗅覚や聴覚はあまり発達していないのだろう。 それの裏付けとなり得る、私のような視力を失いかけている人間は、聴覚と嗅覚が鋭くなった。 「お母さん、

    • おかたづけ。

      「たからものいれ」から出てきたのは、花の形の風車。幼い頃、好きだった近所のお兄さんが夏祭りに買ってくれたものだ。恐らくガーベラを象ったピンク色のそれは、多少色あせて黄ばみ、花弁が二枚、折れ曲がってはいるが、二十年前に露店で購入した安物にしては、保存状態は良いのではないだろうか。 ガーベラを目線の高さに持ち上げ、ふっと息を吹きかける。息の吹きかけ方が悪かったのか、そうじゃないわ、とでも言うように、左右に少し揺れただけだった。もう一度吹きかける。もう一度、首を振る。 手に入れたば

      • うろこ雲の彼方

        秋。 日照時間は短くなって気温は下がり、木々は色とりどりの装いを見せ、街はハロウィンを心待ちにするかのように怪しく、しかし楽しげな雰囲気を醸し出す。和栗やさつまいもを使った、日本の秋を全面にアピールした料理たちも登場してくる。 凍てつくほど寒くはないが、茹だるほど暑くもない。夏の余韻を残しながらも、クリスマスという一大イベントを前に興奮が抑えきれず、買ったばかりのコートを羽織って恋人へのプレゼントを選びに出かければ、日に日に増えてゆくイルミネーションが歓迎してくれた。さあ、恋

        • 虚構の花-後編-

          自分の容姿に不満を抱くようになったのは、つい最近のことだ。 何故、僕は一八〇センチもあるのだろう。 何故、僕は筋肉が付きやすいのだろう。 何故、僕はこんなに関節や筋が目立つのだろう。 何故、僕は大柄なのだろう。 何故、何故、何故! いくら、誰に問いかけても、答えを得たところでこの身体が理想の姿に変化するわけではないのに、問わずにはいられない。不幸にして父親に似てしまったのだから、遺伝のせいにしてしまえばいいのに、もっと華奢で儚い姿への憧れが拭われることはない。 それは確かに、

          虚構の花-前編-

          夢を見た。 果てしなく広がる蒼空の下、果てしなく広がる真っ赤な絨毯。その中に、天高く、高く、高く、吸い込まれるように一本のガラスの塔が立っている。中を、やはり透明な箱がゆっくりと昇ってゆく。中には、白い服を着た老若男女が数人、微動だにせず乗っている。 待って。 僕は叫び、上昇するガラスの箱へ叫ぶ。 それが何かも分からないのに。得体の知れないそれよりも、自分だけが、赤い世界に置いていかれる恐怖に駆られ、助けを求め縋るように、情けない声を上げて駆け寄る。 赤い絨毯の長い毛足が僕の

          虚構の花-前編-

          おばあちゃんベイビー

          台風14号の発生を報せるニュースを聞きながら、湯気を立てる里芋の煮物を摘もうと悪戦苦闘する。逃げようとするのを半ば無理やり挟みあげ、唇にぬるぬるとした煮汁が付くのも気にせずに一口で頬張った。ホクホクと口いっぱいに広がる幸せに浸りたいところだったが、案の定、火傷をした。 上を向いて口を小刻みに動かし、できるだけ口の中の温度を下げながら里芋を細かくしていると、右隣からガタンと、硬いもの同士がぶつかる鈍い音がした。次いで、ああ、と老婆の狼狽える声がする。 まだ熱い里芋を無理やり飲み

          おばあちゃんベイビー

          私の芝は青い

          「何物も貫く矛と何物も防ぐ盾って言われても、なんか実感って言うの? 湧かないんだよね」 四時間目の授業終了後の昼休み、特定のグループで集まって談笑しながら昼食を済ませるのは、誰もが一度は経験することだろう。もちろん、中には一人でマイペースに過ごすことが好きな者もいるが、少なくとも私は、特定の数人で集まって他愛のない話をしながら昼食を済ませる人間だ。 私たちの通うH大学中学部は、小学部から大学部まで一貫の私立で、給食がなく、生徒はお弁当を持参するか、食堂や購買を

          私の芝は青い

          卵が先か、親鳥が先か

          9月も折り返しを迎えた日暮れ時とは言え、昨今嘆かれている地球温暖化のせいなのか、私に暑さに対する耐性がないだけなのか、とにかくまだまだ暑い。夕食にきゅうりの浅漬けを出そうと冷蔵庫を開けると、ヨーグルトと顆粒だしを切らしていたことを思い出してしまった。それを買いに出ようにも、この茹だるような外界に、身一つで出ていく勇気など持ち合わせていない。 唯一の自家用車である緑色のタントは、夫が通勤に使っている。夫が帰ってくるのを待ち、入れ替わりで車を使おう。 夕食作りが一段落し、冷

          卵が先か、親鳥が先か