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非常識な女子中学生

当時、女子はまだ「女こども」扱いで世間から「女の子らしく」と言われて育てられていた。
成長するにつれ、家のお手伝いや、ピアノ、お茶(茶道)やお花(華道)を習うことが求められていた。
男子と女子は教育こそ同じだったが、世間では違う世界で育てられていた。

以前の常識は、今の非常識。

とよく言うけれど、わたしは当時、非常識と思われる女子中学生だった。

学校から帰ると、家の壁に立てかけてある、そのへんで切り出した竹の釣り竿を持って自宅前の川でフナ釣りをしていた。
餌は庭にいるミミズ。
ミミズの節のようなところから釣り針を刺し、ポンと川面に落とす。
プラスチックの派手な蛍光色のウキをじっと見つめる。
川の流れがあるため、何度か竿を上げ、ウキを元の場所に投げる。
ウキに集中、竿を持つ手にも。

ウキがぴく、と動く。
緊張が走る。
今度は、さっきよりくくっとウキが沈む。
そのままウキが消えるほど沈んだ。
糸がピュンと音がするくらい手首だけを動かし、横にしならせる。
手応え!
見えない相手が、水の中で抵抗する。竿が弧を描く。
ぐぐぐっと水面で糸が右往左往する。その重さが片手では対応できなくなり、両手で竿を握って片足を半歩前に出す。
やがて水の中で銀色がひるがえる。
何度かそれは強くもがき、水面近くでもなんとか逃れようとする。
釣り針には返しが付いていて、一旦魚の口に引っかかると外れることはない。
竿は半分に折れ曲がるほどしなる。
やがて口の横から大きなミミズを垂らし片手ほどのフナが上がってくる。
釣り上げられたフナは空中では無抵抗で、竿を立てて魚を寄せて掴み、針をフナの口から外しバケツの中へ。

フラフラと自転車に乗った、暇そうなおじいさんがやって来て、乗ったままふと足を下ろし、後ろから「釣れたか?」と声をかける。
振り返ったわたしの顔を見ると、え!女子?!というような、やや面食らったような表情をする。
こういうオジイはちょくちょく現れて、いちいち驚くからだんだん対応が面倒くさくなる。

「変な女子」と呼ばれていたと思いますが、変なのは「女子が魚釣りをしてるなんて」という『偏見』です。

最近、ようやく、やっとそのことに気づいた日本人。

気づいただけで、まだ行動はこれからみたいだけどね。


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