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分からないなりに「テンセグリティ」を知る

まず最初に。
私は子どもの頃より「勉強しなさい」と言われない家庭に育ち、そのまま勉強しないまま育った大人です。
ただ、大人になってから「学ぶ」ことを知り、学ぶことで「喜び」を感じることができ、今こうして自分が興味ある分野を少しずつ学び、自分の知識として蓄えているところです。ですので、調べる中で自分の解釈が間違っている部分があるかもしれませんし、専門の方からするとおかしい部分があるかもしれません。その場合はぜひあなたの知識を教えてください。


バックミンスター・フラー

テンセグリティ(tensegrity)という言葉は、
張力(tension)と完全性(integrity)
を組み合わせた造語で、バックミンスター・フラーが提唱した概念です。

彼の書いた「宇宙船地球号」は面白いのでぜひ読んでほしい。
年譜では、幼少期に斜視であったために、家や木、人が輪郭でしか見ることができず、眼鏡で補正され細部を理解する能力を得たにもかかわらず、大きなパターンだけでものごとを理解していたことや、
少年時代には、海洋技術と船乗りに興味を持ったこと、
フラー家伝統となっているハーバード大学の進学をサボって2回も追放されていること、など彼の研究に至るまでの波瀾万丈っぷりと、幼少期に得ることになった能力が書かれています。

もちろん本編も大変興味深く、彼は宇宙の中の地球を一つの「宇宙船」と捉え、船体内での環境改善(人と自然の共存)と補修(再生可能な仕組み作り)ができるようにするには、どのように思考すべきなのかを知ることができます。

安定した構造

構造のお話です。
安定した骨組みの構造を知るには、マクスウェル公式を使います。
必要部材数=節点数×3-6

この3と6ってどこから出てきたか?
3次元空間に1つ点を取る場合、その点は縦x、横y、高さzの方向に自由に動くことができます。1つの点の自由度は3(方向)となります。

もし3つ点があれば、各点はそれぞれ3方向へ動くことができるので、自由度は9になります。
大丈夫ですか?

では、この3点を棒で繋げて三角形にした場合の自由度はどうなるでしょう。3点の長さは固定されました。3点は先ほどのように別々に動くことはできません。

この場合は、三角形という形は変わらないまま縦・横・高さへの移動ができて、かつ縦・横・高さの軸で回転することができるので自由度は6ということになります。
この「形が変わらないまま」動ける自由度は、「剛体運動の自由度」と呼ばれ必ず6あると考えてください。

マクスウェル公式は、
節点数 × 3次元空間の方向 - 剛体運動の自由度で計算すると、安定する必要な部材数が分かるという公式になります。
ついてきてる??

さて、先ほどの三角形を立体にして考えてみましょう。
三角形の立体は、正四面体ですね。
節点は、4点です。

先ほどの公式に当てはめると、
4(節点数)×3(縦横高)-6(剛体運動の自由度)=6(必要部材数)
必要部材数は6になります。

正四面体

正四面体は、すべての形の中で最低限の部材で作れる安定した立体構造です。そして、この正四面体からプラトン立体を作ることが可能です。
三角って深いですね。

テンセグリティ構造

下記のイラストは、テンセグリティ構造の六面体です。
部材数はいくつありますか。

By Bob Burkhardt

答えは16本です。
緑の棒4本、赤い紐12本で合計16本で構成されています。
あれ?
マクスウェル公式で計算すれば、安定した構造にするには18本必要なはずですね。2本も少ないので、マクスウェル公式で考えると、テンセグリティ構造は「不安定」な構造物ということになります。

しかし、テンセグリティは強度があり、少ない資材でできるという特徴があるにも関わらず、安全性が認められず建築としては一般的に使用されていないのが現状です。

テンセグリティの部材
・圧縮材(棒の部分)
・張力材(紐の部分)

実は、私たちの体もテンセグリティ構造をしています。
圧縮材は骨、張力材は筋肉です。私たちの骨は腱や筋肉によって繋がっておりますので、骨組みは不安定ということになります。しかし、私たちは軽量でしなやかで丈夫ですよね。

また、ミクロの世界でもテンセグリティ構造が発見されています。
細胞は骨格構造を持っていて、その名も細胞骨格というのがあるそうです。

細胞骨格

上記画像の緑の部分が微小管と呼ばれる箇所であり、テンセグリティでいう圧縮材になります。赤い部分がアクチンフィラメントと呼ばれる箇所であり、これが張力材です。※青い部分は細胞核です。

また、炭素元素c60はフラーレンという名称があり、この構造体がバックミンスター・フラーのジオデシック・ドームに形が似ていることから名付けられました。

振動する

このテンセグリティ構造の特徴は三つあります。

  • 面がない

  • ジョイントがない

  • 振動する

この最後の「振動する」とは、主に張力材が揺れることで起こります。
これはバックミンスター・フラーと研究をともにした梶川泰司さんのワークショップに参加した時のお話です。

ワークショップでは、球体のテンセグリティを一人ひとつ制作するのですが、大型の半球上のテンセグリティを参加者同士で組み立てて、中に入って瞑想することができます。

張力材を弾いて音を出すと、432Hzの振動が球体の中に響きます。それはチェロのような低い音、全身を振動がまといます。
これを外に出すと、風と共鳴していくつもの張力材が振動して音が重なります。この音と振動の感覚はとても心地良く、15分の瞑想時間はあっという間に感じました。

この432Hzは、水が綺麗に五角形の結晶を作る音として知られていますが、このテンセグリティの中でもどのような効果があるか、実際に実験をして確かめられています。
ワークショップ内では、心臓の細胞がサイマティクスのような幾何学を描いていたり、水の結晶が五角形を描いているもの、死んだ魚が泳ぐ姿など画像と動画で見ることができました。

何より驚いたのが、梶川さんが73歳の年齢には見えなかったこと。ご本人もこれがテンセグリティのおかげか分かりませんと仰ってましたが、これは間違いないでしょう。毎日でも入りたい。
気になる方は、ぜひワークショップに参加してみてください。

最後に

More is Less
(より少ないもので、よりたくさんのものを)

バックミンスター・フラー

これはバックミンスター・フラーが残した言葉です。
思い込みや概念を取り払い、形として成り立つはずだと思考した結果、テンセグリティ構造を発見した。これは「発明ではなく、発見である」と彼は言っている。そしてその通り、私たちの体にも存在した構造。

様々な試験や効果はこれからであり、この構造がたくさんの可能性を秘めていることには違いない。

宇宙船地球号に乗る私たちができることは、自然を壊すことではなく自然と共存する道を歩むこと。

誰かの支配の中ではなく、自分の思考の中で判断をすること。

難しい内容であり、ほんの触り程度の内容となりました。
それでも読者の理解のきっかけや、興味の対象となれば幸いです。

おまけ

バックミンスター・フラーに影響を受けたケネス・スネルソンの彫刻が日本でも見ることができます。よければ足を運んでみてください。

虎ノ門 JTビル

滋賀県立美術館


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