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"影響力"が必要と思うにいたった経験

 もう30年ほど前のことになります。教育研修を企業に売る会社に勤めていた私は、新規の営業を開拓するために、とある大手ゼネコンの教育部門を訪ねました。そこは営業教育を担当する部門で、初めて会う方でしたから少々緊張していたのを覚えています。
 担当の方は表情と反応に乏しくて、でも彼らの営業スタイルを懇切に説明してくれました。もちろん私も会社のサービスや可能性のあるソリューションをお話ししたのです。

 そのやり取りのことは忘れましたが、内容は鮮明に覚えています。左側に自社の階層を下から担当、課長、部長、支店長、社長と、右側に、担当、課長、局長、助役(今の副市長か)、首長。そして左右に平行の線を結んで担当同士、課長同士、部長と局長、支店長と助役室… というように繋いだのです。
 「うちはこんな感じで繋がっていますから、これが営業ですから」といいました。だから、営業の技能を訓練する必要はないと言いたいのです。

 補足すると、この場合のクライエントはご覧のように地方公共団体です。当時は公共事業がまだまだ花盛りで地方にも潤沢な予算があったから、多くのゼネコンがその市場で鎬を削っていました。まあバブル崩壊の本格的な影響がこの後数年にわたって世を襲い、地方公共団体(と国の)の収入が減って公共事業の見直しが図られる前の話です。今は違うのでしょう。でも建設会社の営業がこんな形(ちょうどハシゴ、ないし”あみだくじ”のような形)であるのか、と感心させられたのです。でもまだこれが何を意味するのか、よくはわかっていませんでした。

 その後私はGMやJ&Jというアメリカ系🇺🇸の企業で働くことになるのですが、こちらはまったく違いました。クライエントについてはその判断を担当者が任されます。基本的にあらかじめ打ち合わせた範囲での取引なら、担当者は上司にお伺いを立てなくても決められました。
 🇺🇸の医療機器メーカーに入社した翌日、人事に配属された私は営業動向をすることになり、入社4年目の若い営業担当者と病院まわりをしたのです。いくつ目かの病院で彼は医大の大きな階段教室入っていきました。すると教授以下数十名の医師たちが集まり、新しい機器の使用方法の説明会になったのです。彼がプレゼンテーションして医師たちに指導する。質問には彼が答える。活発な質疑応答の後質問がなくなると、医師たちは納得の表情で席を立ちました(影響力が発揮されています)。営業担当者は1人でこの難しい顧客たちの前で話をしました。大病院で決定権の大きい教授もいる。見事な仕事ぶりです。誰も彼が20代の若者だと思わなかったでしょう(彼は歳よりも落ち着いて見えていましたし)。でも1時間の説明会でみんなを納得させる。実に効率がいい。

 こんな経験を数年したのちに、私は会社を辞めて今の仕事を始めました。ところがどのクライエント先に行ってもなんか違う。まもなくわかったんですが、みなさんの話を聞くとお客先でも他の取引先でも、相手がお偉いさんになると、づらづらと大勢でいくのです。コンピューターメーカー系、通信機器系のSIerなんて、みんなそうです。
 ああ、あれか!20年前に私がゼネコンで教えてもらった、ゼネコンスタイル。ハシゴのように同じ程度のポジション同士が平行にコミュニケーションをとる。担当は担当、課長は課長、役員には支店長とあてる。あの形です。その習慣が今でもあるんだ❗️ふと腑に落ちたのです。ああ、部下に任せないんだ。信用していないんだと。きっと何かを決めるのに、いちいち上にお伺いを立てなければならないのでしょう。

 私はこのやり方が悪いと言い切れないと思っています。でもいくつかの問題もある。アメリカ企業の営業担当者がひとりで責任を負って顧客と向き合っているのに比べると、管理職が無駄な仕事をしています。たぶん仲良くなりたいんでしょうが、そうするとゴルフだとかなんだとか、きっとエネルギーを使います。決定に時間もかかりますね。そのぶん、戦略的な計画をする時間がなくなります。そして何より、担当者は最後は上がなんとかしてくれると思っていますから、責任感が養われない。人が育ちません。実際、アメリカの医療機器企業の従業員に比べると、落ち着きがない人が多い、ような気がする。歳より若く見えると言いますか…

 当たり障りのない話をするのなら影響力は不要です。上が決めてくれるならそれを待っていればいい。でも社長を動かそうと思ったら、影響力は不可欠です。そして何よりビジネスへのコミットメントと責任感が必要です。

 幸い日本でもプロジェクト中心の組織に移行しています。影響力が求められています。でも影響力が不足していれば、パートナーシップを築くのは難しい。必要なのは、トップの影響力ではなく(すでに十分あります)現場のプロフェッショナルに影響力を授けていくことなのです。そうすることでその場で交渉して、会社の代表として決めてくることができる。いちいち上司にお伺いを立てるような責任感が薄い人を、今の世界は求めていませんね。

 そんなことを、今朝ホンダとGMの提携が一部決裂したという記事を読んで思い出しました。

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(画像は「新版 影響力の法則」の表紙から拝借。11月1日に発売されました)

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