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薬剤師は認知症ケアにどう携われるのか~BPSDの予防と対処法

※この記事は医療従事者向けに書いています。

認知症の患者さんへの対処法。どうしていますか?

在宅で認知症患者さんのお家に行くことが多いです。認知症の症状は、患者さんによって千差万別。中には服薬拒否や多量の残薬がある人もおり、悩みながら仕事をしています。

今回は「薬剤師が認知症の患者さんに対してどう携わるか」をテーマに勉強しました。

認知症は要介護の原因第一位である

2019年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、「認知症」は要介護認定の原因になった疾患の第一位です。割合は17.6%。続いて、「脳血管疾患」、「高齢による衰弱」、「骨折・転倒」、「関節疾患」と続きます。

高齢の方が寝たきりの状態になることなく、健康的に過ごすためには「認知症」の早期発見・早期対応が重要です。

団塊の世代が75歳を迎える年は、2025年です。目前に迫っています。薬剤師としても、認知症患者さんに何ができるかをきちんと考えておく必要があるでしょう。

新オレンジプランのパンフレットを読む

平成27年に、厚生労働省は『認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)』を策定しました。

認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指し、

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nop_1.html

認知症高齢者の方が住みやすい町づくりを行うため、認知症の啓発、医療・介護施策等について解説されています。

ここで薬剤師を含めた医療者に求められているのが、行動・心理症状(BPSD)への適切な対処です。

行動・心理症状(BPSD)とは

認知症患者さんに起こる症状は、『中核症状』と『行動・心理症状(BPSD)』の二種類に分けられます。

『中核症状』は記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)など。認知症の患者さんであれば、誰でも起こる症状を指します。

それに対して『行動・心理症状(BPSD)』は、患者さんの身体要因や環境要因が関わって現れる症状です。抑うつ・興奮・弄便・徘徊・物盗られ妄想・・・といった様々な症状があります。認知症患者さんの7割に起こりうる症状で、全員に起こるものではありません。

このうち、家族や医療者が悩まされるのは『行動・心理症状(BPSD)』の方です。

まずはBPSDにはどんな症状があるかを理解し、薬剤師としてもBPSDの予防や対処を図ることが重要でしょう。

行動・心理症状(BPSD)の対処法

BPSDが見られる患者さんへの対応、第一選択は非薬物療法です。

非薬物療法、およびBPSDへの初期対応については、認知症・BPSD 介護マニュアル - 葛飾区医師会が非常に勉強になりました。

基本的な対応は薬局内・在宅中に関わらず、認知症患者さんを否定せず、根気よく傾聴することです。「ユマニ・チュード(Humanitude)」 は、フランスのイヴ・ジネスト氏が提唱したケア方法ですが、認知症患者さんに対して「人間らしく」接することで、BPSDが予防できると言われています。

1.見つめる
2.話しかける
3.触れる
4.寝たきりにしない

http://www.katsushika-med.or.jp/BPSD_manual.pdf

薬剤師が在宅中に行えるのは、1番と2番ではないでしょうか。

私が今まで在宅を担当した患者さんの中には、易怒性(ちょっとしたことで怒りやすい)が強い方もいました。最初は投薬中に怒り、薬をつき返されたりもしましたが、だんだん対処法を身に付けることができたと感じています。本マニュアルに載っているように、安心感を与える話し方を心がけ、怒りの対象から気をそらすように話すと、落ち着いて下さることが多かったですね。

決して「この人は何をしても無理」だと投げやりにならず、相手を対等な人間として根気よく接することが重要だと思います。

BPSDの薬物治療

非薬物療法による改善が見られない場合は、医師に相談して薬物療法が開始されます。詳しくはこちらをご参照ください

かかりつけ医のためのBPSDに対応する高精神薬使用ガイドライン(第2版)

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000140619.pdf


主に使用されるのは非定型抗精神病薬です。少量で開始し、ゆっくり増量することが原則。BPSDの症状に合わせ、使用される薬が変わっています。薬剤師は、BPSD治療薬による副作用や体調変化がないかを、慎重に経過観察しましょう。

加えて、薬剤師としてはBPSDを引き起こしうる薬がないかをチェックし、必要に応じて医師に中止・減量の提案をする必要があります。

BPSDを引きおこしうる薬は、もちろん抗コリン薬。

抗コリン薬が高齢者の認知機能に与える影響について、危険度を3段階で分類した表があります。それがAnticholinergic Risk Scale(ARS)。元論文はこちらです。※コホート研究

https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/414049#:~:text=The%20ARS%20ranks%20medications%20for,or%20her%20number%20of%20medications.

Table 4. にて3ポイント~1ポイントに分かれて分類されています。3ポイントに分類される薬が、よりBPSDへの影響が大きいとされます。


ということで、本日は薬剤師が認知症ケアにどう携わるかについてnoteを書きました。少しでも、認知症患者さん本人と家族が暮らしやすくなるお手伝いが出来たらいいなあと思っています。

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